【やり直し軍師SS-21】凱旋式とお茶会③
「は、初めまして! レーレンス王妃様! 私、デサント=ホグベックの娘、セシリアでございます! い、以後お見知り置きを!」
「私はソレック家の当主、ヴォイル=ソレックの娘でオーパでございます。レーレンス王妃様におかれましてはご機嫌麗しく」
ガチガチで挨拶する2人に向かって、王妃レーレンスは柔らかく微笑む。
「セシリアさん、オーパさん、私お会いできて嬉しく思います。でも肩の力を抜いて楽になさって。あなた達のお茶会に私がお邪魔したのだもの。あまり硬くなられると困ってしまいますわ」
「レーレンス様のいう通り、楽にして大丈夫よ。今日は非公式の場ですもの」
ラピリア様が添えた言葉に、レーレンス王妃はぽんと手を叩く。
「そう、それよね、ラピリア。今日は非公式。立場は考えずに、ラピリアのお惚気話を楽しみましょう!」
「ちょっ、レーレンス様!」
既に少し顔の赤いラピリア様。それにしても2人は随分と気安い仲みたいだ。私の不思議そうな表情に気付いたラピリア様が説明してくれる。
「レーレンス様は私が子供の頃からの知り合いなの。お祖父様に連れられて、王宮にやって来た時によく可愛がってもらっていたわ」
ラピリア様のお祖父様といえば、有名なルデクの大鷲、ビルドザル=ゾディアック様だ。子供の頃から王宮に来ていたあたり、ゾディアック家はやっぱり名家だと感心する。
「あの頃のラピリアはこんなにちっちゃくて、可愛かったわねぇ。それがもう、婚約を交わす歳になるなんてねぇ」
ふふふと笑う王妃に「もう、とにかく、お茶を準備しますから座ってください!」と着席を促すラピリア様。
こうして漸く席についた私たちの前に、お茶の準備が進められる。同時に、ラピリア様がいそいそと瓶詰めを取り出し始めた。
「あ、ジャムの瓶詰めですか? そんなに沢山」
「ええ、色々な種類のジャムを作ってあるの。全部開けてあげられれば良いのだけど、このご時世だから、どれか選んで一つだけ。……セシリアが選ぶ?」
「え? 私が? でも……」
私がこの中でいちばんの年下だ。まして目の前には王妃様。
「それが良いわね。セシリアさん。選んでいただける?」
その王妃様にご指名されては、嫌とはいえない。私は真剣に瓶詰めと睨めっこする。幸い、瓶詰めにはそれぞれ何のジャムか記載があるので、ある程度の味をイメージできた。
「あ、これ……」
「あら、セピニャとナナサキ花のジャム。良いじゃない」
セピニャは柑橘系の果物としては身近な存在だ。ホグベック家の庭の片隅にもセピニャの木が植えてある。
「ナナサキ花というのはあまり聞きませんね?」
オーパさんの言葉に、ラピリア様は良くぞ聞いてくれたとばかり胸を張った。
「実はこれ、南の大陸の植物なの」
「南の? でもジャムにするのにどうやって……」
「南の大陸の食用ドライフラワーなのよ。ドライフラワーでも香りが強いから、試しに使ってみたらって、ルルリア……帝国の第四皇子夫人から聞いたのよね」
「帝国の第四皇子の御夫人……ラピリアさんは交友関係が広いですね」
感心しつつ、ジャムを見つめるオーパさん。王妃様からも異論はなく、このセピニャとナナサキ花のジャムを開封することになった。
蓋を開けた瞬間に、嗅ぎ慣れない柔らかな花の香りが漂う。
「良い香り……」
「多分大丈夫だけど、悪くなっていないか、先に少しだけ私が味見をするわね」
そう言ってジャムを小匙に掬い、口へと運ぶラピリア様。
「うん。大丈夫。さ、紅茶に入れて楽しみましょう」
そんなラピリア様の言葉に、私はおずおずと手を挙げた。
「あのう……」
「どうしたの? セシリア?」
「その……私にも少しだけそのまま舐めさせて貰えませんか……」
はしたないとは思ったけれど、そのままの味がすごく気になる。多分、ここで食べなければそうそう口にすることはないだろうし。
「……あ、それなら私も……」
私に続いて、同じく少し恥ずかしそうに手を挙げたオーパさん。
そして、
「それなら私も食べてみたいわ」
そんな風に言って、同じように手を挙げた王妃様。
それぞれの顔を見合わせて、私たちはしばし笑い声を上げたのだった。




