【やり直し軍師SS-147】軍師と姫君11
いつも読んでいただきありがとうございます。
今回の更新はこちらでラストとなります。
お知らせしておりました通り、本日の一話はおまけ的な短めのお話です。
次回は18日(土)から更新再開の予定ですので、またよろしくお願いいたします!
久方ぶりに帰ってきたルルリアを、ツェツェドラが少しすまなそうに出迎えた。
「お疲れ様、ルルリア。本当は帝都まで迎えに行ければ良かったのだけど……」
「ツェツィーはツェツィーで忙しかったのだから、仕方がないわよ。でもやっぱり帰ってくると落ち着くわね」
ツェツェドラの顔を見て、ルルリアはようやく一息ついた心地になる。
義兄やロアと共に海を渡り、南の大陸のアーセルまで親善の使者として出向き、慌ただしく戻ってきた。
まずは帝都で義父に経緯の報告をしてきたため、家に戻るまでに余計に時間を要したのである。
今回の遠征。グリードルとしては大成功と言える。南の大陸にその武威を示すこともできたし、帝位の後継者である義兄の功績として、しっかりと国民に印象付けることに成功した。
ルルリアはルルリアで、祖国に敵対する勢力に大きな牽制をすることができたので、実りの多い遠征であった。
「それで、そちらの……彼女で合っているのだよね? が、例の」
部屋にはツェツェドラとルルリア以外に、もう一人いた。
男物の執事服を纏っているが、女性だ。サルシャ人の特徴である美しい髪を短く切り揃え、整った顔立ちをしているため、男装の麗人という言葉がふさわしい出立ちである。
「ノーレス、と申します。ご主人様」
ルルリアは満を持してノーレスを呼び寄せることを決め、今回の遠征でアーセルにて合流。そのままグリードルへと連れてきたのである。
「既に私はルルリアから話を聞いていたから、特に身構えることはないけれど、父上…陛下にはなんと説明したんだい?」
ノーレスは一言で言えば他国の密偵だ。いくらルルリアの従者であるとしても、なかなかに微妙な立場と言える。
だが、そんな夫の心配にルルリアは当然のように、「御義父様には『フェザリスの密偵で、私の腹心です』ときちんと伝えたわ。面白がっていたわよ」と答えた。
ツェツェドラは「父上らしいと言えばらしい」と苦笑する。
「しかし、ノーレス、君はどうしてそのような格好を?」
「単純にこちらの方が、何かとやりやすいからです。見た目で妙なちょっかいをかけられるのに辟易しておりますので」
表情も変えずに淡々と答えるノーレス。
ルルリアから見ても、少し会わぬ間にノーレスは美しく成長した。この見た目では男性は放っておかないだろうなとは思う。
ツェツェドラも意図は理解したと頷きつつ、苦笑しながら、
「まあいいか。新しい港ができてグリードル国内も随分と認識が変わったけれど、まだ、別の大陸の人に抵抗感を示す者もいる。それを考えると男装は理にかなっているかもしれないね」と言った。
そんな言葉に、ルルリアはわざとおどけて見せる。
「あら、私も異国出身ですけど、疎んじている方はいるのかしら?」
そんなルルリアの言葉に、ツェツェドラはまた、苦笑。
「少なくとも、君を疎んじようとする人物に心当たりはないなぁ。君を知る人間は、君がどれだけ魅力的かよく分かっているし、君を知らない人間は、君の恐ろしさをよく分かっている」
「後半は随分とご挨拶ですね」
「客観的な事実だろう?」
まあ、夫の言う通りだ。ルルリアがにっこり笑って、返答とすると、その様をノーレスがじっと見ていた。
「どうしたの? ノーレス」
ノーレスは少し感心したような、呆れたような顔をしながら、
「ルルリア様は、どこにいてもルルリア様ですね、と思って」
「もちろん! どこにあろうと、ルルリア=フェザリス=デラッサですもの!」とルルリアが胸をはると、その様子を見たツェツェドラとノーレスは、なんともなしに互いに視線を交わし、目を細める。
それからツェツェドラがノーレスに向かって「とにかく、妻が信用する人材なら、歓迎するよ、よろしく頼む。ノーレス」と言いながら手を差し出し、
「恐れ入ります」
ノーレスはこの数年で覚えたのであろう、優雅な動きで跪くと、ツェツェドラに手を添えて臣下の礼を表すのだった。