066.『冒険』3
翌日も朝早く目が覚めた。毛布のおかげか慣れのためか昨日よりはよく眠れた。朝食はパンとジャムと水だった。琢磨は元気がなく、食欲が湧かないようだった。普段は弱音を吐かない悠樹も傷の痛みを訴えた。早く食器を綺麗にして料理がしたいと杏奈が言った。たしかに早く自炊を始めないと栄養の偏りや食費の増大が懸念された。そもそも今手元にあるスレッダからもらった金がなくなったら自分たちはどうなるのだろうか。自分たちが与えられた滞在権なるものはあくまでもこの国にいて良いという権利に過ぎないはずだ。生活や命まで保証されるものでは到底ないだろう。だとすれば、またスレッダに金をせびるか、あるいはこの国で働くほかない。しかし仕事がそう簡単に見つかるだろうか。仮に見つかったとして、それが自分たちに務まるだろうか。そもそも滞在権には労働をする権利まで含まれているのだろうか。真琴たちは数日先に重く暗い未来が横たわっているような予感を漠然と覚え不安になった。できるだけ早くもう一度スレッダに会っておいた方が良さそうだと真琴は思った。
朝食が終わると予定通り買い物組と留守番組とに分かれて行動した。翔吾と悠樹はカーテンとカーペットをバルコニーの手すりにかけて叩いた。叩いても叩いてもホコリやカビは毎回激しく舞った。特にまだ傷の痛む悠樹は苦労した。琢磨も大儀そうに家中の家具にはたきをかけた。
一方真琴と杏奈は徒歩で市場へ向かっていた。昨日は馬車で行った場所だが、徒歩で行けないこともない距離に思えたため、物は試しとばかりに二人は歩くことにしたのだ。歩いて周辺の街の土地勘を掴むのも狙いの一つだった。真琴は琢磨と悠樹の様子が気がかりだった。琢磨は明らかに元気がなく、昨晩は愚痴をこぼしていた。悠樹は体の動きが鈍く、特に今朝は珍しく痛みを訴えていた。しかし対照的に横を歩く杏奈は楽しそうだった。不意に彼女がこんなことを言った。
「真琴、なんか変なこと気にしてない?」
真琴は心底驚いたが平静を装った。だが返答には窮した。「何が?」と聞けば余計問い詰められるし、具体的に何についてか聞いてもいないうちに「気にしてない」と言えば気にしていたと白状するようなものであるし、かといって無言は図星を突かれたことになる。
「五人そろったのって久しぶりだよね」
真琴が答えないうちに杏奈はそう言った。真琴は杏奈に対し申し訳ない気持ちでいっぱいになった。神妙な顔をする真琴とは対照的に杏奈は明るく言葉を継いだ。
「ほんとは由衣ちゃんもいればいんだけど」
真琴は由衣のことを思い、みなのことを思った。
「またバッティングセンター行ったりしたいね」
真琴は心から本当にバッティングセンターでまたみなと遊びたいと思った。彼は杏奈に深く感謝した。彼はようやく言葉を紡ぐことができた。
「行きたいね」
横を歩く杏奈が先ほどよりも嬉しそうに笑っているのを真琴は見なくても感じることができた。
二人の予想通り市場は歩いてもさほど遠くないところにあった。時計を持たない真琴たちにはわからないが、体感で三、四十分ほどといったところだった。特に帰りは大変な道のりになるが、徒歩で通うのが無理な距離ではないと感じた。
重曹は手に入らなかったが、酢は簡単に手に入れることができた。他にも杏奈は塩、レモン、小麦粉などを買った。さらに洗剤を調合するためのビンを買い、他に何点か掃除用具と日用品を買った。疲れや怪我の具合が気になる悠樹と琢磨のために何か栄養価の高いものを買うことにし、二人は牛乳と玉子とハチミツを買った。
「俺が持つよ」
そう言って真琴は杏奈から買ったものを受け取ろうとした。杏奈が持っていた袋を真琴が全部取ろうとするので杏奈は抗議した。
「何で全部持とうとするの?」
真琴は当然のように答えた。
「重いでしょ」
杏奈はむすっとした。
「そういうところだよ」
真琴はきょとんとした。
「え?」
杏奈は少し神妙になった。
「何で全部一人で持とうとするの?」
真琴は急に杏奈が真面目になったので戸惑った。
「重いのは真琴も同じでしょ?」
「俺は男だし」
「男でも女でも荷物の重さは変わらないでしょ?」
「そうだけど」
「もっと友達を頼って」
真琴は杏奈が何に対して怒っているのかやっと理解した。
「ごめん」
「違うでしょ?」
真琴は観念したように笑って言った。
「ありがと」
杏奈がようやく笑顔になった。
「よくできました」
二人は笑顔を並べて歩き出した。
二人が家に着く頃にはもう日が傾きかけていた。この世界の季節も元の世界と同じらしく、日が落ちるのは早かった。琢磨は疲れて座り込んでいた。悠樹は床掃除をしていたが元気がなさそうだった。真琴は杏奈と二人で洗剤を作ってトイレと風呂を掃除した。翔吾はすでに日が傾いてきていたことから、バルコニーの手すりに干していたカーペットとカーテンを一人でしまい、元の場所に戻した。翔吾と真琴はそこで一旦悠樹と琢磨に休憩をとらせ、市場で買ってきた牛乳にハチミツを少量入れたものを飲ませた。琢磨は「ありがとう、ごめん、助かった」と言って二人に深く感謝した。
それから真琴は翔吾に作業の進捗を聞いた。悠樹と琢磨の体調不良にもかかわらず、三人はその日の目標としていた作業をほとんど終えていた。しかしさすがに悠樹の顔には苦痛と疲労の色が濃く浮かんでいた。おそらく体力自慢の翔吾と努力家で意地っ張りの悠樹が休憩もとらずに目標達成のために無理をしたのだろう。結局三人は日没までに少し余裕をもって作業を完了することができた。
五人はリビングに集まってランプに火を灯し、食事を摂った。疲れの見え始めたみなのことを思いやり、杏奈はその日の食事をいつもより少し豪華にすることを提案した。まず保存の利かない牛乳はその日のうちに飲むことにした。先ほどハチミツを悠樹と琢磨にふるまったので、みなでハチミツを少しずつ牛乳に溶かして飲んだ。杏奈はあらかじめ作った洗剤と買ってきたブラシでスプーンを綺麗にしていたので、ハチミツを綺麗に少しずつ分け合うことができた。それからみなで他に何を食べるかを話し合った。真琴は楽しみにとっておいた干し肉を半分だけ食べることを提案した。貴重なたんぱく源に手を付けることに不安を感じる者もいたが、結局みな賛成した。いきなり干し肉を食べてしまっては他の食事が味気ないものになってしまうので、いつも通りパンとクラッカーを食べたあと、最後のデザートに干し肉を食べることにした。
その日の食事は話が弾んだ。疲れていた悠樹も琢磨もいつもよりむしろ笑顔を見せた。いよいよ干し肉を食べる段になった。包みを開き、それを見た五人は息を飲んで心を弾ませた。実際この土地に迷い込んでからの彼らの食事にはたんぱく質が欠如していた。それは彼らの体がもっとも切実に欲しているものだった。取り分けるときには自然と笑みがこぼれた。だが食べるときにはむしろ神妙になった。みな互いと目を見合わせて息を合わせてそれを口にした。琢磨と杏奈は歓声をあげたが、真琴と悠樹と翔吾はむしろ言葉を失って恍惚とした。琢磨があまりにも声をあげてはしゃぐので、翔吾は近所迷惑を考えて声を押さえるよう注意しなくてはならなかった。
「ああ、もっと食いてえ」と琢磨は言った。みな同じ気持ちだったが先のことを考えると我慢せざるをえなかった。
食事が終わってからもその日は会話が弾んだ。琢磨は暖炉を使うことを提案したが、暖炉と煙突の点検や掃除が不完全なことや、薪の量が心許ないことから見送ることになった。しかし昨晩の冷え込みがこたえたことから、そろそろ何か抜本的な対策がほしいところではみな意見が一致した。いっそのこと寝る場所を変えるという案が出た。二階の小部屋に五人で寝れば部屋が自然と暖まるし、地面に近い一階よりも二階の方が物理的にも暖かいのではないかというものだ。しかし二階の小部屋で寝るには一つ大きな問題があった。盗賊などの侵入者があったときに、二階の小部屋は袋小路になってしまい、退路が確保できないことだ。暗い中で窓から飛び降りれば捻挫や骨折をしかねない。リビングなら裏口、玄関、バルコニーなど逃げ道がいくつか考えられる。「侵入者がいても二階の小部屋なら隠れてやり過ごせる」という意見も杏奈から出たが、見つかったらどうするかという疑問が出た。「見つかったら応戦すればいい」と琢磨が言ったが、狭い部屋でどう戦うのか、勝てる保証はあるのかという疑問が出てやはり二階での応戦は現実的ではないという意見が大勢を占めた。「それなら二階の窓にはしごを置いておけばいいのでは?」という意見も出たが、はしごを買うにも金がかかるし、作るにも時間と材料費がかかる、何よりそのはしご自体が敵の進入路になりかねないという意見が出てはしご案は却下された。それなら棒を窓の外に立てかけるのはどうかという案が出た。それを消防士の要領で伝って降りるわけである。たしかにそれなら侵入に使われる可能性は低そうだった。しかし暗い中でその棒を伝って咄嗟に降りるのは危険だという意見も出た。棒をどう固定するか、どこでどう調達するかなどの課題は残ったが、今後検討を進めていくことで話は落ち着いた。
結局のところその日もリビングで寝ることになった。寒さ対策としてはかび臭い毛布を我慢してたくさんかけたり敷いたりすることになった。首や肩の疲れを防ぐために丸めた毛布を枕代わりに使う者もいた。
みなで横になり、ランプの灯を消してから翔吾はその日の最後にこんな提案をした。
「明日は休みにしないか?」
みな少しその言葉の意味を理解するのに時間がかかったようで、少ししてから悠樹が聞いた。
「休みって何もしないってこと?」
翔吾は答えた。
「いや、完全な休みだとさすがにもったいないから、午後だけ休みとか」
みなも完全な休みはもったいないと感じていたが「午後だけ休み」は現実的な妥協案に思えた。
「なるほど」と琢磨は言った。翔吾は続けた。
「みんな一日中掃除し続けたりとか作業し続けるのって普通に考えてかなりの重労働だし、慣れてないからきついだろ。風呂もないし布団もこんなだし、PCもスマホもない、趣味も娯楽も癒しもない、食事も完璧とはほど遠い。そうでなくても慣れない環境は精神的にもきつい。この世界に来てから四日間、いろいろあっていろいろ頑張ってきて、どこかで息を抜くべきだと思うんだよ」
「そうだね」と杏奈も同意した。「少し休もう。心と体だけじゃなくて、頭も整理したいよね」
「そうだな」悠樹も賛成した。「少し休もう」
「午前中どうする?」と琢磨が聞いた。
「俺はスレッダに会ってくるよ」と真琴が言った。「みんなの不安をスレッダに伝える。それから、薪の調達法について相談する」
「いや、俺が行く」と悠樹が言った。
真琴は少し訝ったが、悠樹の意図は明瞭だった。
「俺と琢磨はまだ外出してない。この街を知っておく必要がある。琢磨、付き合ってくれ」
琢磨からは長い沈黙が続いたが悠樹が「気分転換にもなるだろ」と念を押すと「まあ、たしかに」と了承した。
「真琴と翔吾と杏奈は留守番してくれ」と悠樹は言った。
「わかった」と真琴は答えた。
「じゃああたし食器洗う」と杏奈が言った。
彼女はかねてから料理を作りたいとも言っていた。毎日違う手料理が食べられて彼女の気分転換にもなって節約もできるならこの上ない話だと真琴は思った。
「じゃあ俺と真琴は風呂で毛布洗って庭に干すか」と翔吾は言った。真琴はそれに賛成した。そうすればこのカビ臭い夜からも解放される。
「決まったな」と悠樹が言った。
明日の午前の予定がこれで決まった。となればあとは午後の予定だ。
「午後はみんなで料理しない?」と明るい声で杏奈が言った。良いアイデアにも思えたが、ここで他の懸念材料が真琴から出た。
「ってかそもそも午前中に帰って来れるのか?」
よく考えれば当たり前だがすっかり見落としていた疑問だった。
「あほんとだわ」と琢磨が言った。
「騎士団庁舎って歩いてどんぐらい?」と悠樹が聞いた。
「三、四十分とかかな、片道」と真琴が言った。
「うん」と杏奈が言った。
「馬車拾えば早いだろうけど」と真琴は付け加えた。
「いいよ、のんびり気長に歩く」と悠樹が言った。「まあ迷ったら人に聞くし、もし午後までかかりそうなら、料理は二人に任せるよ」
「いやまず食材がないだろ」と真琴が言った。
「俺たちが買って来ようか?」と悠樹が言った。真琴は答えた。
「いやそこまではさすがに。それに夜料理することになるだろ」
「じゃあ翌朝料理する?」と悠樹が言った。
「腐るんじゃね? ってか朝だるいし」と琢磨が言った。
「冬だから腐らないよ」と杏奈が言った。
「まあ料理は明後日にしよう」と翔吾が言った。たしかにそれが良さそうだとみな納得した。
「レシピは杏奈が考えておいて」と真琴は言った。
杏奈はそれを聞いて急に慌てた。
「えぇえええ!? えっ、みんなは何が食べたいの? ってかみんなも作るんだよ? ってかそもそも食材そろうのかな?」
「俺たちは杏奈の指示に従うだけだから」と料理経験のほとんどない琢磨が言った。
「そうそう、俺と琢磨ほとんど料理したことないから」と悠樹がふざけ半分に賛同した。
「えっ!? あっ、真琴! 真琴料理結構してたよね? してたよね!?」
「してたけど…。大したもの作れないよ」
「良かったあ、味方がいて!」
杏奈は真琴を強引に巻き込むべく大げさに安心した素振りを見せた。
「もう寝ようぜ」と翔吾が言った。
しかしランプを消してからもおしゃべりは続いた。時々声を落とすように互いに注意し合いながらそれでもついつい話は弾んだ。昨日より暖かい夜だった。
悠樹と琢磨は人に尋ねながら歩き、ほとんど迷うことなく騎士団庁舎に辿り着くことができた。着いてみれば一度馬車で通りがかった所だし、家からさほど遠くもないし、大きな施設なので人に聞かなくても辿り着けそうではあった。建物があり、グラウンドのようなものがあり、それは一見すると学校のようにも思える施設だった。フラマリオンの兵士の詰所で死にかけた二人は少なからず騎士団庁舎へ行くことに恐怖を感じていたが、知り合いであり頼みの綱であるスレッダがいるとなれば勇気も湧いた。騎士団庁舎の敷地内に踏み込む前に二人は柵の外から中の様子を注意深く窺った。そのまま周囲を歩いていると、グラウンドの一角に思いがけずスレッダを見つけた。彼はグラウンドで体を動かす兵士たちの様子を座って見ていた。二人の存在に気付いたスレッダは向こうから近づいて来た。
「よお、どうした」
「すいません、ちょっとお話というかご相談が…」
悠樹は恭しくそう言った。それで大体事情が飲みこめたらしく、というより最初から五人の状況が推測できていたかのようにスレッダは「わかった、ちょっと中で待っててくれ。守衛に俺の客だと言えばわかる」と二人に言ってどこかへ行った。守衛に声を掛けると二人はスレッダの専用と思しき執務室に通された。やはりスレッダはこの騎士団庁舎において相当の身分の持ち主らしい。二、三十分してスレッダが執務室に現れた。
「悪い待たせたな」
悠樹は慌てて立ち上がり振り向いてスレッダに挨拶した。
「お忙しいところすいません」
琢磨も慌ててそれに続いた。
「お疲れ様です」
「まあ座ってくれ。今茶でも出す」
スレッダはそう言ってお茶を淹れ始めた。
「いえ、お構いなく」と悠樹は言ったが構わずスレッダはお茶を淹れ続け「みんな元気か?」と聞いてきた。それが振りなのかただの興味本位なのか悠樹は判じかねたが、思い切って本題から入ることにした。
「おかげさまで元気なんですけど、ちょっと困ってます」
「何が?」とスレッダは聞いた。
「薪がなくて夜が寒いのと、少しお金が減ってきてしまって…」
スレッダは薪の話を先に拾った。できればお金の話をしたかった悠樹にとっては少しもどかしい展開だった。
「薪はこないだ買っただろ?」
琢磨が答えた。
「あれだけじゃ一晩か二晩でなくなっちゃうんじゃないかって…」
「ああ、まあたしかにな」
悠樹は「できれば近くの森で拾ったり切ったりとかできればと思うんですが…」と言ったがスレッダの返事はすげないものだった。
「外はダメだな。危険すぎる。まあお前らは正式な市民じゃないから出るのは自由なんだが市民は外出許可を取らなきゃいけないくらい今街の外は治安が悪い。許可を取れるのは漁業や農業やそれこそ林業などに関わる特別な事情のある者だけだ。それに外の森は人の所有地だったりする。落ちてる薪でも勝手に拾ったら窃盗になる。私有地でない森もあるが伐採には許可がいる。市民でないお前らには下りない許可だ」
悠樹は絶望的な気持ちになった。琢磨は伺った。
「じゃあどうすればいいですか?」
やや不躾な聞き方だったが特に気にする様子もなくスレッダは答えた。
「そうだな。解決策はいくつかある。まず木こりと仲良くなって分けてもらう。自分たちも木こりをする。しかしこれにはまず市民権が要る。あとはシンプルに買う。まあそれにはまず金が要る」
「そうですね…」と琢磨が言った。悠樹も黙るほかなかった。
「まあ当座の金は俺が何とかしよう。でもずっと俺が支えられるわけじゃないからそこは覚悟してくれ」
スレッダはそう言うと紙幣を何枚か持たせてくれた。遠慮しようか迷った悠樹だが結局「すいません」と言って受け取るほかなかった。お金のあとでスレッダはお茶を出してくれた。三人はお茶を飲みながら住んでいる家のことやルクレティウスの治安のことを話したがあまり盛り上がらずに二人はお茶を飲み終わると早々に辞した。
悠樹と琢磨は神妙な面持ちで帰って来た。それを見た真琴と翔吾と杏奈は二人をリビングの椅子に座らせて水を飲ませた。悠樹と琢磨はスレッダに言われたことをそのまま三人に話した。それを聞いた真琴は「市民権を得て木こりになる方法はないかな」と言った。
「市民権てどうやって得るんだよ」と琢磨がぼやいた。
「聞いて来れば良かったな」と悠樹が言った。
話が途切れると悠樹は思い出したようにスレッダからもらった金を取り出して言った。
「一応金はもらったけど…」
その紙幣をめくって悠樹はみなに見せた。枚数は最初にもらったときの半分かそれ以下に見えた。
「今金ってどんぐらいあるの?」と琢磨が聞いた。
「二万ちょい」と真琴が答えた。最初にもらったのが五万ルクだったのですでに半分以下になっていた。
「今日もらったのが二万」と悠樹が言った。合わせて四万ルク余りだった。六日で二万八千ルクを使い果たした彼らは単純計算であと九日で無一文になる。状況の苦しさを突き付けられた五人は一様に神妙な顔を突き合わせた。
「今日の印象から言ってスレッダさんからの支援はこれ以上宛にできない」と悠樹が言った。
「そんなことわからねえだろ」と琢磨が反駁した。
「わかってるよ。ただ確実じゃねえだろ」と悠樹が言った。琢磨は不服そうにしたが反論の言葉はそれ以上出てこなかった。
「とにかく金を手に入れる方法を考えよう」と真琴が言った。
「いやそんなことしてる暇あったらさっさと帰ろうぜ」と琢磨が言った。
「どうやって帰んだよ」と間髪入れずに悠樹が皮肉っぽく言った。琢磨はただ「それを考えればいいだろ」と返すほかなかった。
「一人で考えてろ。思いついたらぜひ聞かせてくれ」と悠樹がさらに皮肉を浴びせた。さすがに我慢が出来なくなった琢磨は立ち上がって悠樹に詰め寄った。




