【やり直し軍師SS-223】ウルテア騒乱14
今回のドラクの話はここまで!
次から別のお話です!
降伏の申し出のために、ドラクの前にやってきたのは2人の壮年の騎士だった。
「貴殿がドラク王、いや、ドラク陛下にあらせられるか? 私はジベリアーノと申す。隣はトレノ、私の腹心にございます」
「俺がドラクだ。単刀直入に聞こう。俺に降りたいと言うのは本当か?」
「事実です。私と、この戦場に残った1200の部下を、貴国に引き受けていただきたい」
「理由を聞いても良いか? はっきりいって、親衛隊からすれば俺は憎むべき天敵であると思うが?」
「それもまた事実ではありますが、デドゥ王には討たれるだけの理由があり、今、多くの民が陛下を支持しておられる。それが全てです。この場に残った我らは、ウルテアの民を守るために練磨してきたのです。我らの本分を考えれば、選択はひとつ」
「ウルテアが無くなったとしても、か?」
「民が入れ替わったわけではございますまい」
ジベリアーノは平然と答える。ドラクはその声音に嘘はないと判じた。
「理屈は分かった。もうひとつ聞く。なぜ親衛隊は退却したのだ?」
「……正直、私も状況の全てを把握しているわけではありません。多くの推測が混じる話となりますが、構いませんか?」
ジベリアーノは淡々と言った。その短いやり取りだけで、充分に良将であることが伝わってくる。
「構わん」
「では、おそらくですが、内部分裂が起きたのだと思います」
ジベリアーノによれば、今回被害の大きそうな戦地に配されたのは、バウンズと距離をとっていた指揮官や兵士が多いらしい。
その扱いに不満を募らせていた王族合流派の面々が、ジベリアーノが誘引を仕掛けたのを退却と勘違いして、戦場を離脱したのではないかということだった。
「流石に2000もの兵士が突然離脱しては、本隊も撤退せざるをえません」
「なるほど」
ジベリアーノの説明は、以前にエンダランドの手の者が探りを入れた時の情報と合致する。まず間違いなさそうだ。チラリとエンダランドの方に視線を向ければ、エンダランドは無言で肯首した。
「分かった。お前達を歓迎しよう。だが、この先は今までの同胞が敵となる。それで構わんのだな?」
「それを言うなら、我々が戦っていたのはかつてウルテアであった国の義勇兵。すなわち、我々が守るべき民草です」
「はっ! ちげえねえ! よし気に入った。ジベリアーノ、それにトレノと言ったな。今後は軍議には参加しろ! お前達の力を借りたい!」
「はっ。ありがとうございます」
こうしてドラクとバウンズの初戦は、バウンズ側の自滅という形で幕を下ろした。
バウンズからすれば、8000のうち2000が反旗を翻して北へ流れてゆき、1200が投降するという耳を疑うような大敗。
戦闘での被害も鑑みれば、親衛隊はたった一戦で3400以上の兵を失うことになった。
こうして上々の戦果を上げたドラク達は、悠々と王都へ帰還したのである。
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グリードル帝国から見て北に、平野の盟主を自称するランビューレ王国がある。
この国には三宰相と呼ばれる、周辺国にも名の知られた重臣がいた。
今、ランビューレの王、カリートの前で跪いているのは、若くして三宰相の席の一つに座る俊英。
「スキットよ、お主はどう思うか?」
王に問われたスキットは、表情を変えることなく口を開く。
「ウルテアの王妃は黒い噂の絶えぬ御仁。力を貸す事にあまり賛同したくはありません。が、ドラクの勢い、無視はできませぬな。ルガー王国の動きが不穏ではございますが、状況的には兵を起こすべきかと」
「であるか……。ならいっそ、ウルテアの王妃が陣取る地域から喰らう、という選択もあるな」
「それもまた一手かと。取り込みますか?」
「可能であればその方が良い。できるか?」
「少々手を打ってみましょう」
「よし。では、我らはその結果を見て動く。良いな」
「かしこまりました」
王の名を受け、スキット=デグローサは深く頭を下げるのだった。
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平野の最北西にある国、レグナ。
ここに、目つきの悪い少年兵がひとりいた。
才気煥発ながら、どうにも生意気な性格で上官から疎まれており、つまらぬ日々を送っている。
そんな不遇の日々であったからであろうか。彼は平原の東、ウルテア王国で起きた事変に、大きな興味を持った。
悪王を討ち果たし、民の人気高く、瞬く間に新たな国を打ち立てた人物。
まるで、歴史上の英雄のような活躍に、いつしか彼は夢中になっていた。
そうしてある日、ソリの合わなかった上官との言い争いの末、その上官を近くにあった川に突き落とすと、そのまま国を飛び出したのである。