【やり直し軍師SS-132】ゾディアと幼子③
翌日、ノーラに数日間の案内を正式に依頼すると、ノーラは喜びをあらわにしながら手を叩いた。
「ありがとう! 任せて!」と鼻息荒く請け負うノーラ。
早速街を案内してもらいたいところだけど、まずは服屋の店主と打ち合わせが先だ。
レナントという服屋の店主に、ゾディアはロアや主だった仲間達の好みや体格を伝えてゆく。ゾディアの言葉を真剣に聞きながら、レナントは几帳面に必要事項を書き連ねる。
細かな部分に関する質問がいくつか飛び、都度、ゾディアが答えること数回。
やり取りが長くなりそうな雰囲気になってきたので、ゾディアは一旦話を切って、ベルーマン達へと声をかけた。
「全員でこのままここに居ても仕方がないから、ノーラの案内で少し時間を潰してきたらどうかしら?」
「それもそうだね。ノーラ、頼めるかい?」
ノーラはようやく出番が来たとばかり、「はい! どこに行きますか旦那方?」とベルーマンに聞いてくる。そうして一座がノーラの先導で、店を出てゆくのを見送ってから、打ち合わせが再開。
レナントとの打ち合わせにひと段落したのは、すでに太陽が中天に差し掛かる頃のことだ。べルーマン達はお昼に一旦戻って来ると言っていたので、あと幾ばくもしないうちに戻るだろう。
それまでのわずかな間、ゾディアは雑談で時間を潰すことに。
「レナントさん、そういえばあの娘、ノーラとはどう言った知り合いなのですか?」
ゾディアが見たところ、ノーラはレナントから駄賃をもらうような姿は見受けられなかった。
そんなゾディアの疑問に、レナントは苦笑する。
「実はですね。ノーラは大きくなったら私のところで雇って欲しいと売り込み中でして……私に使えるところをアピールしたいのでしょう。こうして時折旅人を連れて来るのですよ」
「雇って欲しい……こちらでは、幼い頃からお弟子さんを取るのですか?」
「いえ! とんでもない。むしろ私だって道半ばですよ。何度か断ったのですが、「10年後で構わないから」と。その熱意に根負けしまして……」
「そうだったのですか。ノーラは孤児なのですよね。早く手に職をつけたいのかもしれません」
ゾディアの言葉に、レナントも頷く。
「気持ちはわからないでもないです。例の凶作でいくつかの孤児院の運営がままならくなったと聞きます。彼女もその孤児院の一つに住んでいたとか。中には行き場を失ってしまった孤児もいたらしいです。そんな場面を見てきたのなら、幼いながらに危機感を覚えても不思議ではありません」
「そう、ですね」
「まあ、あのようにまだまだ子供です、10年後と言わず、来年にも心変わりしてもおかしくはないでしょう」
「しかし、もしも気持ちが変わらなかったら?」
ゾディアがあえて問えば、レナントは優しく笑った。
「その時は私も覚悟を決めます。一人前の服飾職人になるまできちんと教えるつもりです」
その言葉を受けて、真面目な人なのだろうな、とゾディアは思う。ノーラが本気で服飾職人を目指すのであれば、良い師匠を選んだと言えそうだ。
そんなことを話していると、外が騒がしくなってきた。みんなが戻ってきたようだ。
「そうだ、ゾディアさん。もし宜しければですが、この後工房の方を見学なさいませんか? 他の職人も皆さんに紹介したいのですが。……ついでと言ってはなんですが、昼食もそちらでご馳走しましょう」
「それは良いですね」
多分べルーマン達も嫌とは言わないだろう。旅一座にとって、タダ飯というのはこれ以上ない魅力的なお誘いと言えるのだから。
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工房は店から少し歩いた町外れにあった。思ったよりも大きい。
「実は、個人の職人達が共同で運営している工房なのです。その方が道具や素材の費用を抑えられるもので」とレナントが説明してくれる。
工房に入れば何人かの職人が待ち構えていた。すでに昨日の段階で話をまとめていたのだろう。レナントの手から、ロア達の体格などの書き記したメモを奪い合うように貪り読んでゆく。
「すみません。皆、英雄の服を作ってみたいと気負ってまして。食堂はこちらです、すぐに準備しますので」
レナントの案内で、ひとまず食堂へ
「みんな! まずはル・プ・ゼアの皆さんと昼食にしよう! 作業はそれからだ!」
食堂の外でレナントが作業の手を止めるように言う声が聞こえ、人々が食堂に続々と入ってきた。
供された昼食は素朴なものだ。だが、十分に美味しい。
そうして賑やかな昼食を終えると、ゾディア達は職人達が洋服を生み出す様を興味深く見学させてもらい、大変有意義な時間を過ごすのだった。