【やり直し軍師SS-24】文官達の宴(下)
「しかし、あのロアがなぁ……、ラピリア様となぁ……」
アルコールも程よく入って、多少の緊張もほぐれたデリクは気軽にロアとラピリア様に絡んでいた。
「まぁ、僕もちょっと今でも信じられないけどね」
そんな風に言いながらも、時折ラピリア様と二、三言葉を交わす様は、じつに仲睦まじく微笑ましい。
戦姫ラピリアといえば、いつも凛々しい表情で王宮内を闊歩している場面しか見たことがなかったが、こんな表情もできるのだなと、当然のことにひどく感心してしまう。
っつーか、ラピリア様、めちゃくちゃ可愛いな。なんだかロアに腹が立ってきた。
「でも最初に婚儀を上げたのがロアってのも驚いたよ。俺はてっきりデリクのが先だと思っていた」
口いっぱいに食べ物を頬張りながら、ヨルドがそんなことを言う。確かに、自分で言うのもなんだが、俺はそこそこモテる。主に酒場でだが。
「それは僕も思った」
ロアもヨルドに同意すると、ラピリア様が「デリクは良い人はいないの?」などと聞いてくる。
「いやー」
俺は返事を濁しながら、ワインを煽る。どうもなぁ、まだ良いかなという思いが強いんだ。
少し話の矛先を変えようかと、横目で他の奴らの様子を窺ってみる。
兵器組はといえば、ホーネットはヨルドと一緒で飲み食いに夢中だ。ジュディアノは小声でレニーと何やら話している。内緒話をしているのではなく、元々声がちっちゃいのでいつものことだ。
そしてドリュー。料理よりも食器に興味があるようで、いくつかのカトラリーを組み合わせて、積み木遊びのようなことを始めていた。
……個性的すぎるだろ、兵器組。
「そ、そういえばロア、最近はドリュー達と新しいもの作ってないのか?」
他人に話を振るのを諦め、話題を変えた。
「うんまあ。今は農機具の改良の方に力を入れてるんだ。……武器はしばらく必要ないはずだから」
「農機具、か……そうか。平和になったんだな。俺たちみたいにずっと王都にいると、戦争もあんまりピンときてないところがあったが、ロアがそういうと、なんだか実感が湧く気がするわ」
「そうだね。平和になったんだ」
そんな風にいうロアも、そしてラピリア様も、ウィックハルト様も、思いのこもった微笑を浮かべる。やはり前線に出ていた人らは俺たちよりずっと感慨深いのだろう。
「じゃあ、ドリューの”あれ”も、新しい農機具の何かか?」
少し話している間にも、複雑な形に変化してゆくカトラリーを指差しながら聞くと、「さあ?」とロアも苦笑する。もはやドリューが何をしているのか少し気になってきた。
「……ああ言うときに声かけても大丈夫なのか?」
「多分大丈夫だよ。無駄な時はどうせ声をかけても無反応だから」
慣れてんな、ロア。ま、とにかく声をかけてみるか。
「ようドリュー、それ、何作ってんだ?」
ドリューは手を止めて、顔だけくるんとこちらを向く。
「……これ……なんでしょう?」
「いや、わかんねえのかよ!」
思わず突っ込んでしまうような返事。
「ジブン、最初は農機具の改良に使えないかと思っていたんですが……なんだと思いますか? これ?」
「……なんだと思うって……フォークとかが鍬の代わりみたいなものか?」
「あー、なるほど。そうかもです」
どう言う会話だ、これ?
ただまあ、この日のこんな会話がきっかけになって、俺は時折ドリューと会話を交わすことになった。
例えば一人で壁に向かってぶつぶつ言っているドリューに、「何してるんだ? 頭の上、鳥が巣を作ってるから気をつけろよ」なんて声をかける程度に。
それから数日後のことだ。俺が上司に呼び出されたのは。
「は? 出張ですか? 旧リフレア領に?」
「ああ。お前とヨルドに補助を頼めないかと、兵器部のほうから打診があった」
聞けば、燃える水とかいうものが採取できる場所が見つかったらしい。詳しくは知らないが、どうも敵がフェマスで使用してこちらに大きな損害を与えた代物だとか。
それを聞いたドリューが「すぐに見に行きたいです! ジブン一人でも行きます!」と言って実際に王都を飛び出して、王都から少し行ったところで簡単に行き倒れた。体力が無さすぎる。
今やドリューは国にとっても貴重な人材として認識されている。その要望を無視できない程度には。なので急遽、燃える水の研究チームが結成されることになったとのこと。
「……それなら兵器部の部下で良いのでは?」
「いや、それが先日ドリューが発明した農機具。あれの増産を王がご命じになられたばかりで大忙しらしい。ホーネットとジュディアノはとても今、王都を離れられないと」
「……で、なんで俺たちが?」
「お前らドリューと仲いいだろ? あの、人の話を聞かないドリューが耳を貸す貴重な人材として認知されてるぞ?」
「……マジですか?」
「ああ。もちろん護衛などは第10騎士団が協力してくれる。レニーが折衝を担当するそうだから、詳しくは彼に聞いてくれ」
こうして、俺とヨルドは、俺たちにとってはまさかの大遠征に旅立つことになったのである。
この続きはまた書けたらいいなと思っています。




