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こころのみちしるべ  作者: 110108
アーケルシア編
59/102

057.『陽動』1

 その様子を見ていたリヒトは唖然とした。

「クライスとアイシャだけでなく、リサまで…」

 しかしさすがのリュウガも体力の消耗(しょうもう)と毒のためかその場に座り込んで動かなくなった。

 するとそのとき、森の奥から何かの気配がした。その場にいる全員がそちらに注視した。その奥から現れたのはまだダメージが残るのか顔を(しか)めたまま重い足を運ぶクライスだった。リヒトは安堵(あんど)と歓喜に笑みを浮かべた。

「クライス! よかった」

 クライスは腹部を押さえていたが命に別状はなさそうだった。スレッダは率直な感心を口にした。

「驚いたな、リュウガの一撃を食らって立ち上がったヤツは初めてだ…」

 リヒトはにわかに神妙になった。

「クライス、頼みがある」

 クライスはリヒトを見た。

「何だ」

「クライス、アイシャとリサを守ってくれ」

 クライスはリヒト据えた目を動かさず彼の次の言葉を待った。リヒトは続けた。

「リサを戦いに巻き込んだのは俺たちだ。でも彼女の望みはビュルクの再興だ。リサが生きてさえいればその望みは彼女自身の手でいつか叶えられる。リサまでここで死ぬ必要はない。アイシャも貧民街の希望の星だ」

 クライスは一度目を閉じ、静かに言った。

「リヒト、死ぬなよ」

 リヒトはニヤリと笑って答えた。

「ああ、二人を頼む」

 クライスは(うなず)くとリュウガの側に倒れるリサを右肩に抱え上げた。リュウガはその様子を見ていたがクライスを止めようとはしなかった。両者は目が合ったが言葉は交わさなかった。クライスはそのまま森に消えて行った。

 やがて彼はアイシャが倒れているところまで来ると、彼女を左肩に抱え上げた。彼はリヒトのいる方へ一度目を向けた。

「すまない、リヒト。頼んだ」

 そう言うと彼は森の奥の暗がりにその背中を運んで行って見えなくなった。




「さて、次は俺の番だな」

 そう言って小柄な騎士スレッダは立ち上がり、リヒトへと歩を進めた。一方アーケルシア側で唯一残されたリヒトもまたスレッダへと歩を進めた。十メートルほどの距離を置いて二人は対峙(たいじ)した。先にリヒトが口を開いた。

「残るは貴公とレオか。ならば貴公はルクレティウスのナンバー2の実力者とみて相違ないな」

 スレッダは少し考えてから答えた。

「難しいな。二番手と言われたり四番手と言われたりいろいろだな」

「そうか」

「さっきさっさとやられたのがグレン。粗削りだし隙が多いけど細い割にパワーとスタミナはある。さっきまで戦ってた入れ墨がリュウガ。武器は嫌いみてえで使わねえ。それでも強えんだから武器使えるようになったら誰も勝てねえぐらい強えんじゃねえかと俺うけど(かたく)なでな。んでお前らも知ってるかもしれねえけどそこの背の高いのがレオ。うちのトップだ。アイツはホントに強え。本気のアイツに勝ったことは一度もねえ」

 仲間の手の内をあっさり明かすスレッダにリヒトは少し驚いた。スレッダがあまりにもあっさりと内情を吐露(とろ)するのでリヒトもまた素直になれた。

「お前ずいぶん(さば)けたやつだな。気がそがれて戦いづれえだろ」

 スレッダはそれを聞いて笑みを浮かべた。

「同じ騎士同士だ。(ほま)れある戦いをしよう」

 リヒトは同意した。

「ああ、そうだな」

「さて、長話もアレだ。始めるか」

「ああ」

 するとスレッダは目を閉じ胸元に手を当てた。リヒトは眉を(ひそ)めた。

(まさかこの男も…!)

 スレッダの顔から笑みが消えた。彼の胸は白く光り、開いた目をそれに照らされながら彼は叫んだ。

煉獄(れんごく)の階段」

 するとその小さな体の前に光がわだかまり、その中から身の丈を超える大きさの大剣が現れた。彼はそれを手に取り右に左に素早く振った。彼は鋭い笑みを見せて言った。

「俺の『剣』に特殊能力はねえ。安心して全力で打ってこい」

 リヒトは清々しく笑った。彼もまた目を閉じ胸に手を当てた。

「上等だ」

 リヒトの胸は白く光った。

「新月の(またた)き」

 光の先に一振りの刀が現れた。目を開いた彼はそれを(つか)み取った。リヒトはスレッダに騎士として敬意を覚えていた。

「いざ尋常(じんじょう)に」

 スレッダもそれに応じた。

「おうよ」

 両者は同時に動いた。リヒトの素早い斬り下ろしをスレッダは大剣で受け止めた。スレッダはリヒトの剣を押し返して払い除けた。その小さな体にどうしてこれほどの膂力(りょりょく)が備わっているのだろうと感嘆(かんたん)したリヒトは素早く跳び退いて心中で(つぶや)いた。

(パワーではやや向こうに分があるか…)

 相手はパワー型と踏んだリヒトはスピードとテクニックで翻弄(ほんろう)する戦法に切り替えた。彼は目を閉じた。スレッダはそれを見て警戒心から目を(すが)めた。するとリヒトは一瞬にして消えた。スレッダは目を見開いた。

——次の瞬間、リヒトはスレッダの背後にいた。すでにリヒトは右上段からの袈裟(けさ)斬りの構えをとっていた。スレッダは慌てて振り返り防御を試みた。乾いた音が響いた。不可能に思えたスレッダの防御は寸でのところで間に合っていた。リヒトはさらに畳みかけるように左からの袈裟(けさ)斬りを放った。しかしスレッダはこれも後退しながら寸でのところで防いだ。さらにリヒトは第三撃、第四撃を繰り出した。スレッダは歯噛みしながらそれを防いだ。リヒトの奇襲により崩れた体勢と心理が整うとスレッダはリヒトの六撃目を防いだところで反撃に出た。リヒトもまた卓越した剣(さば)きでこれに応じた。両者の一連の攻防は時間にしてわずか数秒だが、互いにおよそ三十もの剣戟(けんげき)を交わしつつ続いた。一度仕切り直すべくリヒトが先に跳び退いた。スレッダはそれを追わなかった。リヒトは肩で息をしながら今のやり取りを分析した。

(パワーだけでなくスピードもテクニックも一流か…。これは厄介だな…)

 彼は一度目を閉じ、開いた。

(ならば…)

 彼は叫んだ。

「妖魔刀術・潜牙(せんが)

 彼の足元に小さく真っ黒な円が現れた。スレッダはそれに目を奪われた。レオも驚きの表情を見せた。スレッダは心の中で(つぶや)いた。

(何だあれは…? あれがヤツの『剣』の能力…!?)

 円は急激に拡大し人の頭ほどの大きさになった。リヒトは腰を落としその黒い円に刀身を突き立てた。するとその切っ先は黒い円に吸い込まれるように消えた。スレッダは眉を(ひそ)め、目を(すが)めた。すると次の瞬間——

 スレッダの左斜め上の中空に黒い穴が現れ、消えたはずの切っ先がそこから彼のこめかみを目がけて伸びた。スレッダは目を見開き、振り向き、剣を振るった。再び乾いた音が響いた。スレッダはリヒトの剣の勢いで体勢を崩したが、なんとか寸でのところで直撃を防いでいた。思わぬ妙技に彼は歯噛みした。

(何だ…今のは…)

 それを見ていたリヒトもまた驚愕(きょうがく)した。

(今のも防ぐか…。とんでもない反射神経だな…。できれば今の一撃で決めたかったんだが…)

 スレッダはリヒトに向き直った。

「そんなこともできんのかよてめえ…。まったく恐ろしいヤツだぜ」

 リヒトは息を整えながら悔しそうに笑った。

「そっちこそ、今のでできれば決めておきたかったんだがな」

 スレッダは他にもどのような妙技を用いるか知れないリヒトに先手を打たれては不利と判断した。となれば彼がとるべき行動は一つ。自ら仕掛け、リヒトに反撃の隙を与えない。そう覚悟を決めたスレッダは腰を低く構えて言い放った。

「今度はこっちから行くぜ」

 リヒトも笑ってそれに応じた。

「どこからでも来い」

 彼の視界の中から突如としてスレッダが消えた。それはリヒトの想像を絶する速さだった。気付いたときにはスレッダはすでにリヒトの後ろで跳び、大剣を右斜め上から斬り下ろす構えをとっていた。リヒトは素早く振り返り刀を合わせたがスレッダの斬撃は非常に重く、彼は剣を深く押し込まれてしまった。押し込まれたリヒトの刀は彼の右(まぶた)の上に当たり、その際に打ったところからは血がこぼれた。リヒトは慌てて跳び退いたが、こぼれた血が右目に入り、視界は大きく悪化した。彼がそれを腕で(ぬぐ)い取ってスレッダの動きを注視しようと意識したときには彼の視界にすでにスレッダはいなかった。リヒトは目を見開いた。

 リヒトが気付いたとき、すでにスレッダはリヒトの死角となった右側にいて、剣戟(けんげき)のために身を(ひるがえ)していた。水平斬りの構えである。リヒトは慌てて刀を垂直に立ててそれを受け止めたがその重さにまったく耐え切れず軽々と吹き飛ばされた。それは森の中まで吹き飛ぶほどの勢いだったが、森の一番外の木の幹に彼の体は打ち付けられた。

 目を見開き(うめ)いたリヒトはそのまま(くずお)れてしまうかに思われたが、彼は踏み留まり立って戦う力を残していた。彼は刃をスレッダに向け、呼吸を整え、今一度心を落ち着けた。すると彼の心の深淵(しんえん)に再び静かで冷ややかな覚悟が萌芽(ほうが)し、彼の目は鋭くなった。それに気付いたスレッダは警戒の色を見せた。両者の距離はおよそ三十メートル。リヒトは(つぶや)いた。

「妖魔刀術・蝕樹(しょくじゅ)

 すると彼の刀の切っ先は八本に割けた。それが均等に細く裂ける姿はまさに異様だった。スレッダは目を(すが)めた。裂け目は広がり柄の付近にまで至った。裂けた切っ先はそのまま花弁のように放射状に外に広がるのではなく、柄の付近からすぐに鋭く曲がってスレッダの方を向いた。リヒトの瞳と彼の握る刀の切っ先は怪しく輝いた。彼は(つぶや)いた。

「妖魔刀術・這影(しゃえい)

 次の瞬間、八つの切っ先は目にも止まらぬ速度でスレッダに向かって真っ直ぐに伸びた。スレッダは目を見開いた。それらは質量保存の法則を無視して太さと厚さを保ったまま伸びた。その切っ先があと二十センチでスレッダの体の八か所を貫くところまで来たとき異変は起きた。

 それは一瞬の出来事だった。スレッダが大剣を握る手に力を込めたかと思うと、次の瞬間にはスレッダの周囲に毛糸玉のような縦横無尽の太刀筋が幾重にも生まれた。リヒトは目を(すが)めた。無数の金属音が響いた。強い風が巻き起こり、土煙(つちけむり)が遅れて舞った。何か複数のものが飛散し乾いた音を立てた。

 やがて突如として太刀筋の毛糸玉は消えた。そこには仁王立ちでリヒトを見据えるスレッダがいた。彼は息を乱してはいたが無傷であった。リヒトは目を見開いた。やがて土煙(つちけむり)が止むと飛び散ったものの正体が明らかになった。リヒトが伸ばした細い切っ先の破片である。それは五~十センチの長さに断ち斬られ地に落とされていた。飛散した切っ先と伸びた刀身は光の粒子となって霧のように消えた。その光の粒子はリヒトの握る日本刀の柄から先に収斂(しゅうれん)し、元の形状を成した。一呼吸置いてスレッダは大剣を地に突き立て言った。

「それがお前の奥義か。いい攻撃だったぜ。さっきも言ったが俺の剣に特殊な力はねえ。それに大剣ってのはパワーはあるがスピードと技術は出せない。でもそれじゃただのデカい剣だ。この力を得たばかりの俺はずいぶん悔しい思いをしてきた。そこで俺はこの大剣を素早く正確に振る鍛錬をひたすら続け、それを会得した」

 スレッダの双眸(そうぼう)は鋭さを増した。

「言っておくぜ。俺はルクレティウス六大騎士の中で最も速く、最も正確な剣技を持つ男だ」

 リヒトは目を(すが)め、武器を構え直した。クライスが倒れ、アイシャが倒れ、リサまで倒れなおスレッダとの決着さえつかない状況にリヒトは焦りを感じており、スレッダを(にら)む瞳にもそれは(にじ)み出た。決着をつける、それは互いに望んでいることではあったが、その理由は互いに異なった。

 スレッダは腰を低くし、大剣を上段に構えた。リヒトは今一度覚悟を新たにした。次の一撃で決める。まずはこの難敵であるスレッダを倒さなくてはならない。グレンはもう戦えないだろう。リュウガは解毒剤が効くまでは毒の巡りを遅くするため大人しくしているはずだ。残るはレオ。

(できれば取っておきたかったが…)

 そう心中で(つぶや)いてからリヒトは必殺の技の名を口に出そうとした。

「待て」

 それはスレッダの後ろから唐突に発せられた声だった。二人の緊張の糸は否応なく切れた。声の主はレオだった。スレッダは少しためらったのちに構えを解いて振り返った。

「何だ」

 リヒトもまた構えを解いてレオを見た。レオは至極真面目に言った。

「俺に戦わせろ」

 スレッダはその言葉の咀嚼(そしゃく)に時間を要した。リヒトはまったく要領を得なかった。スレッダが(たず)ねた。

「どういうことだ?」

 スレッダの声音は「一体何を言ってるんだお前は」と言わんばかりだった。レオは答えた。

「リヒトは何か奥義を隠しもっている。それは危険だ」

 スレッダは肩をすくめた。

「…いや、そりゃそうかもしれないが…。それを何とかすりゃいいだけだろ…?」

 呆れるスレッダとは対照的にレオは神妙に続けた。

「俺にやらせろ」

 リヒトはたしかにいまだ見せたことのない技を繰り出すつもりでいた。しかしレオがそれを看破(かんぱ)したことも危険視したこともリヒトにとっては意外だった。スレッダの抗議は続いた。

「いやいやいやいやおかしいだろ。俺の戦いだぞ?」

 しかしレオの調子は変わらなかった。

「いや、全員の戦いだ。たしかに戦いの腰を折ったことは悪いしお前の手柄を横取りするような真似をして悪いが、ここは大将同士で決着をつけさせてくれ」

 リヒトはスレッダとの戦いの腰を折られたことには鼻持ちならない気分を覚えたが、しかしこちらの奥義を警戒しての判断の慎重さと大将同士決着をつけたいとの意気には感服の念を覚えた。スレッダはまだ納得いかないようだった。

「いや、もうあと一——

「頼むよ」

 レオはスレッダを見ながら押しかぶせて言って立ち上がった。スレッダはそれで観念した。彼は剣を光に変えて消し「勝手にしろ」と(つぶや)いてレオが座っていた城壁際まで歩いて行った。レオはすれ違いざまに「すまんな」とスレッダに謝った。リヒトはレオを見て笑い、刀を握る手に力を込めた。

「いいのか? いきなり大将が出てきて」

 レオも笑った。

「気にするな。簡単に勝たせる気はない」

 レオもまた武器を持っていなかった。おそらく彼も『剣』の使い手。問題はどのような能力の持ち主か。レオは言った。

「あんたとは一度戦ってみたかったんだ」

 彼は胸に手を当てた。レオの胸は白く光った。

「常勝の旗印(はたじるし)

 彼がそう言うと彼の胸の前に大きな光がわだかまり、その中から彼の身の丈よりも長い槍が浮かび上がった。長い戦旗が(くく)り付けられた大きな槍だった。彼はそれを(つか)み取り戦旗をはためかせながら鷹揚(おうよう)に構えた。長身の彼がより大きく見えた。リヒトもまた構え直した。

「行くぞ!」

 そう言うとリヒトは先に仕掛けた。スピードはおそらくこちらの方が上。小回りの利かない長槍の弱点を突く。リヒトは持ち前のスピードで距離を詰めようとした。しかし彼のスピードはスレッダとの戦いによる消耗(しょうもう)のため鈍っていた。

「巨神槍技・剛風超禍(ごうふうちょうか)

 レオはその一声を放つと同時に後方に大きく引いた槍を突いた。すると突如として強烈な突風が起き、リヒトの体を飲みこんだ。彼はそれに耐えようとしたがそれもむなしくいとも容易(たやす)く吹き飛ばされた。それは先刻スレッダに吹き飛ばされたときよりも強烈にリヒトの体を運んだ。彼は再び木に強く体を打ち付けた。

 (うめ)き、地に落ちたリヒトはしかし立ち上がった。だがスレッダ戦で負ったダメージの上にレオの大技をまともに受けて彼の体は確実に疲弊していた。先にやらなければやられる、差し違えてでも勝利を手に入れる、という意識が彼の脳裏にもたげた。「剣」の特殊技は使用者の体力を大きく消耗(しょうもう)する。今はそれでも撃たなければならない。リヒトは顔を上げてレオを(にら)み、切っ先をレオに向けて刀を中段に構えた。

「妖魔刀術真打・闇黒龍衝(あんこくりゅうしょう)!」

 リヒトの日本刀の周りに黒い霧が立ち込め、わだかまった。妖気とでも呼ぶべきその禍々(まがまが)しい黒い霧はやがて龍の形をなし、それはレオ目がけて急激に突き進んだ。

「来るぞ!」

 スレッダがそう言ってレオに警戒を促した。

「ああ、わかってる…」

 レオはそう言うとリヒトの攻撃を注視しつつ叫んだ。

「巨神槍技・新風擦裂(しんぷうさつれつ)!」

 彼は素早く体の前方で槍をX字に振った。するとレオに迫りつつあったリヒトの黒い龍が中ほどから切れてあっさりと弾けるように霧散した。リヒトは目を見開き唖然とした。

「俺の槍は風を操る。先ほどのような突風を起こすこともできるし、今のような真空波を起こすこともできるというわけだ」

 まだ唖然とするリヒトにレオは告げた。

「さて、次はこちらから行くぞ!」

 レオは槍を天高く掲げた。

「巨神槍技・竜風流転(りゅうふうるてん)

 リヒトは焦りレオの攻撃に備え身構えた。突如としてリヒトを包むようにつむじ風が起きた。リヒトは愕然(がくぜん)として周囲に目を走らせた。つむじ風は一気に狭まり、リヒトの体をあっさりとその中に巻き込んだ。リヒトの体はそれに飲まれて空高く運ばれ舞った。

「ぐああああああああ…!」

 つむじ風が止むと彼は放り捨てられた人形のように地に落ちた。彼は地に体を強打した。彼はそれでもなお(うめ)きながら立ち上がろうとした。もはや体力のほとんど残っていない彼は気力一つで起き上がった。レオは静かに(さと)した。

「君の負けだ、リヒト。降伏しろ。君ほどの騎士を失うのは惜しい。降伏すればルクレティウス騎士団長として君の命は保証する」

 リヒトは笑い、息を切らしながら答えた。

「悪いが…、それは…、できない…」

 レオは一度深く目を閉じたあと、それを開いた。

「騎士として見事な覚悟だ。アーケルシア軍最強の男リヒトよ、その名は一生忘れない」

 そう言うとレオは槍を体の後方に大きく引いた。リヒトは大きく肩で息をしながら(うつ)ろな目で刀を構えた。レオは高らかに言い放った。

「この俺の刃で散れ。巨神槍技・一撃滅尽(いちげきめつじん)!」

 レオは槍をリヒトに向けて突いた。両者の距離は五十メートルほどもあった。しかしレオの槍の先端から突風が起こり、その距離を一瞬で詰めてリヒトの腹を強烈に衝いた。リヒトは目を見開いてさらに五十メートルほど先まで軽々と吹き飛ばされた。彼は棒切れのように地をすべり、転がり、仰向けに倒れた。もはやリヒトは動く気配を見せなかった。レオは構えを悠然と解いた。

「騎士王リヒト…見事であった」

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