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【やり直し軍師SS-188】弓聖⑨

今回はここまで!

次回更新は16日からの予定です!


 ルアープの言った通りだった。


 実質スメディア対全員の戦いとなったけれど、スメディアが2人を倒したあたりから、あとはもう一方的な展開となっている。


 最早、狩る者と狩られる者の存在でしかない。


 残すところあと3人となったところで、皇帝が「これ以上は他の弓使いが使い物にならなくなりそうだな」と呟くと、一歩前に出て手を上げる。


「そこまでだ! やめよ!」


 皇帝の一声でスメディアが馬の足を止めると、残っていた3人は腰が砕けたように地面にへたり込む。


「ファウザ、レノウ、お前達はこれほどの実力差を知っていたのか?」


 皇帝に問われた両名は驚愕の表情を張り付かせたままに、大きく首を振る。それからレノウが、


「こういった実戦的な競い方は致しません。正直我々も、まさか、という気持ちです」


「……なるほどな。乱世であれば勇者と呼ばれる種類だな。良くも悪くも、安定している国に生まれたことで埋もれていたか。しかし、あまりにも一方的で面白くない」


 皇帝は顎に手を当ててしばし考えると、


「よし、ルアープ、ウィックハルト、それからレノウ。お前らとも一戦させるか?」


 などと宣い始める。


 皇帝の提案に対して、ルアープは心底迷惑そうだし、ウィックハルトも控えめに遠慮したい雰囲気を醸し出す。


 けれどあの皇帝だ。言い出した以上は、必ずやる。


 そんな皇帝に対して、ウィックハルトが遠慮がちに口を開いた。


「陛下、これ以降は“余興”かと思います。少々趣向を変えてもよろしいですか?」


「なんだウィックハルト、お前に考えがあるのか?」


「はい。私というか、元々はサピア女王に教えていただいたやりようですが」


「サピア? ツァナデフォルのか? よし、聞かせろ」


「はい。実際に準備しながらの方がわかりやすいかと思いますので、皆様、こちらへ」


 ウィックハルトの先導で演習場への中へと進むと、ウィックハルトは皇帝の護衛から槍を借りてその柄で地面に丸を描く。それから、丸の手前に線を引いた。


「本来は、前衛で戦う者達がいる前提であるようですが……要は、この円の中から一歩も出ることなく戦うのです。円から出た方は負け。無論、矢が当たっても負けです」


「なるほど。で、その手前の線はなんだ?」


「これは私の思いつきです。放って良い矢は一本、その矢が線を超えたら、初めて次の矢をつがえて良い決まりとします。つまり、万が一にも矢が線を超えなければ、その者はその後、一方的に射かけられることとなります」


「それになんの意味がある?」


「この円の中では、いかな人物といえど、連射されては避けるのが難しいと言うのが理由の一つ。それから、線に届かぬような矢を放ったのであれば、それは恥ずべきことですから」


「なるほど。分かった。しかしこれでは一対一しかできぬのではないか?」


「多数でもできなくはないでしょうが、一対一の方が良いでしょうね。勝ち抜けではいかがですか?」


「……よし、それでやってみるか。どうだ、ルアープ」


「そうですな。ちなみに、万が一、両者の矢が線に届かなかった時はどうなる?」


 ルアープの疑問にウィックハルトはすぐに答える。


「その場合は当然、両者失格です」


「ならば異論はない」


 こうして急遽、4名による弓矢対決が行われることとなったのである。


 対戦組合せは、ウィックハルトとスメディア。ルアープとレノウと決まった。ルアープが「ウィックハルトとはすでに一度やっている」と主張したためだ。


 そうして四つの円が作られると、それぞれが円の中に入り、各々の相手と対峙する。


「では、始めよ!」


 皇帝の合図でそれぞれが弓を構えた。


 スメディアが矢を放つと、一瞬遅れてウィックハルトの弓弦も弾ける!


 そして


 2つの矢は空中でぶつかり弾け飛ぶと、それぞれ地面に落ちた。


「どちらも矢を狙っただと!?」


 そう驚きの声を上げたのはファウザだ。僕はウィックハルトの方ばかり見ていたけれど、気がつけばルアープとレノウの方も、矢が中央付近で地面に刺さっている。


「……ウィックハルトのやろう……、やりやがったな……」


 皇帝が挑戦的な笑みを見せる。ウィックハルトはこれを狙っていたのか。ウィックハルトが定めた決まりに照らせば、これで全員失格。終了である。


 しかも矢を矢で撃ち落とすという離れ技を、ルアープと2人同時に見せられては、両名の「これ以上はやらない」と言う強い意志を見せつけられたようで、文句の言いようもない。


「……まあ仕方がねえ。ここまでか」


 皇帝が下がったので、このやたらと大騒ぎになった十弓の騒動は、ようやく終結へと向かっていったのであった。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 さて、この十弓の一件、ほんの少しだけ続きがある。


 結論から言えば、皇帝が名付けた“弓の四獣”と言う名称は人々に定着しなかった。こればかりは民に受け入れられなかったのなら仕方のない話だ。


 ところが、名称こそ定着しなかったけれど、この4人が十弓を全て倒した、真の弓の名手であると言う話だけは一人歩きを始める。


 そうしていつの頃からか、三女神が遣わした弓の使徒、すなわち“弓聖”と呼ばれるようになった。


 元々あった肩書きに“聖”が加えられ、


 蒼弓聖のウィックハルト


 剛弓聖のルアープ


 軽弓聖のスメディア


 曲弓聖のレノウ


 の四弓聖として、大いに名を馳せてゆく。



 そんな世間の様子に、名付け親の皇帝と十弓の扱いがより軽くなったファウザが、揃ってぐぬぬと悔しがるのだけど、まあ、僕にはあまり、関係のない話だ。




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― 新着の感想 ―
ロアからすれば、どれだけ腕が良くても使ってやれる場所が無いし、側に置くにも秘密を共有してない相手だからリスクがあるし、かといって秘密を話せるほどの信頼も無いわけだからね しかもルデク王家に仕えたいなら…
[一言] そこまで慕ってんだから受け入れてやれよ、大軍師~、と思いました。
[良い点] これは陛下、何にも言えないですね! 実力で相手の口を封じるストロングなスタイル、超絶技巧を同時に見せられたら。 後の世に伝えられた名も格好いい! [一言] 今回も楽しませていただきました…
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