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【やり直し軍師SS-137】軍師と姫君①

更新再開いたします!

今回は10話+おまけの短めのお話を含めた全11話となります!


 それはルルリアが楽しみにしている、ダスとの定例会談の時のことだった。


 建前上、会談、などと大袈裟に表現しているが、要はルルリアがダスから情報を収集するための、ささやかなお茶会である。


 ルルリアとしては週に1度はこのような場を設けたいと考えているが、ダスも忙しい身だ。実際には月に1度時間が取れれば良い方で、そもそもダスが一月以上南の大陸にいないこともある。


 そんな貴重な時間、ルルリアは貪るようにダスから周辺国の情報を集めた。


 本来であればルルリア自ら各地へ足を運び、実際に見聞きしてみたいところではある。だが、現状は難しい。


 末娘であるルルリアに対して、父母の愛情はとりわけ深い。ルルリアの才気がひとかたならぬ物であると知られ始めてからは、特にルルリアを側に置きたがった。


 ルルリアが希望するしないに関わらず、文字通りの箱入り娘。それがルルリアの現実だ。


 故にこそダスとのひとときは、とても大切で有意義な時間。会話がひと段落したところで、ダスが「そういえば」と話題を転じた。


「シングエル王国に面白い御仁がおるのです。才覚は飛び抜けておられるが、シングエルでは重用されていない。むしろ冷飯を食らっているような状況で」


「優秀なのに冷飯を? ……つまり行動や言動に問題がある方なのかしら?」


 即座に問題点を挙げるルルリアに、ダスはしたりと頷く。


「おっしゃる通り、率直で忖度のない発言をなされる御仁です。加えて風貌がよろしくない」


 ダスはそこで言葉を止める。まるで貴方(ルルリア)ならどうします? と質問するように。


「フェザリスで雇える?」


「私もそのようにできぬかと考え、王へ進言いたしました」


「結果はどうだったの?」


「王も乗り気でございます。実はこのあと早速、シングエルへ向かおうと思っております」


「どんなお方なのかしら。楽しみね」


「おそらく、ルルリア様ならお気に召されると思いますよ」


 そんな会話からしばらくのち、フェザリスに新しい仕官希望者がやってきた。


「ドラン、と申します。此度はフェザリスの末席にお加えいただきたく、まかり越しました」


 謁見の間まで様子を見に来たルルリアの前で、細身の長身を奇妙な角度に曲げて父上に頭を下げている人物。無理を言って謁見に参加したルルリアは、その姿をまじまじと観察。


 確かにルルリアから見ても覇気に乏しいというか、どこか茫洋とした印象を受ける。髪も長く伸ばし、王の御前だというのに、きちんとまとめるでもなく垂らしていた。


「良く来た。ダスから話は聞いている。歓迎しよう」


 ルルリアの父、フェザリス王、マーズが鷹揚に答え、


「ありがたく」


 謝意を示すようにドランがさらに深く首を垂れると、長い髪が、ドランの顔を覆い隠してゆく。


 元より姿勢が悪いのか、とにかく礼をする姿が絶妙に様にならない。はっきり言えば滑稽だ。


 謁見の間でやり取りを見つめる側近の中には、密かに侮蔑するような笑みを浮かべる者もいた。ルルリアは密かに、それらの人物の顔を覚えようと視線を走らせる。


 ふと、何やら視線を感じ、ドランに視線を戻して、ルルリアは驚いた。ドランは長い髪の隙間から、こちらを覗き見ていたのだ。ルルリアを、ではない。


 ルルリアと同じように、側近たちの反応を確認しているのだと気がついた。


―――もしかして、周囲の反応を見るために髪で顔を隠した?―――

 

 まさか、そう思いながらも疑念が拭えない。そんなルルリアとドランの視線が交差する。


 その瞬間、ドランが目だけで微笑んだようにみえ、ルルリアはドランが周囲を観察していたことを確信するのだった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「やはり、貴方様がルルリア姫だったのですね」


 ルルリアは早速ドランと会談の場を設けると、訪れたドランの第一声が「やはり」であった。


「あら、何か確信されるような出来事でもあったかしら?」


 ルルリアがとぼけてみせると、ドランは「ククク」と悪そうな笑い方で返してきた。


「ダス殿からお話を伺っていた通りです「特別な姫がいる」と。フェザリス王との謁見の中で、貴方様だけが私以外に目を配っておりました」


 やっぱり、観察されていたのね。ルルリアは密かに舌を巻く。同時に、面白い人物がフェザリスにやってきたと興奮を覚える。


「私もダスから、「ドランは知恵の塊である」と聞いているわ。よければ、私に色々と教えてもらえないかしら?」


「色々、とは」


「そうね……例えば、人を密かに観察する方法とか」


 ルルリアの返事にドランはまた、「ククク」と笑う。どうやらこの笑い方、別に悪巧みではないらしい。


「私でよければ、何なりとご質問くださいませ」


 こうしてルルリアは、ドランに弟子入りすることになったのである。




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― 新着の感想 ―
[良い点] フェザリスにルルリア、ダス、ドランの3智将が揃った瞬間!ここから、元々優秀なルルリアが、さらに力をつけていくわけだな。帝国に嫁ぐことを決めるところまであると嬉しいな。 [気になる点] エピ…
[良い点] 再開、お待ちしておりました! そしてっ、ドランキターーーー!! 今回も滅茶苦茶贅沢なお話になりそうです。 もともと優秀なルルリアが、かの御仁からどんな教えを受けて育ったのか。 楽しみに追い…
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