【やり直し軍師SS-106】2人の軍師13
「手応えねえな」
「いっそ大将でも狙うか?」
好き勝手に暴れ回る双子。もはや周辺のイング兵達は逃げ惑うばかりで、戦いにもならない。
双子が飽きてきたところで、「どけやどけぇ!」と威勢の良い声と共に丘を下りてくる2人の将。
視線はしっかりと双子を捉えている。
「おっ、なんか来たぞ、ユイ」
「楽しめるかな? メイ」
味方の兵すら蹴り飛ばしながら双子の前にやってきた両将は「なんだ、女か」と鼻白む。
「俺はクルーガ隊副将、サルートである! 無双のサルートとは俺のこと!」
「同じくパミット! 我らが出てきた以上、貴様らの命運はここまでよ!」
大音声で名乗りをあげるサルートとパミットに、周辺のイング兵から歓声が上がる。その声を受けて気をよくした2人は、右手に掴んだ槍を大きく振るって見せた。
そんな2人とは対照的に、コソコソと話をしている双子。
「どうした? 雑兵には強気に出られても、我らのような武人を前にしては臆したか?」
ニヤニヤと双子に話しかけるサルート。だが、双子は完全に無視。
「おい! 聞いているのか!」
苛立ちながら双子に怒鳴るサルートに、ようやく双子はそちらを見やる。
「あっちの五月蝿い方、弱そうなんだよな」
「大して変わらないだろ? 私が地味な方な」
「しょうがない。おい、仕方がないからお前の相手をしてやる」
「おい、地味な方、お前はこっちだ」
どうやら、戦う相手を話し合っていたらしいと気がついたサルートとパミットは、舐められていると確信。
「ふざけた真似を! すぐに後悔させてくれる!」
馬の腹を蹴ると、猛然とメイゼストヘ襲いかかるサルート。射程に入ると同時に、勢い任せの槍を突き出す!
「よっと」
サルートの槍を紙一重でかわすメイゼスト。
「ほお、よく避けたな。だが、次はないぞ!」
次々に繰り出される突き。それら全てを体をひねって避ける。
2人の戦いを見つめる雑兵たちは、サルートがメイゼストを屠るのは時間の問題と期待を込めて見つめていた。
しかし彼らは徐々に気づき始める。ずっと、メイゼストが笑っていることに。
肩で息をしながら、鬼のような形相で槍を突き出すサルートと、ただ笑いながら避け続けるメイゼスト。彼女は一度たりとも自身の槍を構えてさえいない。
ーー遊ばれているーー
雑兵たちがざわつき始めた。サルートも気づいている。しかしここで退くという選択肢はもはやない。
「う、うおおおおおおおお!!!」
もはや悲壮感すら漂う、魂を込めた渾身のひと突き。
しかしその槍は、メイゼストに届くことはなく、腕と共に空中を舞った。
メイゼストの振り上げた槍が腕ごと切り飛ばしたのである。
「ぐあああああああ!!」
痛みに叫び狂うサルートに対して、メイゼストは小さくあくびをしながら、もう一度だけ、槍をまっすぐに突きだした。
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サルートとメイゼストの戦いに決着がついた横では、パミットが呆然とその様を眺めていた。
パミットもサルートと同時に戦いに挑んだのだが、ユイゼストはパミットの攻撃を適当にいなしながら、隣の戦いを観戦するという有様。
自然とパミットもその手を止めてサルートの戦いに視線を移してみれば、あまりにも一方的で、残酷な結果が待っていた。
サルートとパミットの実力差はほとんどない。冷静にことを運ぶ分だけ、やや、パミットの方に分があるといった程度だ。
そのサルートが何もできぬままに、あしらわれて死んだ。
パミットには、目の前の将が死神に見えた。
パミットの視線に気づいたユイゼストは、ようやくパミットに視線を移すと、
「じゃあ、やるか」
と満面の笑顔。
「ヒッ」
それは無意識にパミットの喉から零れ出た、小さな悲鳴。それからは早かった。乱暴に馬首を巡らせると、ユイゼストに背を向けて、一目散に逃げ出したのだ。
そんな指揮官の姿を見たイング兵たちは、ついに崩壊。我先にパミットを追い逃げ始めた。
「逃がして良いの?」
ユイゼストの後ろから声をかけてきたのはラピリア。
「雑魚を相手にしても仕方がないからな。それにそろそろ、だろ?」
ユイゼストは完全に興味を失った目で、パミットの背中を眺めている。
同じ頃、帝国側が請け負っていたあたりのイング兵も逃走を始めた。両翼が崩れたことで、中央でオザルドと競り合っていた部隊も撤退。
この一連の動きを見て、馬の背の頂上で戦況を窺っていたクルーガの本隊は、自領に向けて丘を下り始めたのであった。




