065.『冒険』2
真琴たちは馬車に乗せられ、まず市場へ向かった。真琴たちの当面の食糧と思しきものを買い込むスレッダを見て遠慮しなければという気持ちも湧いたが、現況の苦しさと仲間のことを考えるとその好意に甘える他はなかった。市場を出ると、馬車は街の外れへと向かった。そこに何があるのだろうと真琴は考えてみたが何も思い浮かばなかった。街外れに向かうにつれ、徐々に道は狭く汚くなり、家は小さく古くなっていった。スレッダは言った。
「綺麗なのは表側だけさ。この国にも裏はある。ルクレティウスにも貧民は多い。職のないヤツも浮浪者も犯罪者もいる。ここは俺がこの国に流れ着いて初めて住んだ地域だ」
杏奈は伺った。
「スレッダさんも他の国から来たんですか?」
スレッダは少し間を置いてから答えた。
「まあ、そんなところだ」
真琴が言った。
「最初は大変だったでしょうね」
「ああ、大変だったな。当時のルクレティウスはアーケルシアと戦争状態だった。人々の心に今ほど余裕はなかった。なんとか滞在権を得たのはいいものの、金もないし施しも受けられねえからこの貧民街で野宿するのがやっとだった。仕事もねえから食うものにも困った。正直悪いこともたくさんした。傭兵を募集してると聞いて迷わず志願した。手足が動けばそれでいいということで試験もなく入隊が認められた。戦争でそこそこ活躍して武勲を認められ、ルクレティウスの正規軍に入り市民権を得ることができた。生活にも困らないようになったし、そのうち貯えもできた。いっそ兵舎に近い中央区に住もうかとも思ったがハングリーな気持ちを失いたくなくてしばらくはこの貧民街に住み続けることにした」
しばらく行くと馬車は停まった。大きな古い屋敷の前だった。
「よし、降りろ」
そう言ってスレッダは馬車を降りた。
「ここは何ですか?」
スレッダに続いて馬車を降りながら琢磨が聞いた。
「俺の家」
スレッダの目線の先にあったのは一軒の家だった。それは貧民街の周りの家と違い、高い塀と庭があり、大きかった。だが庭は荒れ、家の壁にはツタがびっしりとからまっていた。
「今日からここに住め」
真琴は今度こそ遠慮した。
「いや、さすがにそこまでしていただくのは…」
琢磨はこう言った。
「もっと綺麗な宿はないですか?」
その不躾な問いを投げられても平気な顔のままスレッダは答えた。
「いくら俺でもお前ら五人をしばらく宿に泊めてやるだけの余裕はない。だがここならいつまででも使っていい」
「ありがとうございます」
琢磨が不躾な問いでかき乱した空気を取り繕うように杏奈はそう礼を述べた。
「さて、それじゃ中へ入ろう。雑草がこれだけ生い茂ってるところを見ると、どうやら浮浪者が住み着いてはいねえみてえだな」
五人は胸ぐらい高い雑草をかき分けて邸へと向かって行った。スレッダが鍵を回すとドアは無事開いた。だが同時に中から大量のほこりが舞い上がって五人を閉口させた。浮浪者が居ついていないことはこれでさらに確固たるものになったが、この家はまともに人が住めるものなのか、また掃除用具一式を借りたとして、ここがまともに人が住める場所になるまでにどれだけの時間を要するのだろうかという疑問が四人の胸中に大きく座を占めた。五人が歩を進めるたびにほこりは容赦なく舞った。スレッダが先に立って家中を案内した。広い屋敷だけあって一階には居間、キッチン、トイレ、風呂場、客間、使用人部屋があり、二階には四つの寝室とトイレがあった。最初は小さかった家を少しずつ増築した形跡が見られた。おそらくスレッダが出世するたびに暮らしぶりを少しずつ良くしていったのだろう。
「スレッダさんは今どこに住んでるんですか?」と真琴が尋ねると「中央の兵舎だよ。有事の際にすぐに動けるようにな」という答えが返ってきた。
「ここにはもう三年も帰ってない」。
スレッダは軽く案内を済ませると、馬車の食糧を家に移すよう真琴たちに指示した。その指示に素直に従う真琴たちの胸中では、食料と寝床をもらえた喜びと、まともな生活が送れるのだろうかという不安がない交ぜになっていた。食糧の運搬が済むと「悠樹の様子を見て来る」と言ってスレッダは出て行った。彼がいなくなると家の中は急に広く静かになった。四人は思い思いに家の中を確かめた。水もガスも電気もなく、灯りと調理と風呂は火を使わなくてはならなかった。ベッドやカーテンはカビ臭かった。実際に黒カビや青カビが目に見えて生えているものもあった。使用人部屋にメイド服があったが、他の衣類はほとんどなかった。天井や梁には蜘蛛の巣が至る所に張られていたが、寒さのためか蜘蛛はいなかった。幸いなことに掃除用具は一式揃っていた。四人はまず居間から掃除を始め、その日はそこで食事をし、風呂は我慢し、居間のカーペットの上でみなで寝ることにした。
掃除用の水は井戸からくみ上げ、それをたらいに溜めた。雑巾をそれにつけ、物という物、壁という壁、床という床、棚という棚を拭いて回った。しかし広くて調度品の多い居間は拭けば拭くほど汚れやほこりが見つかってキリがなかった。琢磨は途中で疲れて座り込んでしまった。他の三人は琢磨の分まで働いた。外が暗くなってきたので、四人はランプに火を灯すことにした。しかしマッチは湿気っていて使えなかった。そもそもマッチがあってもオイルがないので火が点くはずもないことにあとから四人は気付いた。仕方がないので次にスレッダに会う際にマッチとオイルを調達する方法を相談することに決めて暗くならないうちに食事を摂り、就寝の支度を始めることにした。
その日の夕食は果物とクラッカーと牛乳だった。栄養価の高い牛乳は悠樹のためにとっておきたかったが、保存する術もないので飲んでしまうことにした。四人は二階からホコリをかぶったかび臭い毛布を引っ張り出し、カーペットの上でそれをかぶって寝た。
横になって静かになると、四人はそれぞれの胸中を言葉にし始めた。
「顔痛くない?」と杏奈が真琴に聞いた。フラマリオンで兵士に負わされた怪我のことを真琴自身もすっかり忘れていた。
「ああこれ、うん、だいじょうぶ」
「治安が悪いって言ってたよなこの辺」と琢磨が不安そうに言った
「浮浪者や犯罪者は多いって言ってたよなスレッダさん」と真琴が答えた
「でも家の中も無事だったし多分誰も入って来ないよね」と杏奈が言葉とは裏腹に不安そうな声で言った
「俺と翔吾と琢磨が戦うから大丈夫」と真琴が言った。しかし「こんな暗いと戦えねえよ」と琢磨が否定した。翔吾は言葉を発しなかった。
真っ暗な慣れない家でトイレに行くのには難儀した。さらにまったく灯りのない中で眠るのは慣れないせいか落ち着かなかった。
「スレッダさんいい人だよな」と真琴が言った。
「神だな」と琢磨が言った。
「神だね」と杏奈も同意した。
「悠樹の容態に関する情報と薪、マッチ、オイル、明日スレッダさんに頼んでみよう」と杏奈が続けざまに言った。
「地図と退屈をしのげるもの。あと金」と琢磨が付け足した。
「それから、身を守る武器が欲しい」と真琴が言った。会話はそれで終わった。寝心地は悪かったが、疲れのためか四人ともほどなく眠りについた。
翌朝、翔吾と真琴と杏奈は早く起きた。琢磨はなかなか起きなかったが健康状態が悪いわけではなさそうだった。食事は水と果物だけで済ませた。歯ブラシが欲しいと杏奈がぼやくように言った。時計がないので時刻はわからなかったが、日が昇りきる前にスレッダが馬車でやって来た。悠樹は検査入院をしていたがおそらく問題ないから今日退院できるはずだと彼は言った。みなで病院へ行くと悠樹の腫れや傷は見違えるほどに回復していた。彼に笑顔が戻ったことが真琴にとって何より嬉しかった。悠樹はそのまま退院して馬車に乗り込んだ。
「みんなほしい物あるか?」とスレッダは聞いた。歯ブラシとシャンプーと着替えがほしいと杏奈は言った。食糧と水がほしいと悠樹は言った。暇つぶしできるものとお金がほしいと琢磨は言った。薬と情報と地図がほしいと翔吾は言った。マッチとオイルと薪と身を守る武器がほしいと真琴は言った。笑いながらそれを聞いていたスレッダは「そうか。わかった」と言って五人を市場へ乗せて行ってくれた。市場の近くで五人を降ろしたスレッダは「これで好きなものを買え」と一人ずつに同額の紙幣を渡した。予想はしていたが、その紙幣も、そこに印字されてある絵もまったく見たことのないものだった。また、その紙幣を自由に使って良いと言われたものの、真琴たちにとっては知らない土地の知らない通貨であり、その価値や物価の相場がわからなかった。そんな真琴たちの戸惑いを知ってか知らないでか、スレッダはこう言って馬車とともに去って行った。
「俺は仕事がある。そうだな、二時間したらまたこの場所に迎えに来る。それまでに買い物を終えておけ」
真琴たちは作戦を話し合った。まずスレッダが貸し与えてくれた家の状況を知らない悠樹に四人がそれを説明した。その上で必要なものを再度話し合ったが、先ほどスレッダにリクエストしたものと大して代わり映えはしなかった。琢磨は暇つぶしのための遊興品の購入を強く推したが翔吾に「我慢しろ」と言われたため諦めた。また薪については鉈を買って近隣の林から集めるのが得策ではないかという意見が出たが、林までどうやって行くか、行けたとして伐採の許可はとれるのかといった点が不透明であるため、当面の薪は今日ここで調達することにし、いずれにせよ鉈は武器としても重宝するため購入しておくことにした。五人は単独行動は危険との考えから二組に分かれて行動することにした。話し合いの結果真琴と悠樹と杏奈、翔吾と琢磨という組み合わせになった。真琴と悠樹と杏奈は衣類と日用品とマッチとオイルと武器と罠、翔吾と琢磨は地図と薬と食糧を買うことになった。時計をもたない五人だが、人に尋ねて時間を管理し、一時間後に一度またこの場所に集まって中間報告と作戦の見直しをすることにした。
市場に入って行った五人はまずどこに何が売られているのかを把握するために全体を見て回った。市場の中央は布を広げて商品を並べただけのものやテントと机だけの簡素な露店が多くを占めていた。市場の周囲には建物をもつ店が並んでいた。市場自体さほど広くないため、見て回るのに二十分ほどしかからなさそうだった。しかし裏通りの店やその周辺も含めるとその規模ははかりかねた。中央の露店に売られているものは食料品が多く、日用品や雑貨を手に入れるには表通りや裏通りの店舗を見て回るほかなく、二時間というタイムリミットは実は長いようで短いことを実感し真琴たちは焦った。真琴と悠樹と杏奈は少し話し合って露店と表通りの店舗で買える比較的価格帯の安いものはどんどん買っていくことにした。
市場を歩いていると嫌でも自分たちの格好は目立った。ルクレティウスの人々は基本的に柄のないシンプルな衣服を身に纏っていたが、真琴たちは柄やロゴの入った服を着ていた。治安維持のためか市場には兵士の姿もあった。滞在権を得ているとはいえ、彼らを見かけるとフラマリオンでの嫌な記憶がよみがえって翔吾以外の四人はすれ違う度に顔をうつむけて視線を落とした。市場にはスリやぼったくりやカツアゲをする輩もいそうなイメージがあったが、兵士がいるためか意外とそういった様子はなかった。
一時間経って集合場所に戻ると翔吾と琢磨は薬と食料品を手に入れていた。真琴と悠樹と杏奈は日用品と薪とマッチとオイルと衣服を手に入れていた。衣服に関しては予算の都合もありそれぞれ一回分の着替えに留めた。露店と表通りの店舗で揃わなかったのは地図と武器と罠だった。罠に関しては糸に鈴を括りつけたものをイメージしており、それを自作するための糸とはさみはすでに買ってあったが、鈴だけは見つけることができなかった。
五人は次なる作戦を考えた。買い込んだ荷物が多いため、それを持って買い物を続けるのは困難だし、市場自体治安もそう悪くなさそうなので、集合場所で翔吾と悠樹がすでに買ったものを取られないよう見張っておくことにし、真琴と杏奈と琢磨が三人で残りのものを買うことにした。
真琴と杏奈と琢磨は集合場所を離れるとすぐに近くの人に地図を売っている店を知らないかと尋ねた。しかし地図はこの国では高級品らしく、一般の市場や店舗に置いてあることはまずあり得ないと言われてしまった。三人は地図を買うのを諦め、鈴か鉈を売っている店を知らないかと尋ねた。すると裏通りの金物屋の場所を教えてもらうことができた。三人はよく礼を言って金物屋を目指した。金物屋の店主に尋ねると鉈は売られていたが鈴はなかった。鈴を売っていそうな店を知らないかということと、他に自営のための武器になりそうなものはないかということを店主に尋ねると、普通の剣や槍が売られることは法律上まずあり得ないと言われた。しかし鍬やシャベルや斧などの農業や林業の道具なら市販されているし、包丁も調理用具として売られているとのことだった。また、狩猟の専門店なら弓矢も売られているが、専門的な訓練が必要なため防犯のためにはおすすめしないとのことだった。鈴については狩猟専門店か金細工店あたりに置いてあるだろうとのことだった。真琴たちは悩んだ末にシャベルと鍬と鉈と手斧を一本ずつ購入した。狩猟専門店に行くと熊除けの鈴が売られていたのでそれをいくつか購入した。それだけ買っても所持金は半分近く余った。
真琴と杏奈と琢磨が集合場所に戻ると時間より少し早かったがすでにスレッダがいた。スレッダに余った金を返そうとすると「それはお前たちの当面の生活費に充てろ」と言ってくれた。真琴たちはよくお礼を言ってその言葉に甘えることにした。
邸に戻るとスレッダは五人を降ろして帰って行った。スレッダは去り際に「俺はだいたい中央の騎士団庁舎にいる。何かあれば訪ねて来い」と言った。五人は礼を言ってスレッダを見送った。
これからしばらく滞在するであろう棲み処に初めて踏み入った悠樹はその環境の劣悪さに閉口した。一角が崩れた塀、胸のあたりまで伸びた雑草、飲む気も起きない井戸の水、カビの生えた風呂、何だかわからないしわかりたくもない汚れがこびりついたトイレ、ほこりだらけの床、クモの巣だらけの梁、カビくさい寝具とカーテン…。
とりあえず休憩しよう、と琢磨が言った。誰も異を唱える者はなくて休憩がてら軽食を摂ることにした。
「少しずつ綺麗にしていけばいい」と真琴が言った。
「そんなことより早く帰ろうぜ」と琢磨が言った。
「悠樹が治ってからだよ」と杏奈が言った。
「もう大丈夫」と悠樹が言った。「早く帰りたい」という意見と「まずは地に足をつけてから」という意見が個人の中でも複雑にせめぎ合った。翔吾は「今日と明日は長期戦に備えてまともに住める環境を整えることに注力する。ある程度片づくであろう明後日あたりから家事と情報収集に分かれて行動する」という折衷案を出した。反応は様々だったがみな概ねそれに同意した。
しばらく休憩した彼らはそれぞれ目標を立てて別れて行動した。まず真琴は罠づくりを開始した。門とバルコニー、二か所に張った糸に鈴を括りつけただけの簡単な罠だが、知らない人が夜中にそこを通ろうとすれば気付かずに引っかかるだけの期待はもてた。また、夜中以外は邪魔なので取り外しできるように作った。悠樹は庭にある井戸までの道を確保するために途中の雑草を鉈で刈った。しかし雑草は鉈で払うには柔らかすぎたため、腰をかがめて根元を手で押さえて切るしかなく、まだ怪我の痛みの残る悠樹には重労働になった。杏奈はトイレ掃除、琢磨は風呂掃除をしたが、薬品がないためこちらもブラシやヘラを使っての大変な作業となった。翔吾はみなの寝具をバルコニーの手すりに干してホコリとカビを叩いて落した。井戸までの雑草を刈り終えた悠樹は今度は門までの雑草を刈り始めた。寝具を干し終えた翔吾は天井や梁のクモの巣を箒にからめて取り除いた。
そうこうしているうちに日が落ちてきたので五人は片づけを始めた。悠樹は玄関から門、玄関から井戸までに雑草のない通り道をつくることに成功していた。翔吾は目につくクモの巣をすべて取り除いた。バルコニーに寝具を見に行くとまだカビくさかったが、人が使っても衛生面で問題ない水準には達しているように思えた。トイレと風呂は昨日に比べると見違えるほど汚れが落ちたが、まだ綺麗とは言い難かった。
真琴は買ってきたオイルをランプに注ぎ、マッチで火をつけた。するとランプは部屋の中を暖かく照らした。みなは感動して声をあげた。五人はもう一つのランプにも火を灯し、一つはリビングに、もう一つは廊下に置いた。昨晩は暗くて夜中にトイレに行くのも苦労したため、寝るときにはリビングの方だけランプを消して廊下の方は点けっぱなしにすることにした。
薪を使って暖炉に火を灯してみようという意見も出た。しかし買ってきた薪はすぐになくなってしまいそうなほど心許ない量だったため、寒さに耐えられなくなるまで我慢し、次にまたスレッダに会う機会にルクレティウスの近くの森で薪を集めることが可能かどうか聞いてみることにした。
五人はランプを囲んで夕食を摂った。その日の夕食はパンとチーズとドライフルーツと水だった。彼らは夕食を摂りながら明日の予定を話し合った。杏奈は重曹や酢が手に入れば手製の洗剤が作れるので市場に行きたいと言った。一人で行くのは危険なので真琴が同行することになった。帰って来たら二人で洗剤を作ってトイレと風呂を掃除することにした。琢磨は家全体にはたきと箒をかけることにした。翔吾と悠樹はカーペットやカーテンのホコリとカビをバルコニーで叩いて落とすことにした。
食後は三日ぶりに歯を磨いた。文化的な生活を取り戻したようで歯を磨いただけなのに妙に感動した。琢磨は風呂が綺麗になったら早く体を洗いたいと言った。杏奈は髪を洗いたいと言った。
その日もみなでリビングで寝ることにした。その方が寒さがやわらぐし、安全だし、他の部屋はホコリだらけで使う気も起きなかった。翔吾がその日ホコリとカビを落とした寝具について、使うか使わないかは各自で判断することとなった。琢磨はそれほど気にならないようで、毛布を掛けて寝ると言った。他の四人は迷った末に琢磨にならって毛布を使うことにした。他の寝具は使う気になれなかったが、いずれ風呂が綺麗になったらそこですべての寝具を一度水洗いすることにした。
ランプを消して部屋が暗くなった後、琢磨がこんなことを言った。
「夢だったりしないかな」
「夢にしては完成度高すぎでしょ」と悠樹が言った。
「でも実際夢みたいな展開が続いてるよな」と琢磨が言った。真琴は言い出そうとした言葉を心にしまった。
「家に帰りてえ」と琢磨が言った。
「でもこういうのも何か楽しいよね」と杏奈が言った。
「は? 楽しくねえよ」と琢磨が言った。
「考えようによっちゃあ楽しいよな」と悠樹が言った。
「どう考えても楽しくねえよ」と琢磨が言った。会話はそれで終わった。真琴と翔吾は最後まで何も言わなかった。




