【やり直し軍師SS-239】ロア、変装する。③
露店の店主に話を聞いた僕らは、その足で王都城門に併設されている衛兵の詰め所へ向かった。
王都に出入りする人々の玄関口であるこの場所には、多くの衛兵が詰めている。
元々衛兵は王都に滞在する騎士団の持ち回りとなっているので、今は第10騎士団や第六騎士団の兵が目立つ。
一部例外として、有事の際、王都に残って警備を行う専属の衛兵がいるけれど、数は決して多くない。
衛兵達が忙しく動き回る詰所で、「すみませーん」と声をかけると、カウンター座っていた衛兵の一人が「何か?」とこちらに視線を向けた。
「や、実はさっき裏通りで露天商が3人組に絡まれていた件で、話を聞きたいのですけど……」
僕が説明を仕掛けたところで、奥から、
「あ、お前達はさっきの!」
という声が聞こえ、先ほど裏通りで見た衛兵が大股でこちらへやって来た。
僕らと話していた兵士が「なんだ、知り合いか?」と問えば、「例の騒ぎで出ていったところにいた奴らだ」と答えながら僕らを睨むように見て、「なんだ、やはり何か知っているのか?」と詰め寄ってくる。
「いやぁ、むしろこちらが話を聞きたくてきたんですよ。さっきの騒ぎ、何度も起きているみたいですけど、それにしてはしっかり探されてもいませんでした。これ、上官には報告されているんですか?」
僕の質問に不快そうな顔をする衛兵。
「関係ないといったろう。いや、待てよ。なんでそんなに詳しく聞きたがるのだ? まさかとは思うが、やっぱりお前ら、“あいつら”の仲間で、さぐりを入れにきたのではないか?」
「そんなわけないでしょう」
「いいや、怪しい。ちょっとこっちへ来い。話を聞かせてもらう」
あごをクイと引いて奥の部屋を示す衛兵。ちょうど良い。ここで問答しているよりも話が早そうだ。
「あ、そうですね。助かります。詳しい話を聞かせてください」
「話を聞くのはこちらだといっているのだ! 黙ってついてこい!」
こうして奥の部屋に連れて行かれた僕ら。そこで「なぜあの場所にいた」「絡んでいた3人組は何者だ」「お前らは王都の市民か?」「なぜ執拗に知りたがる」などと矢継ぎ早に尋問される。
僕らと対峙している衛兵は、リーボックと名乗った。僕は自分の正体以外は正直に話すのだけど、リーボックは中々納得してくれない。
僕としては早く話を聞いて、さっきの3人組を探す糸口を掴みたいのだけど……。
少々面倒になってきたところで、部屋の扉がノックされ、一人の人物が顔をのぞかせる。
「何か怪しいやつを捕らえたと聞いたが?」
そのように言いながら入ってきたのは、まさかのロズウェル。
「あれ、ロズウェル、どうしたの?」
と僕は思わず言ってしまい、しまったと口を押さえるも時すでに遅し。ロズウェルは眉根を寄せながら、「誰だお前は、お前など知らん」と不審な目を向けてくる。
ここまできたら仕方ない。
「ロズウェル、僕だよ。ロアだ」
正体を明かしてもなお、
「ロア? どこのロアだ?」
とにべもないロズウェル。
そんなロズウェルの表情がみるみる変わったのは、僕の背後に視線を移した時。
なんだろうと振り向けば、いつの間にか変装を解いたサザビーが立っていた。
「ロズウェル、そちらは変装したロア殿ですよ。今日はお忍びで街へ」
サザビーの説明を受けて、サザビーと僕の間で何度も視線を動かすロズウェル。
僕も変装を解けば良いのだろうけれど、できれば一軒くらいは帰りに古道具屋を覗きたい。そのためにこのまま続けたかった。
「え? え? え?」
なおも混乱するロズウェルに、サザビーが畳み掛ける。
「ロズウェルならロア殿の声は何度も聞いているでしょう? わかりませんか?」
そのように言われたので、僕も改めて「仕事、お疲れ様。今日はリュゼルは?」と声をかける。
「ま、まままままさか、本当に副団長ですか!? すみません!!」
腰を直角に曲げて頭を下げるロズウェル。
「いや、この姿じゃ分からなくて当然だよ。かえってなんだか申し訳ない」
「いえ、声で気づくべきでした。すみません!」
慌てるロズウェルの様子を、唖然として見ているのはリーボックだ。
「あの、ロズウェル様、この方は一体……」
「お前もすぐに謝れ! こちらは第10騎士団副団長のロア=シュタイン様だぞ!」
「え! ええ!? まさか!? 大変な失礼を! も、申し訳ございません!!」
「いやいや、今日はお忍びだから、気づかなくても当たり前だから」
リーボックは職務を全うしようとしただけだろう。僕のほうが不用意だった。むしろなんだか申し訳ない気持ちになる。
こうしてひたすらに謝る2人を宥めると、僕らはようやく詳しい話を聞き始めることができたのである。