【やり直し軍師SS-107】2人の軍師14
次々と疑問が湧き上がり、考えがまとまらぬままにクルーガは丘を下る。クルーガにとっては思いもよらぬ、悪夢のような状況。
一体、何が起きているというのだ?
なぜ、我々が一方的に責め立てられ、こうしておめおめと退却しているのか?
先ほど、敵将に討たれたのは、本当にサルートであったのか?
王になんと説明したら良い? 1万の兵がなすすべもなく敗れましたと伝えるのか? 叱責で済むような話ではない。
いや、1万の兵全てを失ったわけではない。先発部隊の2000、いや、3000近い兵はやられたが、俺は最低限の被害で撤退を決断できたはずだ。そもそも、ラジュールが愚かにもアーセルと揉めたから、このような状況にある。
全てはラジュールのせい。そうだ。ラジュールが悪いのだ。ラジュールに責任をとってもらうのが筋というものだ。
クルーガはひたすら弁明の言葉を考えていた。
故にこそ、全く気づいていなかった。
森の中から、クルーガを窺う部隊の存在に。
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馬の背の向こうから、大きな歓声が上がる。
「勝負あったようですね」
ネルフィアの言葉に、僕は頷く。
多分、ドランの部隊がイングの指揮官を討ったのだろう。ドランは背後を突くでもなく、こちらに合流するでもなく姿を消した。なら、狙いはただ一つ、伏兵だ。
彼は僕らがイング兵に勝つと読み切って、敵の敗走を待っていたのだ。大したものだと思う。
「勝ったのであるか……?」
確信の持てぬアーセル王が言葉を絞り出す。
「ええ。我々の勝ちですね」
僕が返しても、アーセル王は未だに信じられぬと繰り返す。
そうこうしているうちに、僕らの元へラピリアや双子たちが帰ってきた。
「お疲れ様。全員怪我はないかな?」
「問題ないわ。でも、こっちはちょっと問題かも」
そのように言いながらラピリアが差し出したのは、最新の十騎士弓。見れば射出部分が破損している。
「私のだけじゃなくて、いくつか同じように壊れたの。連射はやりやすくなったけれど、耐久性に難があるわね」
「新しい改良版は、これが初めての実戦投入だったからね。持ち帰ってドリューと相談だなぁ。今後は耐久テストもしっかりやらないと」
労いもそこそこに反省会が始まる様を見て、ラピリアたちと一緒に戻ってきたオザルドがなんとも言えぬ顔で見てくる。
別に僕らだけではない、帝国の方も似たようなものだ。
そんな帝国からひとり、ラサーシャがこちらへ近づいてきて、ラピリアの前に立つ。
「流石は戦姫。見事な用兵でした」
ラサーシャの言葉を受けて、ラピリアも
「ラサーシャ殿も、噂に違わぬお手並み。勉強になりました」と返答。
呆れたことに、2人とも両翼にありながらお互いの動きに注目していたようだ。会話を聞いていたオザルドが引いているけれど、正直僕もちょっと引く。すごいな。
「おいロア」
「一番美味しいところを掻っ攫ったのが帰ってきたぞ」
双子の言葉で視線を移せば、ドランが兵を率いて戻ってくるところだった。よく見れば一人、後ろ手に縛られた男も馬に乗っている。
ドランはアーセル王の前に来ると、下馬して頭を下げる。
「流石は精強なるアーセルの勇者たち。見事イングの愚か者どもを撃退めされましたな。お祝い申し上げる」
ドランの丁寧な言葉に、アーセル王は
「う、うむ。ご苦労であった」というに止まる。
「さて、さしたる価値があるかはわかりませんが、これを」
差し出された兜を見て、アーセル王より先にオザルドが反応。
「予測はしていたが……本当にクルーガを討ち果たしたのか……」
「我々は敗走するところを狙っただけ。真に称賛すべきは、貴殿や、グリードル、ルデクの猛者の皆様です」
「しかし……それに、あそこに捕らえているのは、パミットではないか?」
「ええ。降伏を促したところ兵の命と引き換えに、潔い決断をしたのでこうして連れて参りました。何かと利用できますので」
しれっというけれど、逃げ惑うイング兵の中で一人捕らえて降伏を促すなど、簡単な話ではない。
ドランの言葉に興味を惹かれたのか、ビッテガルドが会話に加わる。
「ほう、どのように利用するのだ?」
「無論、イングとの”友好の使者”として」
要約すると、この一件をこれ以上の火種にしないために利用するってところか。
それぞれがドランの言葉の意味を考え、しばしの沈黙が漂う。そんな中、当のドランは平然と、
「さて、日が暮れるまでに戻りましょう。この時間なら、歓迎の晩餐も無事に開催できるでしょうから」
と、穏やかに宣うのだった。




