【やり直し軍師SS-158】春嵐⑦
2年。
ドラクは2年間、ただひたすらに時を待った。その間屈辱を腹に溜めながら、デドゥ王に擦り寄り、バウンズには必要以上に金を持たせた使者を送り出した。
デドゥ王はドラクを鼻であしらい、面と向かって「粗野な猿」と言い放つこともあったし、バウンズからは一度たりとも返礼はない。
それでもドラクはひたすら耐えた。その間に少しずつ力を蓄えるために。王やバウンズに渡す金はエンダランドから借りた。どのような話でまとめたのか、エンダランドは実家をはじめとした商家から金を引き出してきていた。
ドラクが金を引き出した条件を聞いても、「ああ、ま、勝てばなんとでもなる」としか答えなかったが、少なくとも真っ当な方法ではなさそうだ。
エンダランドの実家を頼らなければならなかったのには事情がある。
「ドラク、お前の良いところの一つは民を大切にすることだ」
というエンダランドの言葉。実際ドラクは領民から絞り上げるつもりはなかったし、後々王を討ち、この国を乗っ取ることを考えれば民衆の支持は不可欠と言える。
この2年間、王もバウンズも表立って何かちょっかいをかけてきてはいない。諦めたというよりは、ドラクが何か失態を犯すのを待っていることは、ここまでの両者の対応からも良くわかる。
何か一つでも咎を見つければ、それをきっかけに一気に喰らい尽くすつもりなのだと、ドラクは理解している。
故にこそ、準備は慎重に行なった。
何はなくとも必要なのは、人材と、兵。
兵力に関しては、今までドラクの元へと集まってきた取り巻きを中心に、密かに私兵をかき集める。取り巻きたちは各地で暇を持て余している若い奴らを集めて、金で取り込んだ。
そして人材。こちらはエンダランドとサリーシャが中心となって動く。エンダランドはもちろん、父を亡くしたサリーシャは、暫定的に領主代行をしているのでそれなりに顔がきく。
サリーシャの元には、バウンズの息子から度々心配しているだの、頼りにしてもらって構わないだのと言った巫山戯た手紙や使者がやって来たが、曖昧な対応に終始し、時間を稼いでいた。
その間2人が探しているのは「国を憂う有志」だ。腐敗し切った国を快く思わぬものを見つけ出すと、水面下でドラクへと引き合わせる。
過日エンダランドにも指摘されたし、ドラク自身も薄々気づいてはいたが、自分には持って生まれた「求心力」のようなものがあるようだ。
静かに、しかし確実に、ドラクは力をつけてゆく。
「そろそろじゃねえか」
ドラクに問われたエンダランドは、
「ああ」
短く返事を返した。
ドラクはエンダランドの言葉を受けて、この場にいる者たちを一度見渡す。部屋にはサリーシャ。そしてネッツ達、昔からの手下の中でも優秀な奴ら。さらに新たにドラクが見込んだ人物が揃っている。
「ようやくですか」
物腰は柔らかいが、隙のない気配を纏う若い男が声を上げる。名をフォルク。新たに陣営に参加した奴の中でも一番の年少だが、すでにただ者ではないと感じさせる何かを持っていた。
「ああ、みんな、待たせた。この2年。クソみてえな2年だったが、無駄にはしねえ。王を、討つぞ」
ドラクの力強い宣言に、配下たちが「おお」と声を上げ、思い思いに2年間の苦労や王へ悪態を吐き出した。
その場が落ち着くまでしばらく待って、ドラクは改めて口を開く。
「まずは王を誘き出す。そしてその首を獲る」
これが基本戦略だ。2年で力を蓄えたとはいえ、ドラクの手元にあるのは私兵800。これが精一杯。領内の正規兵もいるが、裏切りを懸念して今回は使わない。
対する王は、王都の親衛隊だけで4000。しかも相手はきちんと訓練を重ねた正規兵。正面からぶつかったのでは勝負にならない。
故にここでドラクがあえて問題を起こし、親衛隊が出兵するような状況を作り出そうとしていた。
親衛隊が動き、王都が手薄になったところを突く。
同じ国内の話だ。親衛隊の兵装を真似た鎧は簡単に手に入る。それを身に着け、王都へ潜入し、一気に王の寝首をかく心づもりであった。
「始めるぞ!!」
「「「「「「「おお!」」」」」」」
ドラクがもう一度気合いを入れる。
それからしばらくして、ドラクは王の圧政、腐敗した政治を糾弾する檄文を発した。
内容は苛烈なものだ。怒り狂った王はドラク討伐のために、一軍を起こす。
ここまでは予定通り。
だがしかし、ドラクたちのあては、ここから大きく外れてゆく。
怒り心頭の王は「自らドラクの首を刎ねる」と言い、親衛隊どころか、総兵8000の兵を自ら率いて、ドラクの領内へ出陣したのである。




