【やり直し軍師SS-210】因縁③
ヴイオリの街を出立したネルフィア達は、ベルトロ地方にある、モゲットという街へと向かう。
モゲットはこの辺りを統治する貴族の領主館がある。この貴族こそ、デジェストの一味と接触したと目されている人物であった。
ネルフィア達の主な役割は各チームへの司令と、件の貴族、カンヴィナス=サネーの動向を探り、必要とあれば始末すること。
モゲットの街で個々に宿を取り、人々が寝静まるのを待って、4人はネルフィアの部屋へと集まる。
「それで、どうすればいいですか? いつものように、私が潜り込みます?」
最初に口を開いたのは小鳥。小鳥ならばなんの問題もなくカンヴィナスの屋敷に潜り込めるだろう。
しかし、そんな小鳥に対してネルフィアは小さく首を振る。
「今回はやめておきましょう。この時期に街の人間でない者が使用人として雇われれば、デジェストが警戒するかもしれません。どこかに忍び込むとすれば……そうですね、例えば出入りの商家くらいなものですかね」
ネルフィアの言葉を受けて、麦穂が親指を自らに向ける。
「なら、俺がそちら方面を探ります。潜り込めるようなら、そのまま潜り込みます」
「分かりました。よろしくお願いします。手頃な商家が見当たらなければ、別の手を考えましょう」
麦穂が頷いたのを確認して、今度はサザビーが手を挙げる。
「俺は予定通りで問題なさそうですね」
「はい。サザビーは使者としてカンヴィナスに会っていただきます」
実はここに来る道中で、後から追ってきたニーズホックの部下が気になる情報をもたらしていた。
カンヴィナスの使者を名乗る人間がやってきて、『戦巫女ルファ=ローデル様に慰問に来ていただけませんか?』と依頼してきたという。
ニーズホックが理由を問えば、カンヴィナスの治める地域は未だにリフレアへの気持ちを断ち切りがたい民が多く、カンヴィナスも心を痛めていると。民の心を安らげるために、北ルデクでも人気の高いルファに足を運んでもらいたいとの事だった。
そこで北ルデクの統治者たるニーズホックに対して、本国への仲介を頼んできたというわけだ。
このタイミングでこのような依頼。偶々とは考えにくい。なんらかの意図があるのは間違いない。
そこにでニーズホックは一計を案じる。
『ちょうど第10騎士団の使いで、サザビーがこの地に来ているの。詳しい話を聞くために、カンヴィナスの元へ向かうように伝えておくわ』
そのように返事して使者を帰すと、すぐにネルフィア達に連絡して寄越したという訳だ。
ニーズホックがサザビーを指名したのは気まぐれではない。サザビーはロアの側近、ロアの八槍の1人として有名人。そんなサザビーが詳しく話を聞くというのは自然な流れと言える。
サザビーは今回の任務に当たり、変装して動き回る予定であったが急きょ変更。ひとり堂々とカンヴィナスに会うことになった。
「えー、じゃあ私はどうすれば良いですかー」
小鳥がわざとらしく唇を尖らせた。そんな小鳥に向かって、ネルフィアは微笑む。
「私と小鳥はしばらく街中で情報を集めましょう。私は北半分を受け持ちます。あなたは南を」
「地味じゃないですかぁ? それに、街の情報なら花屋ちゃんがすでにやっているじゃないですかぁ」
この辺りの諜報を担当している花屋の報告を受け、ある程度の情報は頭に入っている。だが、ネルフィアは微笑みを絶やさずにシヴィに続ける。
「まずは己の目と耳で確認なさいと教えたはずですが? あなたは最近、情報収集を怠っているのですか?」
そのように指摘されたシヴィは慌てて手を振った。
「と、とんでもない。嫌だなぁ。ちょっとした冗談ですよ。南半分の調査、この私にお任せください!」
言葉の音量は小さいけれど、力強くシヴィが宣言。
「では、よろしくお願いします」
「は、はい」
暗がりの中でも若干顔色の悪いシヴィを見ながら、苦笑したサザビーが話題を変える。
「それにしても、ルファちゃんを呼ぶ理由って、なんでしょうね?」
「さて、あの子に関しては様々な理由が考えられますからね。ザックハート様の義娘で、第10騎士団のロア様の側近で、王子のお気に入りですから」
「……確かに、どの方向に対しての企みかわかりませんね」
「ただ、私が最も怪しいと思うのは……」
「思うのは?」
「第10騎士団、厳密にはロア様でしょうか? ルファが出るとなれば、第10騎士団は必ず同行しますし、ほぼ間違いなくロア様も一緒でしょう。ロア様を釣り出したいのでは、と」
「なるほど。まぁ、リフレアとの因縁を考えても、それが一番あり得そうですね」
「ですが先入観は良くありません。まずは全ての可能性を考えながら、調査をお願いします」
そんなネルフィアの言葉を潮に話は終わり。
その後10も数えぬうちに、部屋にはネルフィアひとりが残されていた。