表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

171/538

【やり直し軍師SS-171】ノーレスのお使い⑤


 ノーレスの前に突然現れて、言い争いを始めた謎の三人組。


 暫く呆気に取られて眺めていると、とにかく話はまとまったらしい。


 そうしてようやく、そのうちの一人、片眼鏡(モノクル)の男性が改めてこちらへ向き直る。


「……改めて、俺はリヴォーテ=リアン。グリードルの人間だ。ルデクでは大使長官をしている」


「はあ、どうも……は? 貴方がリヴォーテ、殿……?」


 予期せぬ名乗りに、ノーレスは不覚にもおかしな声を出してしまい、慌てて口を押さえる。


「なんだ? 何かあるのか」


 何かあるも何もあった物ではない。もはや疑問しかない状況ではある。


「いえ、失礼しました。ルデクトラドで聞いた話では、リヴォーテ殿はロア殿に同行していると聞いておりましたので、まさかこのような所でお会いするとは思っていなかったのです。もしや、ロア殿もこちらの砦に?」


 ノーレスの質問に、リヴォーテから帰ってきた返事は「否」だ。


「ロアはまだ遺跡の方にいる。俺は所用があったので、偶々この砦にやってきていたのだ」


「そうだったのですか……」


 と、話が綺麗に終わりそうな所で、双子か歳の近い姉妹と思われる女性騎士が絡んできた。


「要は菓子を喰いにきたんだ」

「遺跡の街にはあまり菓子がないからな」


 そんな2人にリヴォーテが慌てる


「なっ! 菓子を食いにきたのはお前ら双子だけだ! 俺は視察だ、視察!」


「一番がっついていたやつが何を言ってる」

「そうだそうだ!」


 未だ状況は全く掴めぬが、とりあえずこの二人が双子であることと、リヴォーテとは仲が良いことだけは分かった。双子の騎士? もしかして……


「失礼、貴殿らはかの有名な双子騎士、ユイゼスト殿とメイゼスト殿なのですか?」


「そうだ。そっちがメイ」

「ああ、そっちはユイだ」


 ロアの側近の双子騎士。色いろな意味で有名な二人組だ。帝国では破壊の女神とも呼称されている。


「…そう、ですか。お会いできて光栄です」


 ノーレスが挨拶をすると、双子は不思議そうに首を傾げる。


「お前はなんで男の格好をしているんだ?」

「なんの遊びだ?」


 ノーレスは息を呑んだ。元々中性的な顔立ちのノーレスは、出立ちで女と見抜かれたことはない。


 ここまでの道中においても、女性かと問われたことは一度もなかった。現に今、双子の言葉を受けたリヴォーテは、驚きを以てノーレスを見ている。


「……なぜ、気づかれました?」


 隠しているが、喉仏でも確認されたか? いや、多分違う。


「おかしなことを聞くな!」

「見ての通りだろ!」


 むしろますます不思議そうにする双子。


「すぐ気づくよな!」

「だな! なあ、リヴォ太郎」


 双子に話を振られたリヴォーテは、「ん? ああ、もちろんだ!」と慌てて返し、


「ほーん、お前まさか」

「気づいてなかったろ」


 などと揶揄われて、また3人でわちゃわちゃと始める。


「あの……」


 どうしたものかとノーレスが困惑しているところに、先ほどの兵士が一人の男性を連れて戻ってきた。


「いやあ、遅れて申し訳ない。貴殿がグリードルのご使者様ですな。私はこの砦を預かるボルドラスと申す。本日の滞在を希望されるということでしたな」


 ボルドラスの名前は知っている。ノーレスは姿勢を正すと、一礼。


「第四騎士団長のボルドラス様ですね。ご高名はかねがね。ノーレスと申します。ご迷惑でなければ、一晩屋根をお借りしたい」


「こちらは全く問題ありません。ゆっくりされるが良い。それに明日の出立ならちょうど良いですな、ユイ、メイ、ノーレス殿を送って差し上げろ」


「ええー……いいぞ!」

「ボルドラスの頼みなら仕方がない」


 騎士団長であるボルドラスに対して、ともすれば不遜とすら思われる態度で接する双子であったが、ボルドラスは全く気にするそぶりもない。


 双子の了解を得たボルドラスはノーレスに向かい直り、「聞いての通りです。明日はこの2人が現地までご案内いたします」と言う。


「そ、それは助かります……」


 なんだか勢いに呑まれつつも、ボルドラスに招かれるままに、再び何やら言い争っている3人を放置して、砦へと足を踏み入れるのであった。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 翌日。


 今日も変わらず騒がしい3人の後について、平原を進む。この辺りはまだ街道整備が進んでいないようで、昨日までの快適さからは一転、細くてでこぼこした道を駆ける。


 ノーレスはそこまで騎乗技術に自信がある方ではない。むしろ普段は自分の足で動き回ることが多い。ここまでの道が楽だったこともあり、急な細道は少々難儀しながらついてゆく。


「なんだ、馬は苦手か?」

「なら少し緩めてやる」


 意外に周辺に気を配る双子に甘えて、慎重に馬を走らせる。


 そうして途中でもう二泊挟み、ついに遺跡が見えてきた。


 勾配のある山の斜面に、張り付くように古代の建物が屹立している。まるで一つの巨大な建造物のようにも錯覚するほどの、迫力のある光景だ。


 その麓では、遠目から見ても明らかに巨大な街が、造成されつつあった。


 おそらくは街を作るための関係者が寝泊まりしているのであろう、作っている街のそばにもう一つ街があり、そこから多くの人々が出入りしている。


 仮設と思われる街ですら、すでにそれなりの規模だ。だか、造成中のほうはそれと比べても遥かに大きい。完成したらどれほどのものになるのか想像がつかない。


「これはまた、見事ですね……」


 ノーレスの素直な感想に満足げなのはリヴォーテ。


「そうであろう。陛下が絵図を描いたのだ。大陸有数の街になるはずだ」


「なるほど……」


「俺はロアを探して、お前のことを伝えてくる。邪魔をしなければ街の様子を見ていてもかまわんぞ」


「……よろしいのですか?」


 皇帝が絡んでいるとはいえ、ルデクの施設だ。帝国の人間の許可で勝手に歩き回って良いのだろうか?


「問題ない。現に俺がこうして歩き回っている」


 それは確かに、説得力のある言葉だ。まあ、これだけの人の出入り、各国の諜報なども多数うろついているのは想像に難くない。


「では、お言葉に甘えて……」


 こうしてノーレスは一刻ほどのちに合流すると約束し、新しい街の見学に繰り出したのである。


 




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 光○が昔出していたCDドラマ三國志の本編&DX1と3(シリアス)とDX2、4〜7と三國志めくり(ギャグありメタありパロディありのカオス)の周瑜並にリヴォーテのギャップがひどい(笑) [一言…
[良い点] 流石に彼女たちの目は見抜きますね。見抜いた、という意識すらないのが恐ろしい。ある意味これは破壊の女神たちの本質的なところかと思いますが、初対面かつ諜報のノーレスはさぞかし恐ろしく感じたので…
[良い点] さすが双子、野生のオオカミだからすぐに分かったんだなw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ