【やり直し軍師SS-124】シャンダルの小さな冒険④
四話で収めるつもりだったのですが、微妙な長さになりそうだったので分割いたしました。
本日少し短めです!
「さて、では、あとは案内の者達に任せる。ワシは忙しいのでな! 正式な挨拶は夜の歓迎会で! それでは! 行くぞ、ルファよ!」
シャンダルへの挨拶もそこそこに、ルファの手を握って、ご機嫌に立ち去ってゆくザックハート将軍。
「相変わらずだなぁ」
苦笑するロア。
「というか、年々悪化している気がするけれど……」
ラピリアも呆れた声を上げながら、二人の後ろ姿を見送る。
ふと、シャンダルが先ほど挨拶をうけたばかりのジュノスを見やると、ジュノスはなんと、ザックハート将軍に向かって舌を出してしかめ面をしていた。
シャンダルの視線に気づいたジュノスは、
「なんだよ?」
と不機嫌そうな顔を隠そうとせずに突っかかって来る。先ほどの挨拶の時とは真逆の不遜な態度だ。
しかし、そんなジュノスに対しても、ロアは「君も相変わらずだねぇ」と、さして気にした様子もない。
そんなロアに対しても、なおも態度を改めることがないジュノス。
「ロア=シュタイン殿は知っていると思いますが……俺は王家に対する忠誠なんてのは全く持ち合わせ………いってええ!!」
最後まで言い切る前に、頭にゲンコツを喰らってしゃがみ込む。ゲンコツを落としたのはジュノスとともに案内役を仰せつかっていた将官だ。
「何すんだ! スレスト!」
頭をさすりながら抗議するジュノスに無言でもう一発。
「ぐおおお」
床に手をついて唸るジュノスに対して、スレストはもう一度拳を握る。
「お前がどう考えようと、お前の勝手だが、ザックハート様よりお客人のご案内を受けた以上、口の利き方には気をつけよ」
「まあまあ、スレストさん」
ロアが取りなしに入ったけれど、スレストはそんなロアをみてため息をつく。
「ロア様もザックハート様もジュノスに甘すぎです。甘くなる気持ちもわからなくもありませんが、それはこいつのためになりません。特に最近は生意気の盛りですから。厳しく行かせてもらいます。シャンダル様、第三騎士団の見習いが大変失礼をいたしました。今後同じような態度をとった場合は、遠慮なくお申し付けください」
「い、いや、私は気にしていないが……その、大丈夫なのか?」
「毎日鍛錬を欠かさず、体だけは頑丈ですので、お気になさらずに」
「スレストさん、頭は鍛えられませんよ……」
ロアの言葉に「おや、そうでしたか?」としれっと言い放つスレスト。なおも床でのたうっているジュノスに冷たい視線を向けると、
「そろそろ振りであろう? これ以上遊んでいるなら、今後10日間は鍛錬場への出入りを禁止するが?」
スレストにそのように言われたジュノスは、慌てて立ち上がって、再び抗議。
「それは困る! 一日鍛錬が遅れれば、その分ザックハートを倒す日が遅れる!」
ジュノスの言葉にシャンダルは驚いた。今、ザックハート様を倒すと言ったのか? 私とさして変わらぬ年で?
改めてジュノスを見てみれば、上背こそシャンダルとほとんど変わらないものの、肩幅などはシャンダルとは比べ物にならないほどに広い。明らかに鍛え抜かれた体躯である。
「ジュノスと言ったな、君はなぜ、ザックハート将軍を倒そうとしているのだ?」
シャンダルに問われたジュノスは、頭をさすりながらも口を尖らせ「……別になんでもいいだろ」と言い捨てる。
ジュノスの態度にただならぬものを感じて、それ以上の追求は憚られ、言葉を飲み込むシャンダル。
そんなシャンダルとジュノスの間に割って入ったのはロアだ。
「シャンダル様。このジュノスは少し事情がありますから、聞いた通り無礼な態度も取るかもしれません。まあ口は悪いですが、案内係に任命される位には、ザックハート様も信頼しているので、寛大にお願いできれば助かります」
「先ほども申し上げましたが、私はあまり気にしていません」
「ありがとうございます。それからジュノス、君がまだ王家に忠誠を誓いたくない気持ちも分かるけど、それじゃぁいつまで経っても見習いのままなんじゃない?」
「ぐっ」
正論を吐かれて、言葉に詰まるジュノス。
気にしないとは言ったものの、ジュノスがこの若さで第三騎士団に身を置き日々鍛錬をしているというのは、とても気になる。
あとでロアからこっそり事情を聞けないだろうかと思いながら、シャンダルはジュノスに促されて歩き出すのだった。




