【やり直し軍師SS-117】女王、襲来⑦
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僕らの先導で、無事に王都へ到着した女王一行。
ゼウラシア王との挨拶も無事に終わり、その後はしばらく王都にて羽をのばす。
サピア様は王都でもディックやシャリスに喧嘩を売ったり……じゃなくて、手合わせを願ったり、ゲードランドの視察でリュゼルやフレインと駆け比べとなり、女王の配下の人々が慌てたりと、なかなかの騒がしさの中日々が過ぎた。
ちなみに僕らの行きつけであるトランザの宿にも連れて行った。女王であることは内密であったので、スールちゃんが「あら、新顔の方ですね。騎士団の新人さんですか?」と気軽に話しかけているのが少し愉快だった。
こうして瞬く間にサピア様滞在の最終日である。
王の主催で送迎の宴が執り行われ、そこここで談笑が繰り広げられている。僕は隅の方で大人しく様子を眺めていたのだけど、そんな僕の元へサピア様がやってきた。
「ロア、このあと少々時間を貰いたいが、可能であるか?」
サピア様の表情からすれば、あまり人に聞かれたくない内容のようだ。
「……構いませんよ。かなり内密な話ですか?」
「うむ。聞かれて困るような話でもないが、同時に、余人に聞かせるにはいささか差し障りがあるように思う。お主の信の置ける者だけであれば助かるな」
「王にも話せない事で?」
「後から伝えてもらう分には構わぬ」
そう言う事なら僕の方はなんの問題もない。宴が終わった後、僕の執務室での会談を約束して、その後はゆっくりと宴を楽しんだ。
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約束通り執務室にやってきたのは、サピア様とジュベルノさん。待ち受けていたのは僕とラピリア、ウィックハルト、そしてネルフィアだ。
ネルフィアがいる以上、ここで聞いた話は全て王に筒抜けとなる。僕がサピア様にもそのように伝えるも、問題ないとのこと。
こうして少々の雑談を挟んで、程よく場が和らいだところで、僕の方から本題を促した。
「うむ。では、単刀直入に聞く。ロアよ、お主は王にはならぬのか? 或いはルデクを導き、大陸に覇を唱えんのか?」
ああ、確かに宴の場で聞くような事ではないなぁ。それにしても……
「……随分と唐突な質問ですね。理由を伺ってもよろしいですか?」
「うむ。此度妾がルデクにやってきたのは、戦の気配を探るためぞ。今やルデクは大陸に覇を唱えることができるだけの地位を得た。尚且つ最大の脅威である帝国とは懇意。ならば当然、兵を起こすのが自然と考える」
「なるほど、それは分からなくもないですが……僕が王になると言うのは?」
「ここまでの功績を考えれば、ロアを王に推す声があってもおかしく無いように思った。だから密かに人々の反応を見ておった。尤も、ここまでの道中で”無い”と判じたので、今聞いたのだ」
今回の遠征、女王の真意はルデクが兵を起こすかどうかの確認だったのか。
確かにサピア様の指摘は理解できなくはない。特にルデクと国境を隣接するようになったツァナデフォルとしては、ルデクの動きは国家の命運に直結する。
「……サピア様の見立てでは、ルデクはいかがでしたか?」
「拍子抜けするほどに、戦の気配がなかったの」
「そう感じていただけたのなら何よりです、僕はもちろん、ルデクは大陸に覇を唱えるつもりはありません。これは僕だけではなく、王や王子の共通認識と考えていただいて構いません」
そのように言いながら、僕はエンダランド翁とした約束を話す。これは王にも話してあり、王からも了解を得ている。
「ふむ。帝国とそのような約束をしたのか……」
納得顔のサピア様に、僕はもう一つの質問もはっきりと答えておく。
「僕が王になるという話ですが、こちらに関しては、そもそも僕は王の器では無いです。なので、最初から王になることなんか、考えたこともありません」
こちらの返答には少し納得がいかなかったみたいだ。
「ロアよ、王の器とはお主自身が決めるものではない。民が決めるものじゃ。妾にはお主には十分な器があるように思うが?」
そこまで買ってくれるのは面映ゆいところだけど、実はこれにもはっきりとした理由がある。
「光栄なお言葉ですが、僕にはサピア様やゼウラシア王が持っている大切な資質がないんです」
「資質とな?」
「ええ。リフレアとの決戦についてはある程度ご存知ですよね。僕は凶作を利用して、リフレアを決戦に持ち込みました。例えばの話ですが、この状況下においてサピア様はどのような戦略を取られますか?」
サピア様はすぐに、「リフレアが飢えるギリギリまで待つ。弱体化したところで蹂躙する」と答える。
「それはなぜですか?」
「無論、自国の兵の被害を減らすためであろう」
そう、サピア様も、ゼウラシア王も、その選択ができる。
「僕はルデクの兵士に多大な犠牲を出しても、リフレアの被害を減らそうと決戦を急ぎました。これは多分、一国の王としては絶対に取ってはいけない選択だと思います」
もちろんリフレア制圧後の抵抗を減らすなどの、ちゃんとした理由もある。けれど、王は自国の民を護るべき存在であるべきだと僕は思う。故に、僕は王になる器ではないのだ。
「……そうか。正直に言えば、お主の言い分にはまだ納得できぬ部分もあるが、同時に理解できる部分もある。ひとまず妾の疑念は晴れた。礼を言おう」
「それならば、よかったです」
「しかし、残念な話じゃのう」
「何がです?」
「なに、お主に大陸を獲る野心あらば、妾はお主の風下に立っても構わぬ。という意味ぞ」
そんなサピア様の言葉に、僕は苦笑するしかなかったのであった。