【やり直し軍師SS-189】志、二つ。(上)
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俺の生まれたデルタ家は、北部よりも中央の貴族との交流が多く、北部では少々浮いた存在であった。
もちろん北部貴族ともそれなりの付き合いはあるが、中央寄り、と陰口を叩かれる程度に中央貴族を重視していた。
貴族規模としては北部でも中の上に数えられるかどうか、といった感じなので、中央への媚は生き残り戦略の一環と言える。
そんなデルタ家の中で、俺の家は本家筋に最も近く、高い継承権を保持している。具体的には父が現当主の弟だ。
しかしながら本家には2人の成人男性がおり、尚且つ俺自身は5人兄弟の4人目であるので、継承など考えるべくもない立場にあった。
そもそも継承どころではない。自分の領地すら与えられるか怪しい立場といえる。
両親の考える俺の理想的な身の振り方は、家が途絶えそうなどこかの貴族に養子に出して、その家を継がせる事。
中堅の貴族ではよくある話だ。こうして様々な家に、様々な血が入り混じり、貴族社会は複雑怪奇なものになる。
別に両親の考えに何か不満があるわけではない。だが、俺はその選択肢を選ばなかった。騎士団への参加を望んだのだ。
その選択自体に大きな反対はない。俺の伯父にあたるホランド=デルタが、かつて第五騎士団に所属して、そこそこの勲功を上げたと言う前例がある。
ホランドはその功を持ってデルタ家に帰還すると、功績のお陰で良縁を得て、小さな貴族へと婿入りした。
つまり両親は、俺にもホランドのような展開を期待した。だから俺が、「第10騎士団に入りたい」と言ったとき、両親も、そして親族中から大反対されることになる。
「フレイン! あなたいったい何を考えているの!? 第10騎士団なんて、野蛮な者達が集まった傭兵集団みたいな物ではないですか!?」
激昂する母の横では、父も大きく頷いている姿が見える。
「義兄様も何か言ってやってくださいな! あんな、ただ死にに行くような集団に入りたいだなんて!」
母からご指名を受けたデルタ家の当主、ワーレット様は、俺を見ながら苦笑する。
「フレイン、確かに第10騎士団は王が設立した騎士団ゆえ、庶民には人気があるが、あれは所詮、臨時の騎士団。対帝国戦で王に良いように使い潰されて終わりだ。それよりも第一騎士団か第九騎士団がよかろう。いずれも貴族に理解がある。それに私が話を通してやることもできる」
叔父の言葉に俺は小さく息を吐いた。
野蛮な第10騎士団。これは貴族ではよく聞かれる言葉だ。だが、その野蛮な第10騎士団が帝国からの侵攻を防いでいることを、貴族達はきちんと理解しているのだろうか?
叔父の口から出た第九騎士団など、結成してからこのかた、ろくな活躍をしていない。世間的には多数の功績を喧伝しているが、それが虚像であることは、貴族間では暗黙の了解である。
元々継承者としてさして期待されていない俺は、比較的自由に育てられた。と言うか、あまり目をかけられていなかった。
比較的気軽に街に出かけ、貴族ではない同年代の奴らとの交流もある。ゆえにか、貴族の認識と庶民の認識のずれを痛切に感じていた。
今、このルデクを支えているのは、第一騎士団でも、もちろん第九騎士団でもない。第10騎士団だ。
だが、貴族連中はこの事実をあまり認めたがらない。いや、個人としては密かに応援している者もいるだろう。しかし、表立って誉めやすことは避けられている。
理由は第一騎士団や第九騎士団の関係貴族からの圧力。いずれも有力貴族の子息が多く所属しており、日々第10騎士団を貶めようと躍起になっていた。
馬鹿馬鹿しい話だ。
帝国が雪崩れ込んできたら、ルデクの権力争いなど何の意味もないだろうに。具体的に帝国の脅威に晒されてる東部貴族ならまた違うかもしれないが、北部貴族はまだどこか、危機感が薄い。
俺が騎士団を目指すのは、別に勲功を引っ提げて、どこぞの家に滑り込むためではない。騎士団で確固とした地位を築き、ルデクの平和を守る存在になりたいのだ。ならばこそ、第10騎士団に仕官を求めたのである。
しかしそのような説明は両親には通じない。いや、もしかすると俺が第10騎士団に入団することによって、周辺の貴族への風聞を気にしているのかもしれない。
十分に有り得るな。
もとより俺は、貴族の肩書きを利用して騎士団に入るつもりはないのだ。いっそのこと勘当でもしてもらったほうが話が早いかと考えるほど、話は平行線を辿った。
連日繰り返しの話し合い。俺も両親も折れぬ中で、仲介を買って出てくれたのは俺の兄レンザと、姉、ジュオーネだった。
「とにかく受かるかも分からないんだ。特に第10騎士団は貴族に忖度しない集団らしいし、一度くらいは挑戦させてみたらどうかな」
「そうよ。それにフレインが王都へ行く良い機会だわ。もしかすると、中央の貴族の目に留まるかもしれないじゃない」
そんな風に言ってくれた2人によって、俺はどうにか、第10騎士団への入団試験を受けることを許される。
「だが、第10騎士団に入るなら、デルタ家の支援はない。それだけは覚悟しておけ」
父にそのように言い渡されて、俺はたった一人同行を許されたビックヒルトと共に、実家を飛び出すようにして王都へ向かったのだ。