【やり直し軍師SS-194】雨、上がりて①
ドラク過去編の続きです!
地図も作りました!
ウルテア王国の王都、アランカル。
とある貴族の館の一室では、館の主人が興奮しながら拳を突き上げていた。
「やはりあの情報は事実であったか!」
館の主、バッファードに事の経緯を説明しているのは、ドラク=デラッサの部下、エンダランドだ。
「はい。デドゥはドラクが間違いなく討ち果たしました。私がこうして王都に来ることができたのが、何よりの証拠でございます」
「そうよな。我が目の前のエンダランドが亡霊でなければ、失敗してこのような場所にいるわけがないか。うむ。よくやった!」
「有り難く。では、バッファード様、お約束通り……」
「任せよ。アランカルにいる有志は私が取りまとめよう。エンダランド、お前がそれらを率いて王宮を制圧せよ」
「御意に」
「しかしまさか、あの若者が本当にデドゥを討ち果たすとは。話半分であったが、英雄の星回りというのは真実であったか……」
「此度の勝利も、まさに運命の女神がお味方されたとしか思えぬような展開でございました。少なくとも、我が主人には運がございます」
「運か。それは望んだとて手に入るものではない。すなわち天意よ。それでドラクはどうしているのだ? すでにこちらへ向かっておるのか?」
「いえ、兵をまとめ、既にデラッサ領は出立している頃と思いますが、まずは近隣の領地を確保してから王都へやってくる手筈です」
「なるほど。檄文から察するに、各地で税の免除や施しを宣言して民から従わせる。そのような算段であるか?」
「流石、英明と謳われるバッファード様です。仰る通り。発した檄文と、悪王を討ったという実績を掲げてドラクが各地を回れば、相応の効果はあると見ています」
「然り。皮肉にも今までの悪政が、ドラクには大きな追い風となろう。そうして人を集め、堂々王都へ足を踏み入れるということか」
「はい」
エンダランドの説明を受け、バッファードは少しだけ考える仕草をする。
「うむ。これは思ったよりも大きな“うねり”となるやもしれんな。して、デドゥの一族はどうする? 捕らえるのか?」
「そちらの件ですが……」
エンダランドとバッファードの打ち合わせは、その後も夜を徹して続くのだった。
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――俺は先んじて王都を押さえておく。お前は兵を集めてから堂々とやって来い――
エンダランドにそのように言われて、事前に顔合わせをしていた憂国の士を頼りに各地を巡ってみれば、驚くべき展開が待ち構えてきた。
「ドラク! 英雄ドラク!」
すでに各地にデドゥ敗北の話は広まっている。広めたのはドラク達だが、これほどの反応は想定していない。
歩いているだけで方々から義勇兵が集まってくる。わずか数百で出立したドラク軍は、10日もかからぬうちに三千近い人の群れへと変貌していた。
「何だこりゃ?」
ドラクとしてもある程度の反響はあるだろうとは思っていたが、それにしたって異様な光景だ。
「すげっすね!」隣でネッツがはしゃぎ、
「それだけ現状に不満を持つものが多かったということですね」とフォルクが冷静に辺りを見渡している。
「これだけいれば十分じゃない? そろそろ王都へ向かいましょうか?」
サリーシャに言われて、ドラクは頷く。王都に到着するまでにもさらに人は増えるだろう。最初の目的は達した。
「よし。アランカルへ進むぞ! 者ども! ついてこい!」
ドラクの声に、歓声がさざなみのように広がってゆき、その声がドラクたちの歩みを押すようにさえ感じられる。
こうして動き回っている間にも、ドラクの元にはエンダランドより逐次王都の状況が届いていた。
王都の方は上々らしい。何せ、デドゥ王はわざわざほとんどの兵を率いて出陣してくれた。空白地帯のような王都、エンダランドが率いる反乱軍が制圧するのにさしたる苦労はなかったとある。
ましてやエンダランドの背後には強力な味方がいた。バッファード=オシャル。謀殺されたサリーシャの父、コードルと親しく、また、デドゥ王のやりようを心良く思っていなかった有力貴族だ。
サリーシャの説得もあり、もしもドラクが王都を制圧できたらという条件付きであったが、全面的な支援を約束してくれていた。
デドゥ王が率いていた8000もの親衛隊であるが、これは王都に帰還していない。
理由はエンダランドの流した流言にある。
デドゥ王を討ち果たした後、エンダランドは単身王都へ向かうと同時に、商人の情報網を利用して偽情報を流した。
「王都にはデドゥ王に味方した者を皆殺しにする罠が用意されている」と。
雑と言えば雑、わずかでも親衛隊の動きを鈍らせることができれば良い程度の一策であったが、実際に王を討たれた親衛隊は動揺した。
結果的に王都には向かわず、王が最も頼りにした重臣、すなわち、バウンズの領地へと身を寄せることを選択したのである。
エンダランドの報告によれば、どうやらバウンズがそのように促したようだ。
バウンズが何を企んでいるかは不明だか、あの男なら親衛隊を取り込んで、国の乗っ取り位は考えそうだ。
いずれにせよ、必ず決着はつける。
ドラクはまだ真っ直ぐに前を向きながら、すでに5000にも届こうかという群衆を引き連れて、堂々たる姿でアランカルの門をくぐるのであった。