【やり直し軍師SS-172】ノーレスのお使い⑥
今回の更新はここまでです!
本日は少し短め。
次回は12月25日からを予定しております!
ノーレスの認識における街。それは人が集まりできた集落が村となり、町に。そうして発展して行った先にあるものだ。これは北南の大陸の違いなく、一般的な認識であるように思う。
しかしこの場所は今、集落や村をすっ飛ばして、いきなり“街”として誕生しようとしている。それは、とても不思議なことだ。
多分、このような場面は見ることは今後ないだろう。そう考えると、とても貴重な景色を見ている気分になってくる。
どの建物にもまだ誰も住んでいないのに、たくさんの建物が着々と作られてゆく様を見ながら、ノーレスはのんびり歩く。
行き交う人々は多いけれど、ノーレスに気を配る者はいない。みな、忙しそうに動き回っていた。
しかしよくもまあ、このような馬鹿馬鹿しい計画を思いつくものだ。
ここにくる道中でリヴォーテに聞いた話では、ロア=シュタインは山沿いの遺跡群を重要な資源と捉え、その麓に観光都市を造ろうとしているらしい。
確かに遺跡群は見応えのあるものだし、ここに街があれば人気になるかもしれない。けれどそのためにどれほどの費用を投じているのか。
何か別の意図があるのかもしれない。その意図を考えながら進むノーレスの横を、身なりの良い2人組が通り過ぎる。
「あれ? そこの君」
最初、自分が声をかけられたとは気づかなかった。再度声を耳にして、ようやく自分が呼ばれていると気づく。
振り向けばそこには、地味な感じの青年と、ノーレスでさえ目を奪われるような美形の騎士が立っていた。
声をかけてきたのは地味な方のようだ。
「あの、何か?」
ノーレスが警戒し、距離を取ったまま返事を返すと、青年は少し首を傾げて、
「……やっぱり君、グリードル帝国の関係者だよね。ほら、南の大陸に渡った時に船に乗っていたでしょ」という。
まさかの指摘に驚きを隠せない。ノーレスは船の中で大人しくしていたはず。また、ノーレスには船内でこの男を見た覚えはなかった。どこでそのことを知ったのか?
「……失礼ですが」
動揺をなんとか抑えながら、警戒心を最大にして相手の出方を待つ。すると男は少し申し訳無さそうに頬をかきながら、
「ああ、ごめんごめん。驚かせちゃったよね」
とのほほんと返してくる。
「僕はロア、ロア=シュタインといいます。帝国の人がこんなところにいるって事は、何か僕に用かな?」
「ええっ!? あなたが!?」
思わず失礼な問い方になってしまったノーレスに対して、ロアは穏やかに「うん」と頷いた。
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場所をロアの部屋に移して、改めて挨拶を交わす。この人が、ロア=シュタインか。一見、大軍師と呼ばれるような雰囲気はない。けれど、そういう意味ではドランも似たようなものだ。何より先ほど即座にノーレスの正体を暴いた一件。単純に恐ろしいと思った。
「あの、先ほどは失礼いたしました。なぜ私がグリードルの者と分かったのですか?」
「いやあ、ほら、僕らはビッテガルド皇子の船に打ち合わせで乗り込んだことがあったんだよね。その時、船の中で一瞬だけ君のことを見かけたんだよ。サルシャ人だったから珍しいなと思って覚えていただけ」
あっさりとそう言うが、一瞬だけ見た人間を覚えているものだろうか?
「これでも記憶力は良い方なんだ」
そんな風に笑うロア。とにかく気を取り直してルルリアから預かった手紙を渡す。
手紙を読み終えたロアは、「なるほどね」とだけ言って手紙をしまう。
「何が書いてあったのだ?」
そのようにロアに聞いたのは同席したリヴォーテだ。
「うん。ルルリアはノーレスのことを自慢したかったらしいよ。ドランからもらった側近、うらやましいでしょって。僕に紹介したいから送るって。だからしっかり歓待してねって書いてある」
そんな内容だったとは……ノーレスは密かに呆れる。同時に僅かに不安を覚えた。こんな内容では、ロアは怒るのではないだろうか?
しかしロアはニコニコしながら「ルルリアがわざわざ南の大陸から呼び寄せた側近。しかもドラン殿の元部下かぁ。歓迎するよ。せっかくだからゆっくりしていってよ」とのんびりと言った。
そうだった、ルルリアもロアも、規格外の存在だった。このような場所に丸々一つの街を作るような人物に、自分の一般常識など通用しないのだ。
こうして連日、ロアによるドランについての尋常ではない量の質問攻めに合いながら、ルデクでの歓待をうけつつ。ノーレスの任務は完了したのであった。
南の大陸の人間から見たルデク、という話をさっくり書くつもりだったのですが、思いの外長く…
お楽しみいただけましたでしょうか。
次回更新もまたよろしくお願いいたします。