【やり直し軍師SS-235】グリードル⑦ 危機
ドラクはバウンズの本拠地を混乱なく掌握したものの、これで全てのバウンズ領を手に入れたわけではない。
バウンズの配下であった周辺貴族も押さえて初めて、支配下に置いたと言える。
そのためドラクはケイーズの街に滞在し、貴族達に釈明の機会を与えると告知した。
自らの意志でケイーズへ足を運び、ドラクへ跪くのであれば、所領の10分の1ほどを安堵してやる。それが嫌なら戦って死ね。と。
ウルテア南部で同様の告知を発した時は、所領の半分であった。それに比べるとかなり厳しい命令ではある。
だが、バウンズに同調して、ドラクや、サリーシャの父を陥れたのだ。生かされただけありがたいと感じられぬのであれば、それはもはやドラクの慈悲の対象ではない。
バウンズが飼っていた貴族は実に25家にも上る。告知後数日で、14の家はドラクの元へやってきて、服従するために列を成した。
いずれも顔色悪く。床に額を擦り付けんばかりの態度でドラクの前に進み出る。
「許す。以後グリードルのために励め」
「はっ! ははぁ!!」
「だが。当面は人質を差し出してもらう。くれぐれも、余計な気は起こさぬことだ」
「も、もちろんでございます!」
どの貴族も判で押したような応対だ。そうして告知から10日。
「もう、これで全部だな」
10日待ってやってこなかった11の貴族達。一部言い訳がましい手紙を送ってきた家もあったが、ドラクは無視した。
命令は街に来てドラクに頭を下げろ、だ。他の駆け引きや時間稼ぎなど無用である。
「フォルク!」
「はい!」
呼ばれて近寄ってくるフォルクへ、一枚の紙を渡す。書かれているのは25の貴族の一覧。ドラクの命令に応じた家には斜線が引かれている。
「本日この時を以て、俺の命令に応じなかった貴族は取り潰しとする。各地で出撃を待つジベリアーノ達へ、速やかな殲滅を命じよ。いかなる理由があれ、生き残りは許さん。当該の貴族は一族共々根絶やしにせよ」
「はっ!」
この10日間、ドラク達はただ漫然と貴族がやってくるのを待っていたわけではない。バウンズ領内にある砦の接収や、付き従わぬ貴族を攻め立てるために、各地へ兵を分散させ準備を進めていた。
フォルクが手配のために退出すると、ドラクは一度大きく息を吐く。
あっけないものだな。
バウンズといえば、ウルテアにおいて王に次ぐ最高権力者だった。それが、最後は誰の目にも触れられることなく野に骸を晒している。バウンズの死体がどこに転がっているのか、ドラクも知らない。
仮に残った貴族が抵抗したとしても、今のドラクからしたら児戯に等しい。まとまった兵も、目立った指揮官もいない貴族では、精々200も兵を差し向ければそれで終わりだ。
この調子なら、二、三か月もあればバウンズ領はグリードル帝国の傘下に入るだろう。
そう考えていたのだが、それからひと月後、状況は急転する。
「負けただと!? エンダランドがか!?」
「はっ! ランビューレが当領内に侵攻開始、対峙した我が軍は潰走!」
「エンダランド達は無事か!?」
「詳しいことわわかりませんが、ネッツ様ら一部の部隊が全滅に近い打撃を受けたとか……」
「ネッツが!? ちいっ!! それで、ランビューレは!?」
「ランビューレにも相応の被害が出た模様。一度退却したようです」
「そうか。とにかくすぐに戻る! トレノ! バウンズ領の統治のために5000の兵をお前に任せる! あとは上手くやれるか?」
「お任せください」
「ジベリアーノ、フォルク。至急帝都に戻るぞ!」
「「はっ!!」」
こうしてドラクは、大急ぎで帝都アランカルへ帰還することになったのである。
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「エンダランド! 無事か」
「ドラク、いや、陛下。申し訳ありません。不甲斐ないことに……」
アランカルに到着して早々、出迎えたエンダランドが深く頭を下げる。
「気にするな! それで、ネッツ達はどうなった。まさか……」
「いや、傷は負っているが命は無事だ。とはいえ、それなりに重症。今は療養している」
「……そうか。命が助かったのなら、よかった」
「それで陛下、すぐにでも会ってもらいたい者達がいる。孤立して全滅しかけたネッツの部隊を救出してくれた恩人達だ」
「恩人?」
「ああ。元々グリードルに義勇兵として参加するためにこちらへ向かっていたところで、戦闘に遭遇したらしい。そして我らに味方した。指揮官を呼んでくるから謁見の間で待っていてくれ」
「分かった。会おう」
鎧姿のまま玉座で待つドラクの前にやってきたのは、目つきの悪い男と、一見して目を引く大剣を背中に背負った将。いずれも若い。
「ドラク=デラッサ陛下にあらせられますか」
口を開いたのは目つきの悪い方。
「俺がドラクだ。今回の戦いで、助力してくれたそうだな。まずは感謝する」
「滅相もありません。もとより陛下のお力になりたく、同志を集めてグリードルを目指していたのでございます。早々にお役に立てたこと、望外の喜び」
「歓迎しよう。名を聞かせよ」
「私はリヴォーテと申します。隣はガフォル」
リヴォーテは名乗りながら、ドラクの鋭い視線をまっすぐに見つめ返した。




