表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

182/535

【やり直し軍師SS-182】弓聖③


 食堂にどかどかと乱暴に入ってきたのは、グリードル帝国皇帝、ドラク=デラッサ。


 側近が一人付き従い、その人の指示ですぐに椅子が用意されると、皇帝が腰を下ろす。


 あの人は確か、ネッツ=ストレイン様。初期の頃から皇帝に付き従う重臣だ。僕は軽く顔を合わせたことがある程度だけど、帝国の中でも有名人の一人といえる。


 ネッツ様の落ち着いた佇まいは、帝国の重鎮に相応しい。皇帝が落ち着きがない人なので、余計にそう感じるのかもしれない。


「なんだ、ロア、思ったよりも驚いてねえな」


「……リヴォーテが先に呼ばれた段階で、ある程度は予想できましたよ」


「ちっ、つまらん。可愛げのないやつだ」


 そう、今回の来訪に合わせてリヴォーテも同行していたのだけど、皇帝から命があり、先行して帝都へと向かっていた。


 そのため「リヴォーテに仕事を押し付けて、皇帝がこっそりドラーゲンにくるかもしれない」という可能性について、ツェツィーやルルリアと話していたのだ。


 ゆえに、案の定というのが正直なところなのである。


「まあいい。それで、うちのルアープに喧嘩を売りたいというのは、お前か?」


 ファウザに視線を移すと、皇帝らしい威厳を見せる皇帝。状況が全く掴めず硬直しているファウザ達。


 そんなファウザ達にネッツ様が重々しく、「陛下の御前である」と一言。


「陛下、本当に……皇帝……」


 まだちょっと信じられないのか、ファウザがこちらを見てくるので、僕は本当だという意味を込めて頷くと、椅子からずり落ちて、何故か床で正座する。そんなファウザの様子を見た他の十弓もならった。


 流石に皇帝が登場するとは思っていなかったのだろう。顔色が真っ青だ。


「非公式な場だ、そこまでしなくとも、良い。それよりも答えよ。我が目をかけている、剛弓のルアープに何か、不満があるようだな」


「け、決して、不満があるわけじゃ……それに俺達はウィックハルトを追って……」


「そのウィックハルトは、ルアープを破りこの俺自ら弓の腕を認めたのだ。ウィックハルトの腕に不満があるというのなら、それはすなわちこの俺に対する不満とも言えるが?」


「そんな!?」


 皇帝、間違いなく悪ふざけに入っている。しかしこれでは流石に可哀想な気がしてきた。そろそろ止めるべきだろうか? そう思ってると、ルルリアが僕より先に動いた。


「御義父様、その位でお許しになられませ。それよりも何か面白そうな顔をされていらっしゃいますよ?」


「ふん。ルルリアがそういうならここまでにしておこう。では、これからの話をする」


 ほっと表情を緩ませたファウザ達だったけれど、なぜかその姿勢のまま皇帝の話に続きを待つ。


「要はお前ら、誰が一番弓の腕に優れているのかが分かれば良いのであろう? ならば、俺がその場を用意してやる。そこで勝てば……そうだな、俺と、ロア、2人が認めた弓使いとして何か褒美をくれてやる」


 唐突に巻き込まれる僕。


「陛下?」


 僕が抗議しようとすると、皇帝はニヤリと笑う。


「大軍師が認めた弓使い、いい響きだろう?」


 あ、これ絶対譲らないやつだ。僕は早々に諦める。僕がそれ以上言葉を重ねないことを確認すると、皇帝は改めて続けた。


「場の準備もあるし、ルアープも呼ばねばならん。数日は俺が面倒を見てやる。それぞれ、準備期間としろ。ここまでは異論ないか?」


 平常でも人を射すくめるような威圧感のある、皇帝の視線を受けたファウザが


「も、もちろん異論はない……です」


 と、答えたところで皇帝が一際声を低くして「ただし!」と続けると、ファウザはびくりと体を震わせた。


「俺が気に入っているルアープやウィックハルトを侮辱した以上、もしも、つまらぬ腕を披露してみろ。名声が地に堕ちるだけではすまさんぞ!」


 ギャロック派十弓の中から、数名の小さな悲鳴が聞こえた。


「参加するしないは自由だ。だが、全員不参加は許さん。最低でも半分は手をあげよ。それから参加した上で、相応の腕を見せれば、勝敗に関わらず帰りの路銀くらいはくれてやる。何か質問はあるか?」


 皇帝の言葉にすくみ上がる十弓の中で、一番後ろにいた小柄な人物がおずおずと手を挙げる。


「あのう……発言してもよろしいですか?」


「許す。まず名乗れ」


「私はスメディア、世間では軽弓のスメディアなどと呼ばれております。陛下にお会いできて光栄です。すでに勝負の腹案をお持ちなのでしょうか」


「ああ、一応考えていることはある」


「それは飛距離が必要なものですか?」


「どういう意味だ」


「実は私は他の十弓とは違い、小弓使いなのです。距離を競うような争いは向いておりません。元々今回の旅は、仲間の付き合いでやってきただけで、ウィックハルト様やルアープ様に含むところもありません。ゆえに不参加とさせていただこうと考えており、その事情を承知おきいただきたかったのです」


 そういって背負っていた弓を差し出すスメディア。袋に入っているが、確かに他の面々の弓より明らかに小さい。


「なるほど。スメディアの言い分は理解した。許す」


 皇帝とスメディアの会話を聞きながら、僕の隣でウィックハルトが、「あれが、軽弓のスメディア……」と呟く。



 軽弓のスメディア、その名前は僕も知っている。



 小弓の達人として、ウィックハルトやルアープと同じ場所に名を残す人物である。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 新しい歴史では「大陸十弓」から「大軍師が認めた弓使い」たちの方が永く歴史に残りそうですね(笑)
[良い点] 彼はロア君が知る十弓の一人、ということですね。 他のメンバーはともかく、この人の腕は気になる! かのお方はどんな競技をお考えなんでしょう。 ウィックハルトとルアープの対戦も面白かったので、…
[一言] おぉ、マジモンの名手も混ざってたとは。 勝負とは別な場所で妙技の披露する場があるのかな??
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ