【やり直し軍師SS-20】凱旋式とお茶会②
王都の目抜通りを、漆黒のマントに包まれた集団が進んで来る。
羽織ったマントの金刺繍が、太陽を反射しキラキラと光り、日中にも関わらず、そこだけ星が瞬いているように見えた。
先頭を進むのは、一際目立つ変わった鎧を纏う人物。ロア=シュタインその人である。
背筋を伸ばし、ただ前だけを見て進む姿は、新しい英雄に相応しい堂々としたもの。凱旋を見守る群衆からは、その勇姿に歓声とともにため息も漏れ聞こえてくる。
「オーパさん! ウィックハルトお兄様もおりますよ!」
はしゃぎながらセシリアの指差す先、ロアのすぐ後ろにはウィックハルトとラピリアの姿があった。
うっとりとウィックハルトを見つめるオーパを横目で見ながら、セシリアは再び先頭へと視線を移す。
「やっぱりロア様は素敵ですわぁ……」
「おいおい、セシリア……」
ネルフィアも聞いている手前、一応苦言を呈そうとしてくる父。
「もちろん、あくまで一人のファンとしてですわ。ラピリア様とのことは良く存じておりますもの」
ロアがラピリアに正式に求婚した事は、ウィックハルトより既に知らされていたが、セシリアは「あら、やっとですわね」と言うにとどまっていたため、不安を覚えたのだろう。
しかし、既に気持ちの整理はついている。
元々初対面でロアの婚約者に名乗りを挙げた経緯があるため、ロアを見て気持ちが再燃するのではないかと懸念していたであろう父が、密かに胸を撫で下ろすのが分かった。
そんな父に、セシリアは視線はそのままに話題を変える。
「お父様。私とオーパさんは明日、ラピリア様とお茶会のお約束をしておりますの」
「お茶会? いつの間にそんな約束を?」
「ラピリア様とは定期的にお手紙を交わしておりましたもの」
「私は把握しておらんぞ」
「言っておりませんから。お母様はご存知ですよ」
「……全く。ご迷惑をおかけしないようにしなさい……」
「もちろん! さあ、もう目の前を通過しますわ! おしゃべりはここまでに致しましょう」
ラピリアとセシリアは、時折ではあるが手紙のやり取りをしていた。オーパがウィックハルトに向けて出した手紙と一緒に、持っていってもらっていたのである。
内容はもちろんロアのこと。手紙でロアとの進捗を話すのは、以前に2人で話し合った時の決め事であった。
なので実は、セシリアはウィックハルトとは別に、ラピリアからも求婚の件は知らされていたりする。
ラピリアの手紙には「落ち着いたらホグベック領に行くので、お茶会をしましょう」とあった。
たが、第10騎士団はとにかく多忙なため、ずっと先延ばしになっていたのを、ここを良い機会と定め、お茶会の開催が決定したのだ。
それにしても……
セシリアは凛々しい横顔を見せながら自分たちの前を通過してゆく、ロアやラピリアを見つめながらほうっと息を吐いた。
お似合いですわね……
単純にそのように思うことができる。ロアには特別な何かを感じたが、思い返せばあれは恋愛感情ではない何か……例えるなら、英雄の萌芽に惹かれたのではないだろうか?
そうであれば私の人を見る目はなかなかだなと、自負しても良い気がする。
そんな風に考えている間にも、眼下を次々と騎士達が通過してゆく。そんな騎士達の中に、なんだか妙に気になる将が一人いた。
兜で表情はよく見えない。けれど、目が引き付けられる。
気がつけばセシリアは他の騎士の行進はそっちのけで、ずっとその人の後ろ姿を追い続けていた。
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「え!? レーレンス様がご同席なされるの!?」
思わず大きな声を出してしまったセシリアは、慌てて口を押さえた。
「ええ。折角だから私と……その、ロアのことを聞きたいと仰られて」
凱旋式の翌日、セシリアとオーパをわざわざ出迎えに来てくれたラピリアから知らされたのは、セシリア達にとって衝撃の一言。
王妃レーレンス様が今回のお茶会に参加したいという。
ラピリアほどの家柄なら当然なのかもしれないが、セシリアにしてもオーパにしても、一地方の小貴族だ。王族とお茶会を催せるような立場ではない。無論、招かれたこともない。
見ればオーパも驚愕の表情のまま固まっていた。
「いつも通りで大丈夫。気さくな方よ」
「……そ、そうなのですか?」
あまり物怖じしないセシリアであったけれど、流石に表情がこわばってしまう。失礼のないようにしなければ……
「気持ちはわかるけれど、ま、話してみれば分かるわ。良い人だから」
なんだか急に大事となった気がするお茶会は、こうして始まりを告げたのである。




