【やり直し軍師SS-225】山村の娘達②
私たちの村は本当に小さくて、子供は10人くらいしかいないようなところだったわ。
そんな村の中で、ユーとメイっちは少し悪い意味で目立った子達だった。
悪い意味って言っても、あの2人が悪いことをしたとかじゃないのよ……。まあ、全く無かったとも言えないけれど。
問題だったのは村の因習。『双子はよくないことを招く』村にはそんな言い伝えが昔からあったの。
ある程度大人になった今は、あの因習がどういう意味だったかは多分、想像がつく。
山の中の小さな集落では、きっと昔は食べる物も限られていて、子供を一人育てるのも大変だったのだと思う。だから、予定外に食料を消費する双子は、村にとっては“良くないこと”だったのでしょうね。
ええ。そう。今は全くそんな心配はないわ。ルデクは豊かだし、うちの村だって、子供が一人増えたくらいで困窮するようなことはない。
けれど言葉は時として人を縛り付ける。昔からそのように刷り込まれていた村人の中には、今でも双子=良くないものという印象を持っている人たちがいるの。
そんな人たちは、あの2人に心無い言葉を投げかけたり、小さな嫌がらせをしたりしていたの。
でも、あの2人の性格を見れば分かるように、ユーもメイっちもそのままやられっぱなしで済ませるわけない。
しっかりとやり返して、怒られる前に逃げる。そんなやり取りがよく見られていたの。
そんな毎日の中で、“あの事件”が起こったのよね。
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「あ、こんなところにいた。ユー! メイっち!」
村から少し離れた山中。小さな泉のほとりに立つ、大きな木の上に2人はいた。枝の上で器用にうつ伏せになって、ダラダラしている。
「おうモリス」
「どうした?」
「ネスおばさんが探していたわよ。また何かしたの?」
「母がか?」
「うええ。めんどー」
そんな風に言いながら、2人は身軽に木から飛び降りる。いくら山育ちとはいえ、こんなふうに獣のようなしなやかな動きを見せる子供は双子だけだ。
双子はまるでそれが当たり前のように、小さな頃から自由自在に山の中を走り回っていた。
「それで、今回は何をしたの?」
「何したっけ? ユイ」
「コッツの爺さんちに蛇を投げ込んだやつじゃん? メイ」
「へび!? なんでそんなことを……いえ、またコッツさんが余計なことを言ったのね」
「噛まれても毒のないやつだぞ」
「そうだ。わたしたちは気遣いができるからな」
「もー。何を言われても無視しておけばいいのに」
「そういうわけにはいかん」
「ああ、それはジジイのためにもならん」
「とにかく、戻りましょ。そろそろお昼だし」
「えー」
「仕方ない」
双子はいやいやながら、私についてくる。背後でぶーぶー言っているけど、いつもの事なので無視だ。
村に戻ると入り口に大人が集まっていた。中には私の父の姿もある。
「お父さん、どうしたの?」
「ん? ああモリス、おかえり。いや、こちらの旅人さんの話を聞いているんだ」
人々の中央には、ひとりの旅人が座っていた。笑顔なのだけど、なんだか目が笑っていないような、少し嫌かな感じのする人。その人は私たちを見やると、
「やあ、お嬢ちゃんたち。こんにちは。お嬢ちゃんたちは綺麗な服や、美味しいお菓子を食べたくないかな? 私はこの村にたくさんの良いことを運びにやってきたんだ」
なんて言っていた。
私がなんと答えて良いか迷っていると、父が「大人の話だ。さ、子供たちは向こうで遊んでいなさい」と促してきたため、背中を押されながらその場を離れる。
なんだか釈然としないまま、それでもまずは双子を連れて、双子の家へ。
「おばさーん! 2人、見つけたよ」
家に声をかけると、双子の母が顔をだす。
「あらあら、モリス。いつもありがと! 一緒にお昼を食べて行って! ユイゼスト、メイゼスト! お昼を食べたらお小言があります!」
「まあまあそう怒るな」
「こころおだやかに過ごそうぜ」
「誰のせいで怒っていると思っているの! 全く!!」
そんな風に言いながら、2人の頭を軽く叩くと家に招き入れるネスさん。いつもの風景だ。
こうして私はネスさんのポージュをご馳走になって、夕方には自分の家に帰ったのである。
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「開発協力?」
「ああ。近隣の村に協力を仰いで、新しい木材工場を作る計画らしい。完成の暁には、協力した村の木材を高く買い取ってくれる」
夕食の場で私の両親はそのような会話をしていた。私にも、昼頃の旅人のことだとピンとくる。
「そんなの、本当の話なのかねぇ」
母さんは少し懐疑的だったけれど、お父さんは目を輝かせながら熱弁する。
「その人の革袋にはぎっしりと金貨が入っていた。資金はしっかりしていそうだ。話を聞く限り、信用はできると思う。明日、うちの村がどのくらい出資できるか、その人と話し合うことになっている」
「そりぁあまた、随分と慌ただしい……」
「協力する町村の数は限られているんだ。先を越されたらもう出資もできない。なあに、村人それぞれが金を出し合えば、負担はそこまでじゃない。それで村が潤うなら良いことだろう?」
「でもねぇ……」
なんだか不穏な両親の会話を聞きながら、その日の夜は更けていったのであった。