【やり直し軍師SS-150】雷雨(上)
いつもお付き合いいただきありがとうございます!
SS集も150話到達でございます!
本編と合わせるといつの間にやら500話を超えているのですね。はー。書いたなぁ。
まだまだSSは続きますので、引き続きお楽しみいただけると嬉しいです!
稲妻が走り、空気を切り裂く。その轟音に呼応するように、雨粒が地面へと降り注いでゆく。
度重なる雷光が、薄暗い室内を何度か照らした。
――知られてはいけない人に、知られてしまった――
対面に座る人物の顔が照らされるたび、私は身を固くする。もはや、ここまでかもしれない。諦めに似た気持ちが湧き上がってくる。
すぐにも謝罪の言葉を口にしたいけれど、なんとかそれを我慢しながら、相手の出方を待つ。
私にとっては永遠とも思えるわずかな時間。
対面に座るその人は、足の上で組んだ手をゆっくりと解くと、口元にわずかに笑みを浮かべる。
ピシャッ!
一際強い光が部屋を照らし、私が身をすくめた所で相手はようやく、
「内緒で随分と面白そうなこと、しているのね」
と言った。
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「ウィックハルト」
「はっ」
私の後ろに立たされていた、ウィックハルト様が短く答えた。
「おそらく手引きは貴方がしたのでしょう? 少々不用意ですわね」
レーレンス王妃に咎められ、ウィックハルト様は黙って頭を下げる。
「全く、最初に気付いたのが私で良かったわね」
「は?」
レーレンス様の言葉に、ウィックハルト様も、そして私もポカンとしてしまう。レーレンス様はお姉様と仲良しだ。てっきりお姉様まで話が伝わってしまうと覚悟していたのだけど、どうも話がおかしい。
「あの……レーレンス様。お姉様には話されていないのですか?」
「ええ。ラピリアもロアも、夫もまだ知らないわ」
「えっと、レーレンス様はどうやって……」
「そこのシヴィの報告よ」
そのように言われ、レーレンス様が指差した壁を見て初めて、この部屋に私たち以外の人物が佇んでいたことに気づいた。一体いつの間に? まさか、最初から?
慌ててウィックハルト様を見れば、私と同じような顔をしていた。私はともかく、一流の武人であるウィックハルト様に勘付かれないなんて。
シヴィと呼ばれた女性は、壁際からぴょこぴょこと軽快な足取りで近づいてくると、レーレンス様の隣に立った。
「第八騎士団に所属するシヴィよ。……そうね、夫の元にいるネルフィアと同じ立場といえば、わかってもらえるかしら?」
ネルフィアさんのことはよく知っている。国王様が最も信頼を寄せている、ルデクの諜報の長だ。私の家にも何度か来ているから、その役割も理解していた。
そのネルフィアさんと同じと言うことは、レーレンス様お抱えの諜報員という意味で間違いないだろう。
「どうも、初めまして〜」
軽いノリで挨拶してくるシヴィは、どこかで会ったこともあるような気がするし、やっぱり初対面のような気もする。すぐそばに顔があるのに、目を逸らしたらすぐに忘れてしまうような錯覚に陥る不思議な人だった。
私がシヴィに得体の知れない何かを感じていると、レーレンス様が続ける。
「多分、ウィックハルトも人選は丁寧に行ったのでしょう。けれど、本人たちの口が固くとも、あなた達の行動が怪しかったわね。それに勘づいたシヴィが密かに調査を開始した」
「すいませんね。これも一応仕事ですので〜」
どこまでも軽いシヴィ。少し苦々しい顔になったウィックハルト様。
「私の行動が不審がられたとは……自分なりには気を遣ったつもりでしたが……」と少し悔しそうだ。
そんなウィックハルト様に、レーレンス様がフォローを入れる。
「ま、シヴィは少し異常なだけで、普通は気づかないわ。気を悪くしないでね。シヴィには王宮周辺で異変があれば調べて報告するように申し伝えてあるの」
そのように言われれば、私たちには反論の余地はない。実際にコソコソと動き回っていたのだから。
「それで、シヴィからおおよその話は聞いているけれど、ロアの物語を書くというのは本当なの?」
レーレンス様が本題に切り込む。ここに至っては誤魔化す意味もない。私は正直にお義兄様の物語を描いていることを白状する。
「それで、今はどんな感じなの?」
「もちろん2人の馴れ初めも書くのでしょうね?」
「もしかして、2人の普段の様子なんかも書いちゃうのかしら?」
……なんか、レーレンス様がグイグイくる。
ひとしきり質問に答えると満足したのか、レーレンス様は腕を組んで大きくうんうんと頷いた。
「確かに、公にこんなことをしようとしたら、あの二人は拒否しそうね。けれど、我が国の誇る英雄の物語、本来であれば国家事業で行っても良いくらいだわ」
「あのう……そこまで大事な話では……」
そもそも私はただ、個人的に密かに読み返して楽しむ物を書きたかっただけなのだ。
なんとか大事にしないようにお伝えするにはどうすれば良いか、私が頭を悩ます間に、レーレンス様は決断する。
「この一件、私も手伝ってあげましょう」
「へ?」
「味方は多い方が良いでしょう? 悪いようにはしないわ。私にお任せなさい!」
レーレンス様はそのように言いながら、自信ありげに胸に手を当てるのだった。