【やり直し軍師SS-227】山村の娘達④
寝ずに備えろ、双子からそう言われた私は、言われた通りに深夜まで寝ないように頑張った。けれどいつの間にか睡魔に負けて、深い眠りの中にいた。
そして、村中に響き渡るような悲鳴で飛び起きる。
窓を見れば朝日が差し込んでいる時間だ。どれほど寝てしまったのだろうか。
私はベッドから慌てて降りると、同じく何事かと起き出してきた両親が止めるのも聞かず、寝巻きのまま家を飛び出す。
声は村の入り口の方からだ。見れば、すでに数人の大人が入り口に集まっている。そのうちの1人がへたり込んでいた。あれはマリーさんだ。多分、さっきの叫び声はマリーさんのものだろう。
ようやく入り口に辿り着いた私は、思わず「ヒッ」と小さな悲鳴をあげてしまう。
その直後、誰かが「見てはいけない!」と言い、背後から私の両目を覆い隠した。
とはいえ最早手遅れだ。私ははっきりと確認したのだ。血だらけになったユイゼストとメイゼスト、その足元に2つの首が転がっているのを。
私はそのまま人だかりから引き離されてしまった。それでも、遠くからなんとか状況を把握しようと首を伸ばす。
転がっていた物のひとつが、昨日もやってきていた旅人だとわかると、大人たちからにわかに2人に向かって怒号が飛びはじめる。
だが2人は全く動じることなく、
「こいつらは野盗だ」
「この旅人もグルだ」
「こいつらは村を襲おうとしていた」
「だから片付けた」
と、冷静に口にしていた。
大人に囲まれてしまい姿は確認できないが、声は元気そうだ。ということは先ほどの血は2人のものでは無いのかも知れない。
淡々と説明する双子に対して、しかし大人は聞く耳を持とうとしない。
それどころか後からやってきた中から、声を荒らげる人が増えてきた。
「何を馬鹿なことを言っている! お前ら、このお方が持っていた金貨に目が眩んだな! なんてことをしてくれたのだ!」
「双子は災いを呼ぶというのは、やはり間違いではなかった! 恐ろしい!」
「こんな娘たち、村に置いておくことなどできないわ! 今すぐに出てゆきなさい!」
激昂しているのは双子を快く思っていなかった人たちだ。あまりの言葉に、私は思わず耳を押さえる。
もちろん中には「まずは事実を確認するべきだ」という声も聞こえたが、罵声の方が大きい。
誰も彼も、なんだか高揚している様に感じる。普通じゃない。
思えばこの村でこの様な凄惨なことが起きたなんて聞いたことはなかった。あまりに現実的でない状況に、皆、混乱している。
こうして、そのまま追い立てられるように、双子は森の中へと消えていった。
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騒がしい店内で、俺たちのテーブルだけ沈黙が漂う。いや、ドリューだけは俺の皿を指差して、「デリク、その料理貰っていいですか?」と聞いていた。
軽い気持ちで聞き始めた双子の過去。想定外に重たい話で、皆言葉を失っていたのだ。俺は沈黙を打破する言葉を探し始める。
「その……なんだ、そのまま双子はずっと……?」
けれど聞かれたモリスはあっけらかんと、
「ううん。実はその夜には帰ってきたらしいの」
「へ?」
「村人には気づかれないように普通に出入りして、家でご飯を食べたりしてたのよ。私もびっくりしたわ」
「ええ?」
「2人が出入りしているのを知っていたのは、ユーとメイっちの両親と私だけだったけどね。そんな生活が半月くらい……もうちょっと続いたかなぁ」
「……良く気づかれなかったもんだな」
「ね。そういう勘。あの子達すごいから」
「そんで、どうなったんだ?」
「うん。とにかく重大事件だってことで、村から領主さんに報告がいって、騎士団が調査することになったの。そしたらね、突然2人が『騎士団に入ることになった』なんて言い始めて」
「はあ?」
「そういう反応になるわよね。私たちもそうだった。けど、このままこの村にいるよりは……って。2人の両親も納得して送り出したの」
「騎士団ってそんな気軽に入れるのか?」
「さあ? でも、結局、騎士団の調査で2人の言っていることが事実だと判明して、その上数年したら双子の美人騎士の噂が私たちの村にも届く様になって、双子を追い出した人たちは、報復されるんじゃないかって、そりゃあ顔を青くしていたわね」
「あの双子が怒ったら、それこそ村ひとつ消すのは簡単そうだな。で、村は大丈夫だったのか?」
「まあ、誰も死んでないわよ」
「それはちょっと意外だな。絶対仕返ししそうなのに。やっぱり生まれ故郷だからか?」
そんな俺の言葉に、モリスは「ふふふ」と微笑む。
「それがね、2人が村を出て有名になった後の話なんだけど、ある日突然、2人の部下っていう騎士の人がやってきたの。3組の幼い双子を連れて」
「双子を?」
「ええ。でね、村長に2人からの手紙を差し出したのよ。袋いっぱいの金貨を添えて『孤児となったこいつらの面倒を村で見ろ。大切にしろ』って、手紙にはわざわざ双子を快く思っていなかった人たちの名前を羅列してあった。名前のあった人たちは震え上がっていたわ」
「どういうことだ? っていうか、双子の孤児ってそんなにたくさんいるのか?」
「いないわよ。だからあの2人、わざわざルデク中を探し回って連れてきたみたいなの。しかも、その後も4組。都合7組の双子の面倒を見るようにって。毎回しっかり手紙を添えて」
「?」
「まだ分からない? ちなみにデリクは私たちの生まれた村の名前、知っている?」
「〇〇〇〇だろ?」
「そう。でも、今は故郷をその名前で呼ぶ人は一人もいない。村の人間だってほとんど呼ばない。みんな、口を揃えてこう呼ぶわ。“双子の村”って、ね」