【やり直し軍師SS-113】女王、襲来③
話の切りの都合で本日少し短めです〜
しばらく天上の園の風景を楽しんだ僕ら。頃合いを見て、ホックさんがサピア様に別れの挨拶を告げる。
「では、アタシ達はここまでです。ここからはロアのご案内でどうぞお楽しみくださいませ」
「うむ。ここまでの案内に感謝する」
2人の会話が終わったところで、ホックさんに声をかけたのはルファ。
「ホックさんも一晩くらいお泊まりして帰ればいいのに……」
「ありがと、ルファちゃん。でもアタシも少し忙しいのよ」
ホックさんはそんな風に言いながら、僕の方をチラリと見る。僕は事情を知っているので、あとは任せるという意味だろう。
先日北ルデクではちょっとした騒動があった。ルデクの統治を快く思わない者達が、徒党を組んで兵を起こしたのだ。
だが数は少数であり、多くの旧リフレアの民は新たな統治者に好意的である。さらに第八騎士団の手早い対処もあり、大きな騒動には至らずに挙兵は失敗。
とはいえ、流石にしばらくは警戒が必要であることから、ホックさんはあまりのんびりしていられないのである。
この件は周辺国の手前、あまり大々的にしたくない。ゆえに、王都で知っている者もある程度限られていた。
「ルファ、今度改めて北ルデクに遊びに行こうよ」
僕がそう促すと、ルファも拘泥することなく「分かった」と元気な返事。
こうしてホックさんを見送ると、僕らは晩餐までしばしの自由時間だ。
「サピア様は何かご希望はありますか? せっかくなので湖まで行ってみます?」
女王は少しだけ考えてから、ゆっくりと首を振る。
「いや、妾達が湖まで行くとなれば、観光に来ている民達が萎縮してしまうであろう。ここから眺めるだけで十分じゃ。それよりも……」
「それよりも?」
「うむ。この宮には一戦交えることのできる施設はあるのかの?」
「は?」
思わずキョトンとしてしまう僕に、女王は繰り返す。
「なんじゃ? ないのか? 妾の国の王族の施設には必ず併設させているのじゃが」
……ツァナデフォル。僕が思っていた以上に、戦闘民族だった。
「そうか、この離宮にはないのか……」
本当に残念そうな女王。
「どこかの砦に行けば、そう言ったところもありますが……」
僕の言葉に、ふむと顎を触る女王。
「ならばどこかの砦で一夜を明かすのは可能かの?」
「まあ……良いですかね、王子?」
僕は一応王子に許可を仰ぐ。
「構いませぬ。手配いたしましょう」
王子の返事を受けて、女王は満足げだ。
「ではそれまで楽しみにしておきましょう。此度は第10騎士団の多くの者達と剣を交わしたいものであるし、楽しみは後にするのもよかろう」
ん? 今なんて?
「まずは私たちとだぞ!」
「順番は守れよ!」
女王の言葉をさも当然と受け止めているのは双子だけだ。
「特に此度はサザビー、お主とも是非一戦交えたいものじゃ」
さらりとサザビーが指名された理由が判明。渋い顔をするサザビー。しかしこれは、逃げられない感じだな。
「弓の名手ウィックハルトや、剣技の腕も耳にするラピリア。他にもロアの周りには使い手が多数おるのだろう? 実に楽しみじゃ」
……休暇……え、それ、休暇ですか?
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その夜、晩餐を終えて、酒豪ぶりを発揮する女王や双子を適度なところでサザビーに任せて退出した僕。
流石にサザビーだけに任せるのは申し訳ないので、ウィックハルトにもフォローをお願いして、僕とラピリアは離宮の庭沿いの廊下を歩いていた。
「風が心地よいわね」
「そうだねぇ」
2人で夜風を楽しんでいると、不意にラピリアが僕の体を引き寄せる。
驚く僕の口に手をあて、
「静かに」
と短く伝えるラピリア。
ラピリアが黙って指差す先に、2つの人影。
確認しなくても背格好で分かる。ゼランド王子とルファだ。
僕らは目で合図し合うと、そのまま物音を立てぬように、ゆっくりと来た道を戻ってゆくのだった。