【やり直し軍師SS-12】リヴォーテの日記①
今回のリヴォーテの日記は、もしかしたら時系列バラバラでたまに更新するかもしれません。あと、リヴォーテの日記は山なしオチなしなゆるいお話になる気がします。
ーーーーロア=シュタインと、ラピリア=ゾディアックの婚儀の日程がいよいよ決定したようだ。皇帝陛下も参列なされる。各国の思惑も交錯し、失敗は許されぬ式となろう。驚くべきはツァナデフォルの女王、サピア=ヴォリヴィアノからも参加の打診があったことだ。これはルデクの王都、ルデクトラドでも驚きと共に大きな話題になった。果たしてどのような儀式となるか、興味深いことだーーーー
「俺がカムナルに? 駄目だ駄目だ、俺は忙しいのだ!」
いつものように、ルファと共に第10騎士団の食糧庫を掃除していた時のこと。ルファが「今度カムナルに行くんだ! リヴォーテも一緒に行こうよ!」と誘ってきた。
「えー! いいじゃん。ロアも行くよ!」
そこで俺の手は止まる。ロアも行く? つまりまた何か企んでいるのか?
俺は今でもロア=シュタインを危険視している。人として嫌いではないが、あいつは何をするかわからん。帝国に害なす可能性があれば見逃せん。
「……ロアは何をしにカムナルに行くのだ? そもそも、カムナルとはどこだ?」
「カムナルは王家の祠のある町だよ! ロアお兄ちゃんとラピリアお姉ちゃんの結婚式、そこでやるかもしれないんだって!」
「ほお」
式場の下見というわけか。なるほど。ということは、皇帝陛下もその場所にお越しになるな。ならば話は別だ。陛下が宿泊される町、俺が安全確認をしておく必要がある。
「……やはり行こう。忙しい身だが、何とか時間を作ってやる」
「やったー! そういえばカムナルってハローデル牛の生産地なんだって! 美味しいもの出るかな!!」
「何!? あの、噛んだ瞬間に溶けるような肉質でありながら、香りも高く、それでいてしつこくない上質な脂を纏った、極上の牛肉、ハローデル牛の産地だと!?」
「そうだよ! 楽しみだね!」
「い、いや! 俺はそんなもの全く楽しみではないぞ! あくまで皇帝陛下のお越しになる場所が、安全か確認しに行くだけだ!」
「だよねー! でも、美味しいハローデル牛、食べようね!」
「ま、まあ、そこまで言うのであれば、食べてやらんこともない」
そんな風にして、俺はカムナルへの視察を決めたのである。
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「リヴォ太郎は〜」
「サボり〜」
「おい! 双子! 俺はサボりではなく視察だ! 勘違いするな!」
カムナルに向かうのは、ロア、ラピリア、ルファに加えて、俺と双子、ウィックハルトとサザビーだ。
ルデクの窮地を救い、リフレアを併呑した実績からすれば、押しも押されもせぬ国を支える重鎮、それがロア=シュタインである。だが、未だにこの男はこのような少数での行動を好む。
国家の要人としてはどうかと思い、一度苦言を呈したことがあった。するとロアは少し困ったような顔でこのように返してきた。
「少なくとも双子と、蒼弓と、戦姫が周りにいて、切り抜けられないような相手って、なかなかいないですよ」と。
まあ、尤もではある。控えめに言って化け物集団だ。俺も、個人戦でこいつらとやり合いたいとは思わない。
どうもロアは他の者からも似たようなことを提言されていたようで、言い慣れた感があった。確かに文句は付けづらい返答だと妙に納得した。
と言うわけで、これらの面々とカムナルに向かっている。
今回の道程では、途中でとある街に立ち寄りたいという。
「本来なら通過した方が早いのですが、一応今回の件を知らせたいので」
そのように言うロアが向かったのは、タークドムと言う街だ。
領主はダーシャ=シビリアン。老齢ながら、先日貴族院の取りまとめ役を任じられた有力貴族と記憶している。
ルデクの貴族院は俺から見ても些か歪で、王に対して不遜であるように感じていた。案の定しょうもない策謀を何かと巡らせていたようで、リフレアとの一件が解決した直後より、大きな再編がなされていた。
エンダランド翁によれば「これは中々、しっかりと調べた良い粛清ですな」と言う。良い粛清という言葉に若干の違和感を感じるが、あの翁が言うことだ。深く考えるだけこちらが損をする。
ともあれ早々にタークドムに到着。そこそこ大きな街だな。何か美味い名物があるかもしれん。
「ロア殿!!」
出迎えたのはダーシャ=シビリアンの息子の、シャッハ=シビリアンらしい。息子と言っても、もういい歳のように見えるが、当主になったのが最近というのは何か事情があるのだろうか?
いや、ダーシャ=シビリアンは貴族院の取りまとめ役に指名されるだけの人物だ。父親が偉大すぎたのかもしれんな。
「シャッハ様、お久しぶりです。実は、婚儀の日取りが決まりまして……」
「それはおめでとうございます! 父も心待ちにしております! さあ、どうぞ!」
シャッハ=シビリアンは妙にロアに対して謙っているな。このあたりは、少し不思議ではある。確かシビリアン家はそれなりに名家のはずだ。ここまでロアの風下にたつ意味がよくわからん。
何かあったのか、それとも弱みでも握られているのか。
俺は今夜の夕食は何かなと考えつつ、ロアへの警戒心を改めて認識するのであった。




