【やり直し軍師SS-202】ウルテア動乱③
いつもお楽しみいただきありがとうございます!
本日ひろしたの誕生日だったりします〜
いえい。
「なんだと? アインが出てきた?」
ナクネ砦を取り囲まんとしていたドラクに届いた報告は、首をかしげるような話であった。砦の主力と思われたアイン=ベルスタインが砦の前にひとり立っているという。
「罠ですかね?」
ドラクの隣で報告を聞いていたフォルクも、同じように首をかしげた。同じく一緒に話を聞いていたエンダランドに促された伝令は続ける。
「いえ……。アイン将軍の言い分では、『降伏する。私の命を以て砦内の全ての者達の助命を願いたい。願わくば、私に、武人として最後の温情を賜りたい』とのことです」
「武人としての温情とはなんだ?」
「せめて、我が軍の武人と一騎討ちを、と。アイン将軍が勝っても、約束通り首を差し出すと申しております」
伝令の言葉に大きく難色を示したのはフォルクだ。
「そのような身勝手な。もしも我が方が負ければ、むざむざ貴重な戦力を失うことになる。我々にはなんの得もないではないか。ドラク様。このまま軍を進めアインを討ち取りましょう」
フォルクの言うことは理に叶っている。ドラク軍の中でも最年少でありながら、非常に賢しく冷静なこいつらしい発言である。
だが。
ドラクは今の話を聞いて、全く別のことを考えていた。
面白そうな奴だ、と。
無難に行くなら、フォルクの策一択であるが、そのような形でアインという男を殺すのは勿体無い気がする。
「よし。決めた。俺がアインに会って話す」
ドラクの決断に、当然フォルクが待ったをかけた。
「ドラク様? それはなりません。罠の可能性も捨てきれないのです。ドラク様の身に何かあれば、我が軍は崩壊します」
そんなフォルクの正論に対して、真逆な言葉を吐いたのは、意外なことにエンダランド。
「面白い。どうせお前のことだ、なんとか配下に引き込めないかと考えたんだろう?」
「おお。分かるか?」
「まあな。お前の好きそうな人材だ。それに、もしもお前が説得に成功できれば、アインという将軍はドラク軍にとっては大きな戦力になる。ウルテアでも槍の名手として知られた人物だ。ただでさえ俺たちには武人が少ない。正直、喉から手が出るほど欲しい」
「だろう」
しかしドラクとエンダランドの言葉に、フォルクはなおも納得しない。
「エンダランド殿まで……私は反対です。不確定に過ぎます。無駄しかない」
頑ななフォルクに対して、エンダランドが言葉を重ねた。
「無駄ではないぞ。アインを引き込めれば、砦に籠っている者達も取り込めよう。ナクラの砦は堅牢だ。もしもアインの願いを無視して弑すれば、砦の兵達は降伏から徹底抗戦に翻意するかもしれん。それこそ我が軍にとっては無駄であろう」
「エンダランド様の言葉も分かりますが、やはりドラク様が出るべきでは……」
フォルクの心配も分かるが、実はドラクにはある程度の勝算がある。だから、無理矢理に話を進めることにした。
「フォルクの心配は分かるが、こういう時は大将が出張った方が、兵に与える印象がいいだろ? ウチは経験が浅い分だけ勢いが大事だ。俺に任せておけ」
ドラクが胸を張ると、フォルクはようやく折れる。
「分かりました。ですが、危険を感じたらすぐに撤退を」
「おう。任せておけ」
こうしてドラクは一人、アインが待つ城門前へと足を運ぶのであった。
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飾り気のない鎧を纏った将が、騎乗したままドラクを見つめている。その鎧を見ただけで、アインの性格が垣間見られるようだ。
ドラクは務めて気楽に、アインへ声をかける。
「お前がアインか? 俺はドラク=デラッサだ」
「……大将自らが出てくるとは……まさかとは思うが、貴殿が私の相手を務めてくれるのか?」
「まあ、そうだな。だがその前に俺の話を聞け。単刀直入に聞く。俺に降れ。デドゥは悪王だった。そんな奴に義理を果たす必要なんかねえ」
「……その率直な物言いは、嫌いではない。だが私にも通すべき筋がある。誘ってくれたことだけは感謝したい」
「頑固だな。生き辛えだろ?」
「そういう生き方しかできぬからな。これ以上の問答は無用」
「まあ待て、最後まで聞け。一つ、俺と賭けをしねえか?」
「賭け? これ以上は……」
「お前の突きは、ウルテアで一番なんだろう? その突き、俺が受けてやる。受け切ったら俺の勝ち。俺の部下になれ。俺が失敗したらお前の勝ち。砦の中の部下を連れて、どこにでも行けばいい」
「何?」
「これは別に、俺の都合だけで話しているんじゃねえぞ。もしもお前がここで死んだ場合、砦の中の奴らがお前に殉じて徹底抗戦しねえとは限らねえ。違うか?」
「そこはちゃんと話してきた」
「お前が逆の立場だったら、話した通りに言うことを聞くか? 自分の上司が目の前で死んで、それでもなおただ、降伏するか?」
「……」
「だよな。俺でも抗戦一択だ。ついでに、お前の部下に逃げる理由もくれてやろう。仮に俺が賭けに勝って、お前が俺に降っても、砦の奴らが嫌と言うなら無理に俺の軍には入らなくてもいい。命は保証する」
「……一つ聞く。お前は己の武に自信があるのか?」
「さあてな」
「お前は俺を舐めているのか? ドラク」
「俺にお前ほどの武はない。だが、俺には天佑があると思っている。間違いなく、お前の一撃を受けきるさ」
「……なるほど、私の腕を軽んじていると言うのはよく分かった。その賭け、乗ろう。だが容赦はしない」
「望むところだ」
アインは一度槍を大きく振るうと、ドラクへ向かってゆっくりと穂先を構えた。