【やり直し軍師SS-179】花迎えの祝い
今年は本当に激動の一年でございました。
ただただ、様々な皆様に感謝したい一年でした。
もちろんその中には、こうして本作を読んでいただけている読者の皆様が含まれます。
どなた様におかれましても、良いお年を迎えられますように!
その年の年の瀬は珍しく、第10騎士団の全員に完全休養が与えられた。
北ルデクにも落ち着きが見え、かつ、激務続きだった第10騎士団。王からささやかな褒美として、臨時の給金とともに休みが申し渡されたのである。
休暇の間、第10騎士団の業務は第六騎士団および、第七騎士団が請け負ってくれる。大きな問題はないだろうから、遠慮なく休ませてもらおう。
執務室で僕がラピリアと休暇中の過ごし方について話していると、フレインが部屋にやってきた。
「あれ、フレイン、お疲れ様。どうしたの?」
「実は……ロアに頼みがあってきた。……………いや、やっぱりいい」
フレインにしては珍しい、煮え切らない態度である。
「どうしたのさ、らしくない。とりあえず聞くだけ聞くよ」
それでもしばし逡巡したフレインは、意を決すると少し早口で話し始める。
「……実はな、年末年始をおまえのシュタイン領で匿ってもらえないか? いや、折角の休暇、ラピリアとゆっくりしたいのはよく分かっている。迷惑だろうから、この場で断ってもらっても……」
「ちょ、ちょっと待ってってば。匿う? 誰から? 全然話が読めない」
既に部屋を出てゆきそうなフレインだったけれど、ラピリアがお茶を入れてくれたことで渋々ながら腰を落ち着けた。
「……実は、爺……ビックヒルトからとんでもない話が来てな」
ビックヒルトさんといえば、フレインの実家、デルタ家から派遣されたフレインの側仕えの人だ。
フレインが前線に出る事もなくなったので、最近はデルタ家とフレインの元を行ったり来たりしていると聞いた。
『ぼっちゃまの帰省を見込んで、デルタ家に縁談の使者が列をなしております』
そのように報告したビックハルトさんの言葉は、誇張ではなかった。デルタ家では本当に使者が並ぶ事態となり、面談の順番受付をしているのだという。
フレインは第10騎士団の実質的なNO.2だ。僕が不在の場合はフレインが全権を預かる。当然王からの信も厚い。若くして将来が約束された貴族の青年。そして、独身。引く手数多であることは容易に想像できる。
元々縁談の話は多かったフレインだけど、ここにきてそれは急増しているようだ。
「このままだと、俺の休みはただひたすらに縁談の話を聞くだけで終わる」
なんとも贅沢な話ではあるけれど、フレインは切実な顔をしている。
「ねえ、フレインは良い人はいないのかしら? 身を固めれば、そんな心配もいらないでしょ?」
ラピリアが聞けば、フレインは肩をすくめた。
「いずれは、とは考えている。しかし正直今は仕事の方が楽しい。こうして第10騎士団の要職に就くのは俺の夢だったからな。尤も、想像以上の立場ではあるが」
「そうよね。フレインって昔からそんな感じだったわよね」
「うるさい。昔の話はいいだろ」
何やら気になる会話だ。思えばラピリアとフレインは年も近い。僕が第10騎士団に入るより前、僕の知らない二人がいたのだから当然ではある。
そんな僕を見てラピリアがにまにましながら、僕の服の裾をつまむ。
「あら? もしかしてやきもち?」
「うーん……うん。まあ、そうかも」
「安心して、フレインとは昔、ちょっと揉めたくらいの間柄よ」
ラピリアの言葉に、フレインは苦い顔。
「本当にロアは、よくもこんなじゃじゃ馬を……まて、待て!」
フレインが最後まで言い切る前に、ラピリアが剣を手にして立ち上がった。うん、仲良しですな。何よりだ。
「ともかく、フレインの事情は分かったよ。別に僕は構わないけれど、ラピリアはどう?」
なおも剣を手にしたまましばしフレインを睨んでいたラピリアだったけれど、剣を置くと「しょうがないわね」と溢す。
それから、
「ならいっそ、集まれる皆を招かない? そのほうがフレインも話しやすいでしょ? 第10騎士団の幹部がロア=シュタインに招かれているってことにすれば」
ラピリアの言葉に、フレインは軽く手を叩いた。
「それは本当に助かる。しかし本当に良いのか?」
「ええ。別に私はいつもロアと一緒にいるもの」
「…………あー、ゴチソウサマ」
そんなこんなで、今年はシュタイン邸に皆を招くことになったのである。
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年の最後の一日である今日。シュタイン邸では多数の来客がくつろいでいる。
まずはフレイン、ウィックハルト。そしてリュゼル、ディックにルファ。双子、ネルフィアにサザビー。さらにシャリスも。お馴染みの面々に加えて、義妹レアリーに、何故かウィックハルトの妹であるセシリアもいた。
ルファの話だと、後日ゼランド王子が来訪したいと言っていたそうだ。好きにすれば良いけれど、大丈夫なのかな?
「ロア様」
皆お酒も入って騒がしい中で、執事長のキンドールさんが僕に近づき耳打ちしてきた。
「どうしたの?」
「そろそろ女神に時を還す時間のようです」
「あ、もうそんな時間か」
ルデクにおいて、年末最後の時間は女神に時を還す時間と呼ばれている。この一年を感謝とともに運命の女神へとお返しし、新たな年を賜るのだ。
僕は騒いでいるみんなに向かって「そろそろ祈りの時間だよ」と告げる。
僕は代表して運命の女神に感謝を述べ、新しい一年への祈りを捧げ、グラスを掲げた。
「…………それじゃあ、新たな年に、乾杯!」
「「「「「乾杯」」」」」
本来は存在しなかったルデクの新しい歴史が、またひとつ、更新されたのである。
2024年もよろしくお願いします!