【やり直し軍師SS-126】リヴォーテの日記⑦
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次回更新は10月16日からの予定でございます〜
俺がロアたちと別れたのは、ヴィオリの街が見えたあたりの十字路だ。
「それでは俺は、ここで離脱する」
今回の遠征。ロアはゴルベルの王子のお守りだ。それ以上でもそれ以下でもない。
中々に聡明な王子であり、その成長の過程を見てみたい気もするが、俺にとってはロアが何かしでかさなければ同行する意味はあまりない。
「えーっ! リヴォーテも街まで行こうよ!」
ルファが我儘を言う。誰彼構わずそのようなことを言うと、流石にゼランド王子が嫉妬するのではないだろうか。今度機会があったらそれとなく注意してやるとしよう。やれやれ、手間のかかる娘である。
「そうだぞ!」
「今生の別れなんだからな!」
「お前ら、俺が死ぬ前提で話してないか!? 誰が今生の別れだ!」
双子の馬鹿どもの相手をしている暇はないが、
「早く帰ってこいよ!」
「でないといじめるからな!」
双子が、俺が早く戻ってきてほしいと思っているのが分かるので、まあ、ここは大人の対応をしてやろう。
「はっ! 貴様らが泣いて悲しむ前には戻ってきてやる! ありがたく思えよ!」
「いや、泣きはしない」
「ああ。泣きはしない」
そんな小生意気な双子に悪態をつき、俺はシャンダル一行を十字路から一人見送る。
そして、一団が完全に見えなくなったところで、俺は「さてと」と呟くと、グリードルとは逆の方向に馬首を向けた。
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旧リフレアの北西部の端。満場一致で田舎、という言葉が当てられるこのあたりに、サスナブという町がある。
特産品は蕎麦。土地が痩せており、他に選択肢がなかったという程度の理由で、蕎麦。
しかしながらサスナブには、町の者たちが気づかぬような魅力ある料理が存在している。
別の大陸のことは知らぬが、北の大陸において一般的に蕎麦粉の食べ方といえば、ガレットであろう。俺もグリードルでよく食べていた。あの独特な風味がたまらない。
ところがサスナブにおいて、驚くべきことに蕎麦は麺として扱われているという。
あの蕎麦が麺になるとは、なんと摩訶不思議な食べ方であろうか。小耳に挟んだ時から、俺はずっと気になっていた。
ゆえに北ルデクへの遠征と、グリードルへの報告の機会が重なった今回、こここそが、かの料理を体験すべき好機と捉えたのである。
「らっしゃい」
無愛想な店主、そして飾り気のない店舗。いいねぇ。俺の心にストンときた。店主は味で語ろうといっているのだ。こちらとしても望むところである。
「つけそば、というのを一つ頼む。それからお薦めがあれば他に何品か」
「あいよ」
うむ。それで良い。店主の短い言葉がかえって期待感を煽った。
「お待ち」
しばしして俺の前に置かれた、つけそばなる料理。確かにこれは麺だ。蕎麦粉特有の淡い色味が面白い。
「これはどうやって食べるのだ?」
「そこのつけ汁に浸して、啜ってください」
「すす、る?」
啜る、という言葉は始めて聞く。
俺がピンんときていない事をに気づいた店主は、後頭部に手をやりながら「あー、……ああ、あのお客さんの食べ方ですよ」と指をさす。
店主の指差す先に視線を走らせてみれば、ずるずると音をたてながら麺を吸い込んでいる娘の姿が。
「おいドリュー! つけ汁を飛ばすなって! テーブルがつけ汁だらけになるだろ!」
同席者が注意しているが、当の本人は気にする事なく麺を口に運び続ける。なるほど、啜る、とはあのような行為か。
俺は改めてつけそばに向き合い、心を定めてフォークを手にした。
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啜る、というのは中々に面白い行為であった。不思議なことに、啜ることによって、口から鼻へとそばの良い香りが通り抜けてゆく。
そばだけではない。このつけ汁も良い。これは面白い料理だ。だが、残念ながら、少し刺激が足りぬようにも思う。合間にピリリと味を絞める付け合わせでもあれば、さらに美味くなるような気がする。
だが総合的には充分であった。俺は満足だ。
そういえば、麺を啜っていたあの娘、ルデクトラドで見た事がある。ロアとも親しかったはずだが、なぜ、このような場所に?
まあいい。明日も早い。随分と遠回りになってしまった。早朝には町を出てグリードルへ向うこととしよう。
今日の日記はここまでにする。グリードルに向かうまでに、もう一箇所くらいはおもしろい飯屋に出会いたいものだ。