【やり直し軍師SS-13】リヴォーテの日記②
タークドムでお勧めされた酒場での食事は、大変満足できるものであった。品数も豊富で、もう完全に凶作の悪夢からは脱したのだなと改めて感じる。
昨晩サザビーに聞いたのだが、この店にはエンダランド様も来た事があるのだという。
言われてみれば、以前、旧知に会いにゆくと言って王都を離れた事があったのを思い出した。記憶を弄ってみれば、タークドムと言っていたような気がする。
こんな美味い酒場があるのであれば、俺に教えてくれれば良かったのに。まあ、エンダランド様は基本秘密主義だからな。仕方ないか。
「昨日の飯、美味かったな!」
「リヴォ太郎も満足したろ!」
双子が馴れ馴れしく肩を組んでくる。こいつらはいつもこうだ。他国の使者への敬意というものがない。尤も、他国云々というより、そもそも敬意という言葉を知っているかも疑問である。
それはともかく、両側から器用に肩を組んでくるな! 馬上だぞ!?
「ええい、離せ! 俺は今回視察できているのだ! 飯のことなどどうでも良い!」
「ほほう、言ったな」
「なら、カムナルに着いてもパンと水だけだな」
「なっ! ……くっ!」
「もう、二人とも! あんまりリヴォーテをいじめないの! 折角だからみんなで美味しいもの食べようよ!」
そのようにルファが助け舟を出してくれる。この娘は本当に見どころがある。ゼランド王子がご執心と聞くが、まあ、分からんでもない。俺からすれば娘みたいなものだが。
ただ、時折ルファは俺のことを出来の悪い弟のように扱っている気がしてならない。いつの間にか呼び捨てだし。いや、ゼランド王子にも同じような対応なので、恐らくそれは無いだろうな。
「ルファに怒られたのなら仕方ない」
「リヴォ太郎、ルファに感謝しろよ!」
……それにしてもこの双子、ルファの言うことは比較的よく聞く。あの娘には癖の多い奴が好んで集まってくるのではなかろうか?
全く、俺のような常識人がある程度助けてやらねばならんだろうな。何、普段世話になっている部分もある。そのくらいのことはしてやろう。
それからも何だかんだと騒がしく進み、俺たちはようやく、カムナルという町にたどり着いたのである。
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ーーー事前に聞いてはいたが、カムナルという町は確かに変わっている。建物の大半が宿泊施設であり、住まう者もほとんどが施設を維持するために存在している。
確かにもてなしの対応には目を見張るものがあり、これならば陛下がご宿泊なされても大きなご不満は出ないであろう。
それにしてもハローデル牛だ。王宮でもちゃんとした会食でなければ食べることのできない高級肉。俺も何度か歓待で口にしたことはあるが、やはり本場、実に豊潤で、肉厚なハローデル牛を堪能する事ができた。
最近開発されたという、トゥトゥを蒸してすり潰した付け合わせも非常に美味かった。温めたチーズをそのトゥトゥにかけてやると、さらに旨みが深くなる。
食糧難の時期は俺もよく口にしたトゥトゥではあるが、ハローデル牛の強い旨みに対して少しあっさりとした味わいの相性がよく、新しい扉が開かれた気分だ。ーーー
「うむ。こんなものだな」
俺はペンを置いて満腹になった腹をさする。満足の夕食であった。今日はもう寝よう。
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「……というような流れでは如何でしょう?」
ロアとラピリアに段取りを説明しているのは、この街の領主であるルヴェリ=オベラだ。ロアとは顔見知りらしく、「あの時のご恩に報いるため、絶対に素晴らしい式にしてみせましょう!」と息巻いている。
ロアとラピリア以外は比較的手持ち無沙汰であり、俺は少し離れて周囲を警戒していたサザビーに声をかける。
「恩とは、何があったのだ」
「ああ、以前にこの街にちょっとした賊が来ましてね。ロア殿が瞬く間に撃退してみせたんですよ」という返事。なるほど、それならば感謝の意味も理解できる。
それからしばらくは、サザビーにその顛末を聞き出すことに専念。
流石に諜報部所属だけあり、何でもかんでも話すわけではないが、世間話程度には説明してくれた。
「なんだと、グリードルの兵装を偽装したのか?」
「そうなんですよ。すぐに見破られましたけどね」
「それは許されんことだな。ルデクではそんな出来事がよく起きていたのか?」
「いえ。俺が知っている限りではこの一件だけですね。帝国の兵装を手に入れるのも大変ですし、リスクが大きすぎます」
「それもそうだな。で、その、糸を引いていた貴族というのはどうなったのだ?」
「当事者は我々が踏み入れた時にはすでに自害していました。残った一族は……」
その沈黙と表情が全てを物語っている。
「なるほど、まあ、妥当な処理だな。王族に弓を引こうとしたのなら尚更だ」
そんな会話をしているうちに、ひとまずの打ち合わせは終わったようだ。
「リヴォーテ! サザビー! ルヴェリ様がお昼にしようって! 今日はハローデル牛のサンドイッチだって! 早く行こう!」
ルファの元気な呼びかけに応じて、俺たちは揃ってそちらへ歩き出すのだった。
今日の飯も、楽しみである。




