【やり直し軍師SS-135】甘き集い(中)
今回話の内容的に、新キャラ多くてすみません!
僕が立つ中央宮の副厨房には、錚々たる面々が揃っていた。
まずはルデク国王ゼウラシア王、その妻、レーレンス妃。その隣にはネルフィアも座っている。
第10騎士団からはラピリアとその妹、レアリーにルファ。それに、シャリスの姿もあった。シャリスは甘いものが好きとのことで、ルファが誘ったそう。
何故かシャリスの隣には、リヴォーテも澄まし顔で参加。
さらに今回は、レーレンス妃と親しい方々が3名招待されていた。
内務の主幹の一角、リューリア=ワレスト女史および、貴族院の一席、ポーラ=イルセウス女史。
それに、本当に珍しいことに、ゼウラシア王の実妹にて、現在は有力貴族ディクアット卿の妻、ローメート様もこの場にいる。
さすがの僕も若干気後れする面々である。特に、リューリア女史は僕も良く知っている。というか、かつての僕の部署の上司の上司の上司だった人だ。
内政において彼女の存在は無視できない。例えば街道拡張であったり、食料の輸入において、裏方として獅子奮迅の活躍を見せていた一人なのだ。
ポーラ女史は貴族院の刷新において、ゼウラシア王が抜擢した法の番人たる重責を担っている人物だ。元々規律に厳しい方で、貴族連中の綱紀粛正を進めるために最も適任であると判断された。
そしてローメート様。僕もお会いするのは2度目。言葉を交わすのは初めてという方。元々内向的でたおやかな方らしく、公に出てくることはほとんどない。王には2人の妹がいるが、もう一方のレナーデ様とは対照的といえる。
そのレナーデ様は現在北ルデクに滞在中のため、この場にはいらっしゃらない。
レーレンス妃の参加は事前に聞いていたけれど、流石にこれほどのメンツが揃うとは思ってもみなかった。みな、甘いものが好きなんだなぁ。
「本日はどうぞよろしくお願いいたします」
僕に深々と頭を下げる料理服姿の2人。2人は今回僕が作る菓子の手順を覚えるために呼び出された、王宮仕えの料理人だ。名前をワッカーさんとジルさんという。
「こちらこそよろしくお願いします」
僕も2人に頭を下げてから、改めてこちらに注目している面々を見渡す。本当に、無駄に豪華な……。
どうしてこうなったのか。ただラピリア姉妹に少しだけ良いカッコしたかっただけなのだけどなぁ。
でもまあ、考えてもしかたない。早く調理に取り掛かろう。
僕の前に並んでいるのは、甘みの強い芋であるザクバンと鶏卵、バターと砂糖に塩、そして牛乳。ごく一般的な食材ばかりだ。
全員それだけで何ができるのかと、不思議そうに僕の手元を眺めてる。
「……えっと、作ると言ってもそんなに難しいものじゃないんです。まずはザクバンを蒸して柔らかくします。今日は、ワッカーさん達にお願いしてすでに準備してもらっています。ちょうどいい具合に柔らかくなってますね。で、これを熱いうちに潰します」
言いながら器に出して、ザクバンを潰し始める。ザクバンといえば蒸したり焼いたりしてそのまま食べるのが一般的だ。種類や産地によっては蜜が滲むほどに甘味が強く、これだけでも十分なおやつである。
今回使用しているのは少し甘さ控えめの種類。砂糖を加えるし、ツァナデフォルの流儀でいえば、甘味控えめなザクバンが王道であった。
「粒を残せばザクバンの食感を楽しめますし、網で漉して徹底的に潰せば滑らかな舌触りが楽しめます。この辺りは好みですね。今日は2種類作ることにします」
「では、我々も手伝いましょう」
ワッカーさんとジルさんが手伝ってくれ、柔らかくなったザクバンはみるみるうちに潰されて行く。
「そしたらザクバンが冷めないうちにバターや砂糖、塩を適量加えて、牛乳を少しずつ加えながらさらに練ってゆきます。ここは手早くやってください。それと、牛乳を入れすぎないように」
そうして出来上がったタネを、手のひらサイズに丸めて小分けにする。
「最後に表面に卵黄を塗って、あとは焼くだけです。卵黄を塗ると照りが出て、見た目も食感もよくなります」
整形したザクバンは熱された窯の中へ。
「一度蒸してから整形して焼くのね。手間がかかっているわ」
レーレンス妃がそのように口にすれば
「これなら自宅でも手軽にできそうですし、少々値が張るのは砂糖くらいですね」
とリューリア女史が経費を気にする。
「どのような仕上がりになるのか、今から楽しみですわね」
ポーラ女史は見た目が気になる様子。
ローメート様は黙っているが、目だけは僕の手元から離さずに、ふんすとしている。
「ところで、この料理の名はなんと言うのだ?」
頃合いを見てゼウラシア王が問うてきた。
「あ、それはですね……と、すみません。第一陣が出来上がったようです。まずはお召し上がりいただきましょう」
僕が窯から取り出したザクバンのお菓子。卵黄の部分がわずかに焦げ、香ばしい香りを漂わせる。
「ザクバンのシルク焼きです。どうぞ」
皿に取り分ける黄金色の菓子を、皆が身を乗り出して凝視していた。




