【やり直し軍師SS-114】女王、襲来④
戦闘民族の族長……じゃなくって、ツァナデフォルの女王サピア様の要望によって、僕らは道中の宿泊地予定を変更。シュタイン領に向かう道中で、ベベントという砦に立ち寄ることになった。
べベントは中規模の砦だけど、周辺では一番設備が整っている。
もちろん、ホッケハルンやオークル級の砦ではないので、女王を迎えるにあたって砦内はおおわらわだ。
「妾の我儘から始まった話じゃ。準備など不要ぞ。その辺に干し草でも敷いてくれれば、妾は眠れる」
と、当の本人は言うけれど、「そうですか助かります」とはならないよね。
どうにか女王やツァナデフォルの賓客達の宿泊準備を整える間、女王達はご希望通りの訓練場へ向かうこととなった。
「うむ。うむ。この無骨な感じは大変良いの」
飾り気のない部屋を見ながら、大変満足げな女王。
「さっそく戦るか!」
「前回は余計な邪魔が入ったからな」
と、レイピアを取り出す双子。なんで今回に限ってレイピアを持ってきたのかと思っていたけれど、最初からこのつもりだったのか。
「そうじゃの。妾も心残りであった。ジュベルノ!」
「お召替えの準備は整っております」
女王の最側近であるジュベルノさんは、砦に到着してすぐに、着替え用の部屋まで押さえている。とても優秀な人だ。
「よし、では着替えてくる。しばし待て!」
そのように言い残すと、女王はジュベルノさんと共に、颯爽と着替えに向かうのであった。
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「では、参ろう」
鎧を纏ったサピア様と、その半歩後ろで構えるジュベルノ。
対する双子は横並びでレイピアを地面に向けている。
僅かな静寂ののち、サピア様が一歩足を踏み出す。すると双子は一歩下がり、同じ距離を保った。
「珍しいですね。双子が消極的なのは」
僕の隣で見ていたウィックハルトが呟く。
「珍しいかな? 確かに言われてみればあまり見ない気もするけれど……」
自慢ではないが僕は個人戦に関しては未だに素人と言って良い。多少は動けるようになった気はしているけれど、周囲がちょっととんでもないので、この辺りは最早諦めている。
そんな僕にウィックハルトが解説してくれる。
「双子は獣のような勘と反射神経で、大抵の攻撃は簡単に避けます。故に、紙一重で避けて、相手を叩く、後の先を好んで使います。まあ双子の場合は単に、攻撃をギリギリで避けて遊んでいる部分もあると思うのですが」
ほうほう。
「その双子が警戒して距離を取り直したと言うことは、簡単に避けることができる攻撃ではないと判断したのでしょう」
「……双子が避けられないかもって、結構すごいんじゃないの?」
「ええ。相当な使い手ですね……2人とも」
ウィックハルトがそのように言うのであれば、そうなのだろう。
双子は一度目配せし合うと、ジリジリと二手に分かれ始めた。
「ふむ? ジュベルノよ、どうする?」
双子の動きを見て、サピア様がジュベルノさんに問うた。
「そうですね。では、試しに一人請け負ってみましょうか?」
言うなり一気にメイゼストの方へと距離をつめるジュベルノさん。その動きに呼応するように、ユイゼストがサピア様へと斜めに走り込んでゆく。
「しっ」
ジュベルノさんの突きを、自分のレイピアで弾くメイゼスト。メイゼストは一度後ろに飛び退くと、一度身をかがめ、大きく伸びながら突きを繰り出す。
「はあっ」
気合い一線、メイゼストのレイピアを弾いたジュベルノさん。2人の身体が一瞬交差して入れ替わる。
一方のサピア様は凄まじい手数の突きを繰り出し、ユイゼストを翻弄。ユイゼストはとにかくぴょんぴょんと飛び回り防戦一方だ。
自分の体に届きそうな突きのみいなし、ひたすら逃げ回るユイゼストと、何度も立ち位置が入れ替わるメイゼストが背中合わせになった時、ついに状況が動いた。
「おらあっ!」
「くらえっ!」
同時に弾けるように飛び出した双子。
「甘いわ!!」
サピア様のひと突きがユイゼストを弾き飛ばす。
「ぐえっ」
地面をゴロゴロと転がるユイゼスト。
同時にもう一方では
「参りました」
と、ジュベルノさんが膝をついて手を上げてた。
メイゼストは、両手にレイピアを持ったままジュベルノさんの前で仁王立ち。
「あれ? レイピア2本?」
不思議に思ってユイゼストを見れば、転がっているユイゼストは武器を持っていない。
「……先ほどの一瞬でレイピアを渡したのでしょう」
ウィックハルトが感心したように呟いた。
「ふむ。残念だが、引き分けか」
サピア様はユイゼストに手を差し伸べ立ち上がらせながら宣言。
「強えな! 女王!」
「危なかったぞ!」
双子も満足そうだ。
そうしてぱんぱんと手を叩いた女王は、
「では、次はサザビー、戦るか」
と今日一番の笑顔を見せた。




