【やり直し軍師SS-115】女王、襲来⑤
女王の指名を受け始まった、サザビーとサピア様の戦いも見応えのあるものだった。
「せめて個人戦は勘弁してください」
懇願に近いサザビーの提案によって、今回も2対2での戦いとなる。
「では、私が参加しましょう」
そのように名乗りを挙げたのはウィックハルトだ。珍しく好戦的な顔をしている。
「ふむ、蒼弓が参加するか。ならば少々趣向を変えようかの」
サピア様は訓練場の両端に小さな丸を描くと、レイピアでその円を差し示した。
「射手はこの円の中に留まってもらう。ここから主攻を援護する形じゃ。矢の数は5本。この5本で如何に味方を助けることができるかが腕の見せ所である。なお、弓はあくまで補助のため、当たっても決着とはならぬ、勝敗は妾とサザビーの間でのみぞ」
流暢な説明だ。このルールが初めてでないことが伝わってくる。ツァナデフォルではよく行われているのだろうか。
「なるほど、分かりました」
了解するウィックハルトの向こうでは、既にジュベルノさんが武器を弓に持ち替えて円の近くにいた。本当にそつのない人である。
「では、サザビー、お主の獲物を選ぶが良い。レイピアは使い慣れておらぬだろう」
そんなサピア様の言葉で、サザビーは諦めたように肩を落としながら、立てかけられていた訓練用の武器を物色。そうして一つの武器を選び出した。
「じゃあ、俺はこれで。ちなみにメイゼストみたいに両手でも良いですか?」
そんな風に言いながら、サザビーがサピア様に見せたのは短剣だ。
「構わんが、短剣では些か攻撃範囲が短いのではないか? それとも、妾の胸元まで踏み込める自信があると?」
猛獣のように歯を剥き出し笑うサピア様。一方のサザビーは「滅相もない」と言いながら、短剣をその手に固定する。
「単に俺が使い慣れた武器ってだけですよ」
「なら、構わん」
たしかサザビーが僕のところにやってきた頃、槍捌きには自信があると言っていたのを思い出す。一番得意なのは短剣ってことなのかな? 確かにサザビーなら、どんな武器でも器用に使いこなしそうだけど。
そんなことを考えている間にも、戦いは始まった。
サザビーを捉えて離さない、サピア様の視線。
「では、参るぞ!」
言うなりレイピアを深く突き出す。
「はやっ!!」
驚きながらも後方に回転しながら避けるサザビー。
「うむうむ。そうでなくてはな」
サザビーの軽業師のような身のこなしに、サピア様は大変ご満悦だ。
「やっぱり横で見ているよりも、ずっと速く感じますね……これ、俺には荷が重いですよ?」
そんな風に嘯くサザビーの目の前で、すうっと身体をずらしたサピア様。直後、サピア様が立っていた場所を、矢が走り抜ける。
「うおっ」
上体を逸らしながらかろうじて矢を避けたサザビーに対して、サピア様がレイピアを突き出さんとした瞬間、逆に「ぬっ!」と言いながら、サピア様が大きく身体を捻った。
サピア様の髪を弾きながら通過して行く、ウィックハルトの一撃。
「流石は蒼弓。こちらが嫌がる呼吸を弁えておる」
一度体勢を立て直そうとしたサピア様が、ほんの一瞬ウィックハルトに視線を向けた時には、既にサザビーがその懐に忍び込んでいた。
「っ!!」
小さな気合と共にサザビーの手元から繰り出される短剣、それをレイピアの柄で受け、蹴りを繰り出すサピア様。
しかしサピア様の足は空を斬る。再び背後に飛び退き、今度はジュベルノさんの矢も警戒したサザビーは、そのまま何度か後方回転を繰り返して、サピア様との距離を取った。
そんなサザビーの様子を見て、サピア様はいよいよ楽しげである。
「謙遜しておったが、妾の見立て通り、貴様も只者ではないな!! 愉快である!」
「謙遜ではないのですけどね……」
二人の温度差が開く一方だ。
こうして続いた戦いは、双子との戦いの倍以上の時間をかけて、サピア様勝利で決着。互いの助攻の矢が尽きたところで、一瞬の隙をついたサピア様のレイピアが、サザビーに届いた。
「参りました」
両手をあげて首を振るサザビーに、「実に楽しかった!! また戦ろうぞ!」と肩を叩いたサピア様。
僕から見れば全く休暇になっていないような気がするけれど、まあ、本人が満足ならよかったよかった。
この戦いが終わったところで、砦の兵士が準備が整ったことを知らせにきたので、ここを良い潮として、僕らは一息つく事にする。
「なんだサザビー、やるじゃねえか」
「今度私たちとも戦ろうぜ」
「馬鹿者、お主らはいつでも戦れるであろう。妾の休暇中は妾との戦いを優先せよ」
美女三人に大人気のサザビーであったけれど、不思議と全く羨ましくない。
当のサザビー本人は、先ほどからずっと僕になんとかしろという視線をチラチラとむけているけれど、こればかりは流石に無理だなぁ。
がんばれサザビー、応援しているぞ! 陰ながらね。