【やり直し軍師SS-241】ロア、変装する。⑤
今回の更新はここまでです!
次回は4月2日から再開!
書籍発売のお祝い更新にできればと思います!!
絡んできたごろつきの1人を、瞬く間にのしたサザビー。その後はあっという間だ。もう1人は裏拳を、残った最後の1人は、喉を手刀で叩かれて悶絶しながら崩れ落ちる。
僕らが近づくころには、全員地面でのたうち回っていた。
「さすがだね、サザビー」
「街ではヴィザと、いえ、もういいです。それよりもそちらはどうでした?」
「見ての通りだよ」
僕が後ろを指させば、そこには衛兵のリーボックに引きずられた商人風の男が1人。そいつは3人のごろつきがのされているのを見て、がっくりと肩を落とす。
そんな様子を見ながら、リーボックが感心したように僕に話かけてきた。
「言われてみれば、単純な仕掛けでしたが……よくまあ、すぐに気づかれましたね」
リーボックが捕らえているのは、裏路地で露店を広げていた店主その人だ。この店主こそが、ごろつきどもの命綱。
やっていたことは単純だ。監視役の店主は大通りに一番近い場所に店を広げ、ごろつきは大通りから離れ、尚且つ退路を確保できる場所にいる露店を狙う。監視役の露店の店主は衛兵が来たら合図を送る。それだけ。
それだけなのだけど、なかなか捕まらなかったのは、この露店の店主が取り扱う商品を、その時々で変更していたからだ。事前に扱う品物と連絡方法を決めて、犯行に及んでいたのだろう。
衛兵を発見したらごろつき達に合図を送って、自分は店じまいの準備を始める。
通りで揉め事が起きているのだ。店を畳んで逃げるのは自然で、衛兵達も気にかけはしない。もし違和感を感じたとしても、その頃には監視役は人ごみに紛れてしまっている。
そこで僕はまず、手の空いている衛兵を使って、裏路地の露店を調べてもらった。大通りに一番近い場所で、なんらかの音を出せるような露店を出していて、尚且つやる気のなさそうな店主であることが条件。
ごろつきが1日に何度も繰り返したかりに来るのなら、監視役も新しい場所に店を開いているはず。該当する露店を見つけたら、大通りにある店舗に露店がいつから店を広げていたか確認してもらう。
さっき僕らと揉めた時に監視役も逃げたであろうから、少なくもと朝からその場所で商売をしていれば、その露店は対象から外して良い。
こうして候補を絞って探ってもらうと、条件に合致する人物が1人だけ発見された。そうしてそいつが店を開いていた通りの一番奥で、変装したサザビーが露店を開いていたら、案の定に罠にかかってくれたというわけだ。
リーボックと並んでやってきていたロズウェルも、うんうんと頷きながら、「さすが副団長ですね」と感心しているけれど、お忍びなので副団長呼びはやめてほしい。まあ僕もサザビー呼びしてるけどさ。
「とにかく解決して良かったよ。後はロズウェルに任せた。僕らはこれで」
そのように伝えて、まだ何か言いたげなロズウェルやリーボックを残して、僕とサザビーは改めて古道具屋を目指すのだった。
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「いやぁ。この雰囲気だよ。良いねぇ」
お目当ての古道具屋にやってきた僕は、ようやく宝探しを開始。
以前と変わらずに雑然と積み重ねられた、ボロボロの書物をひとつ手にする。
一冊一冊内容を確認するこの瞬間が楽しい。大抵は大したものではない。それでもページを開くたびになんだか少しワクワクする。
その中に一冊、普段なら買わないような微妙な代物だけど、目を通してみてもいいかなと思わせるものがあったので店主の元へ。
「これください」
僕が商品を差し出すと、店主は妙な顔して僕を見る。それから何度か首を傾げてから、お金を受け取った。なんだろう? 色々動き回ったから変装が崩れたりしているのだろうか?
その後も古道具屋を周り、いくつかの品物を求めたのだけど、どこの店主も何かこう、不思議そうな顔で僕を見る。
そして最後のお店。
ここは雑紙の束が豊富だ。雑紙は乱雑に箱に入れて売っている。新しい紙はそれなりの値段がするので、あまり懐に余裕がない者は、こういう雑紙をメモがわりにしたり、場合によっては契約書に使ったりもする。
本当に雑多な内容が書かれた紙の山なのだけど、これも稀に興味深い内容が書かれたものが見つかったりする。
しかも値段が安いので、文官時代はよく買い求めて、自分でまとめて冊子にして楽しんだりしていた。
雑紙を一枚一枚吟味して、気になったものを何枚か手にして店主に差し出すと、
「……あのう……もしやとはお思いますが……ロア様ではありませんか?」
と指摘された。
「え? どうしてわかったの?」
もう帰るだけなので特に隠すこともないし、今までの古道具屋の店主もどこか、僕ではないかと怪しんでいる風だったので、気になっていたのだ。
「そりゃあ、雑紙をあんなに丁寧に吟味するようなお客さんは、うちじゃあロア様くらいでしたので……」
なるほど、ぐうの音も出ない慧眼である。
「ロア殿には変装は向いていませんね」
なんてサザビーに呆れられながら、僕は城へと帰った。
その日以降王都で、
『大軍師ロア=シュタインが、密かに街をうろついて、悪事を働くものを成敗して回っている』
とか、
『変装して王都の店を回って、不正がないか確認しているらしい』
などと噂になっているとルファに聞いたのだけど、僕としては、なんとも言えない笑みを返すしかなかったのである。