【やり直し軍師SS-205】ウルテア動乱⑥
「まず当たり前の話だが、我たちを取り巻く国について把握しているか?」
オリヴィアの言葉に、おずおずと手を挙げたのはネッツ。
「あー、俺、よくわかってないっす」
オリヴィアはそんなネッツを見て「正直で良い。全員の認識を統一するのは大切なことである」と言って地図を取り出すと、周辺国の説明から始める。
「まず、大前提として今回の一件で動きそうなのは、ラドム平野の6国であろう。ウルテアを入れて7国であるな」
ラドム平野とは、北の大陸南東部の広大な平野のことだ。北はモーリス大河まで、西はルデクとの境目である山脈まで平穏な大地が広がっている。
平野にあるのは7つの国。
まずは海岸沿いに4国。ウルテアは沿岸線の中央よりやや南に位置している。
ウルテアよりさらに南にナステル王国。ウルテアの北には平野の盟主などとも称されるランビューレ王国。その北にはルガー王国がある。
さらに西に目を向ければ、ルデクとの山脈沿いに3つの国が並ぶ。南から北へ向けてエニオス王国、ズイスト王国、レグナ王国だ。
ウルテアと直接国境を接しているのは、南のナステル、北のランビューレ、西のエニオスとズイストの4国となる。
「このうち山脈側のレグナ、エニオス、ズイストはルデクと戦争中じゃ。と言ってもルデクの大鷲に随分と翻弄されておるようであるな。特にズイストは先だって、手ひどくやられて逃げ帰ってきたと聞く」
「オリヴィアはほとんど部屋から出てねえのに、なんでそんなに詳しいんすか?」
ネッツの疑問に、オリヴィアはつまらなさそうに鼻を鳴らした。
「どういう理由かしらぬが、我は手紙のやり取りは許されていたからの。各地の知り合いに多く手紙を送り、その返事から状況を把握しておった。それを今もずっと続けておるだけよ。それよりも、続けるぞ」
「了解っす」
「バウンズはズイストやエニオス、ナステルに援護を頼んでいるようだの。だが、ズイストは大きな被害が出たばかりで、腰が重い。積極的なのは南のナステルの方ぞ。ドラクが南部で暴れ回っておったから、危機感を感じたのかも知れぬ」
ラドム平野最南端にあるナステルがバウンズを支援するとなると、ドラク軍は西と南から挟み撃ちに遭う恐れもある。ドラクが顔を顰める間にも、オリヴィアの話は続く。
「一方、北に居座っている旧王派の動きであるが。こちらは予想通りランビューレに助力を願っておる。正確には様々な国に支援を要請したが、具体的な動きを見せたのは彼の国だけというのが実情ぞ」
オリヴィアがいう通り、旧王派が頼るとすればランビューレだろうというのは共通の考えだ。旧王派の支配地域がランビューレと隣接している上、ランビューレは平野の盟主を気取っている。口を挟んでくる可能性は十分にあった。
「つまりドラク軍は少なくとも、北のランビューレ、南のナステルの両国から敵視されているのが確定しておる」
それだけでもドラク達には大いなる脅威だ。流石にドラクも厳しいと感じる。その上でオリヴィアに問う。
「エニオスはどうなっているんだ?」
「あそこは保留と言った感じであるな。ズイストと足並みを揃えることが多い国である。ズイストが動かぬ今、様子を見ているのであろう」
ドラクはエンダランドに視線を移す。
「ズイストはエンダランドの出身国だな? うまいことこちらに引き込めねえか?」
「正直、難しい。ズイストの王も碌なものではない。ルデクの資源が欲しくて、山を越えて攻め込むような奴だ。今、我々に協力する利も、理由もない。むしろバウンズか旧王派が優勢となれば、勝ち馬に乗ろうとするだろうな」
「……ちっ。こりゃあ、厳しいな。確かにバウンズの元にいる親衛隊の内輪揉めに喜んでる場合じゃねえ。だがオリヴィア、周辺国はお前の方でなんとかすると言っていなかったか?」
「馬鹿者。我は足止めくらいならできると言うたのだ。そして現に足止めはしている。各国の知り合いに窮状を訴え、色々と動いてもらっておるのだ。たとえばランビューレがすぐに動かぬ理由は、我のおかげぞ」
「どう言うことだ?」
「ランビューレの北にいるルガーを動かした。あの国はランビューレと仲が悪い。こちらに味方せずとも、ランビューレの力が拡大することを好ましく思っておらぬ。ランビューレがウルテアを飲み込めば、名実ともにラドム平野の盟主となるからの」
「じゃあ、ランビューレが動かねえうちに、旧王派を叩くか?」
「いや、流石にランビューレも旧王派を見捨てることはせぬ。あやつらにとっても他国に攻め入る良い名分。こちらが動くとなれば、多少無理を押してでも攻め込んでこよう」
「じゃあ、親衛隊が内輪揉めしているバウンズを攻めるか? 今ならバウンズも叩けるんじゃねえか?」
ドラクの提案に、オリヴィアは首を振った。
「どうであろうか? こちらがバウンズ領に攻め込んだところで、ナステルがウルテア南部に傾れ込むとも限らんぞ」
「それじゃあどうにもならねえじゃねえか」
「だから言うたであろう。現状は厳しいと」
正直、ドラクが想像したていたよりもずっと悪い。というかこれはもう、どうにもならねえんじゃねえか?
室内に漂う、不穏な空気。
それを打破したのは、ネッツの一言だ。
「俺、学がねえからよく分かんねえけど、こう言うのはダメっすか?」
ネッツの提案は、ドラクも、そしてその場にいる全員にとっても、予期せぬ提案であった。
ドラクの話ですが、このままだと結構長くなりそうなので、しばらくは各更新の半分をドラクの続き、半分を他のお話にしようかと思っております。探り探りなので後々別の更新方法にするかも知れませんが、とりあえずこの続きは次回更新分と致します! 良いところで続きとしてしまいすみません!