表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

187/536

【やり直し軍師SS-187】弓聖⑧

7話くらいでまとめる予定だったのですが、微妙に長く!

後一話続きます!


「しかし……ロア様に断られた今……」


 しょぼくれているスメディアに、皇帝は続ける。


「そんなお前に朗報だ。もし、この後お前が実力を見せることができれば、この俺が帝国で雇ってやる」


「帝国で? しかし私の望みは……」


「まあ、最後まで聞け。見ての通り、俺とロアは親しい。家族みたいなもんだ。当然多くの交流もある。つまり、俺の元にいればロアと接する機会も増える」


 誰が家族みたいなものなんだか……。でも皇帝の意図が見えてきた。十弓から気に入った者を何人か囲い込むつもりなのか。


 多分、先ほどの争いで結果を出して見せたレノウも候補だろうな。実戦的だって褒めていたし。


 急速に大きくなった帝国では、外部はともかく統治に関してはまだまだ武力が有用だ。皇帝が武威を示す事は、反乱の気配を未然に防ぐことにつながる。


 そして十弓という肩書きは、それなりに世間に知られた存在である。一般の人は派閥の違いなどわからないだろうから、“皇帝が十弓から選りすぐった達人” となれば、充分な抑止力として使えるだろう。


 僕から見れば明らかに悪そうな笑顔にしか見えないけれど、スメディアの顔に僅かに光がさす。その隙を見逃さず、皇帝は畳み掛けた。


「このまま帰ったら、ロアに自分を売り込む機会は二度とねえ。だが、俺の元にいれば、或いは新しい機会もあるかも知れねえ、どうだ?」


「……しかしそれは、私にだけ都合の良い条件では無いですか?」


 全然そんな事はない。皇帝は僕の性格が分かっているから、この場で断った以上よほどのことがない限り翻意しないと踏んでいる。その上で提案しているのでまあまあタチは悪い。


 尤も、単純に仕官の誘いとしてなら、スメディアにとって悪い話ではない。なので僕も口を挟むつもりはない。


「いや、俺はお前のまっすぐな心意気を気に入った、俺の元にいる間の忠誠を約束すれば、その後ロアの元へ行こうと文句は言わん」


 つい先ほど“実に性格の悪いやつ”と言っておきながら、どの口が言うのかと少々呆れながら2人のやり取りを見ていると、スメディアは前向きに検討し始めたようだ。


「大変悪くないお話ですが……」


「だが、まずはお前の実力を見せてからだ。そうだな、この後、非公開でちょっとした試験を行う。お前一人と、先ほどの競技で最後の3人に残れなかった8人の十弓。全員で戦い、勝ち残ったものを四獣最後の一席とする」


 こうして僕らは昼食を挟んで、ドラーゲンの近くにある砦へと揃って移動したのである。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「なるほど、そんなことになっていたのですね」


 僕は砦の兵士たちの演習場で、ウィックハルトに事の顛末を説明していた。


 ウィックハルト達は港での戦いが終わると、訳もわからぬまま砦に連れてこられ、食事を提供されると同時に、「最後まで残れなかった8人にはもう一戦、挽回の機会を与える」と説明を受けた。


 そこでようやく勝ち残った3人は解放され、逆にスメディアが7人の方へと合流。


 なお、8人ではなく7人なのはファウザが辞退したからだ。ファウザはあくまでウィックハルトより上と示したいのであって、四獣などという肩書には興味がないと。


 ファウザは先だって相応の結果を示して見せていたので、皇帝もそれを受け入れ見学に回ることに。


 そんなわけで、参加者は今、僕らの目の前で、それぞれが決戦の準備に勤しんでいる


 より実践的な場所での対人戦。勝敗は単純。矢が当たれば脱落となる。


 矢には鏃の代わりに染料を染み込ませた布が巻いてあるので、当たった場合、誤魔化す事はできない。


 なお、スメディアだけが騎乗している。これは本人の希望によるものだ。他の7人にも馬が必要か聞いたが、馬上での戦いを希望したのはスメディアだけだった。


 馬に矢が当たったら、スメディアも馬から降りて戦わないといけないと決まる。


「では、始めよ!」


 皇帝の宣言で、程よい距離を取り合っていた8人の達人が動き始めた。そしてすぐにそれぞれの狙いがはっきりする。


 スメディア以外の全員が、スメディアを狙って矢を定めたのだ。


 一人だけ騎乗しているスメディアは、単純に的が大きい。その上、接近戦となれば取り回しのきく小弓を使うスメディアは厄介だ。


 ならば、まずスメディアを潰すという選択は理にかなった判断である。


 しかし当然、スメディアもその辺りは弁えているのだろう。大きく迂回するように馬を走らせ的を絞らせない。しかも時折速度を変えたり、旋回して撹乱しながら距離を詰めようとする。


「随分と馬の扱いに長けておるな、ファウザよ、何か知っているか?」


 皇帝もスメディアの馬術に興味を持ったようだ。今回は観客となっているファウザへ問う。


「あいつは普段、狩で生計を立てている男だ。馬で野山を駆け巡り、獲物を追う」


「なるほど。馬も弓も、生きる糧というわけか」


 そうこうしているうちにいく本かの矢が放たれたが、スメディアにはかすりもしない。と、突然、スメディアが急加速して突進を始めた。


「上手い」


 ウィックハルトが呟き、首を傾げた僕に説明してくれる。


「スメディアは今、他の7人の呼吸を読んでいました。次の矢をつがえる準備であったり、集中を切った瞬間であったり、理由は様々ですが、とにかく今、射撃の狭間が存在したのです。そこを見逃さなかった」


 ウィックハルトの説明の間に、みるみるうちに相手との距離を詰めたスメディアは、あっという間に一人を射抜く。


 そうしてウィックハルトの言う射撃の狭間が終わり、再び矢がスメディアに襲いかかるころには、すでに馬を走らせ安全地帯へ。


「これは、一方的だな」


 ルアープが既に決着はついたとばかり、つまらなさそうに鼻を鳴らす。


 そんなルアープが欠伸をしたところで、スメディアがもう一人、敵の数を減らした。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 皇帝陛下のわるーいお顔w ほんとお互いよくわかってますね。国を掛けて直接対決した間柄ですし。 それにしても、さすが本物の十弓。 実力が違います。 新しい歴史では、所属する国が変わったかた…
[良い点] 皇帝の意図はどこにあろうとも、双方に益があるならいいんじゃない?スメディアが、ロアに仕える可能性はほとんどないけどね。 スメディアさん、狩人かぁ。一人だけ流鏑馬だあ。7対1は機動力があって…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ