表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こころのみちしるべ  作者: 110108
アーケルシア編
58/102

056.『刃と拳』2

 戦闘において相手に心理的動揺を知られることは大きなマイナスであり、それをよく知る百戦錬磨のアイシャでさえ、思わず素直に驚嘆(きょうたん)の声を口に出してしまっていた。リュウガはアイシャを見て言った。

「すごい一撃だった」

 アイシャは生唾を飲み込んだ。次にリュウガが体の土埃(つちぼこり)を払い落としながら放った一言はアイシャをさらに唖然とさせた。

「だがお前が力を温存していることは看破していた」

 アイシャは呆然として(たず)ねた。

「何でわかった…」

 リュウガは少しだけ考えてから答えた。

「何となくだな。本気じゃない気がした」

 アイシャはただ呆れて笑った。

「すげえなお前」

 リュウガも少しだけ笑った。

「いやお前こそ」




 森の影の中から現れたリサはどこか悄然(しょうぜん)としていた。リヒトは彼女に気付くとその言葉を待った。

「安心してリヒト。クライスは意識を失っているけど無事よ」

「わかった。ありがとうリサ」

 しかしそう言ったリサにもリヒトにも歓喜の色はなかった。クライスほどの手練れである大男を一撃で森の奥まで吹き飛ばすリュウガの底知れぬ強さを目撃した二人は激しい戦慄(せんりつ)を覚えさせられた。アイシャの勝利を信じてはいたが、どこかで信じきれずにいた二人は緊張とともにその戦いの趨勢(すうせい)を見守っていた。




 アイシャは勝機の一端を奪われた。しかしまだ彼女には武器があった。拳でリュウガを凌駕(りょうが)したかった彼女はそれを使うことをためらったが、しかしプライドのために勝利を逃すわけにはいかなかった。彼女はためらいを捨て腰の後ろに仕込んだ二本のダガーを抜いた。アイシャにとってそれは大きな決断であり、武器を用いて戦うことはアイシャにとって大きなアドバンテージだったが、それを見てもなおリュウガの表情に変化はなかった。彼はただ数メートル先で構えもせずに佇立(ちょりつ)していた。アイシャはもはやその姿を見ても驚かなかった。彼女はただ「次こそは決める」という一心で自身の攻撃をイメージした。彼女は目を閉じた。一つ息を吸った彼女は次の瞬間にはもうその場にはいなかった。

 アイシャはリュウガの左に姿を現した。そこからの彼女の攻撃は苛烈(かれつ)を極めた。一振り当てれば致命的な出血を負わせるダガーによる目にも止まらぬ連続攻撃。仮に二振り当たれば出血を止めることは難しくなり、戦いはそれで決する。目の前の男は強く、失うには惜しい人材だ。何より先刻の戦いは(たの)しかった。しかしこれは戦争だ。勝たなくてはならない。アイシャは考えるのをやめた。ただ彼女は無心でナイフを素早く流麗に振った。

 それを(かわ)すリュウガの顔は先ほどの打撃戦の際よりも明らかに焦りの色が濃かった。無論反撃の隙はなかった。差し違えようとして万が一ナイフに触れれば、そこに毒が塗られていない保証はどこにもない。勝負はその時点で決する。リスクは取れない。先ほどはガードして防ぐことができた。しかし今はアイシャとの距離を必ず遠く保たなくてはならない。アイシャのスピードと攻撃センスを前にそれを遂行するのは容易ではなかった。

 アイシャは攻撃を続けた。それは今にも成功しそうに思えた。しかしリュウガも必死に(かわ)し続けた。こちらが攻めている。敵は防戦一方。しかしアイシャは焦り始めていた。彼女は言い知れぬ不安に襲われていた。この状況はあたしに有利…なはず。なのに…。その答えは徐々に頭の中で明瞭になった。不安の原因は二つあった。

 一つはリュウガが類まれな分析能力と適応能力と、それを実現する身体能力を備えていること。すなわち、時間が経てば経つほど彼がアイシャの攻撃を食らう確率が減っていくことだ。彼女はすでにリュウガに向かって何振りの攻撃をしたか知れない。その間彼女は敵に一度も手傷を負わすことができていなかった。

 そしてもう一つは彼女の体に実感として訪れていた。すなわち、スタミナの消耗である。彼女はリュウガに一太刀浴びせるべく鋭い剣戟(けんげき)を放ち続けていた。彼女は一太刀一太刀に全身全霊を込めていた。

 その疲労の蓄積はその一太刀一太刀の精度を下げた。そしてリュウガは彼女の攻撃への適応性を強めていった。すなわち、余裕をもって攻撃を避けられるようになっていったのである。アイシャが疲労を増すのとは対照的にリュウガには疲労の色が見えなかった。それは彼の無表情によるものだとアイシャは信じたかったが、しかし彼の動きのキレがまったく衰えないところを見るとそうではないことは明白だった。アイシャは歯噛みした。

 アイシャはこのままでは勝てないと焦った。焦った彼女は一太刀浴びせるべく下半身に力を込めて強く跳び、腕を思い切り伸ばした。リュウガは一瞬目を細めた。それは彼が待ち望んだ瞬間であった。

 鈍い痛みがアイシャの手を襲った。アイシャは目を見開いた。その視界の中でアイシャのダガーが宙を舞っていた。リュウガがダガーの柄を握る彼女の手を蹴ったのだ。

「アイシャ!」

 そうリサが叫んだすぐ後に、それは起きた。宙に浮いたダガーをリュウガが素早く(つか)み取ったのだ。アイシャは慄然(りつぜん)とした。するとリュウガはダガーを真っ直ぐアイシャに投げつける構えを見せた。アイシャはその狙いは自身の顔、もしくは胴になるものと予想した。しかし実際はアイシャの左手だった。リュウガはダガーを投げた。そちらへの意識が(おろそ)かになったアイシャは反応が遅れた。左手に真っ直ぐ飛んで来たダガーはアイシャの左手のダガーを弾いていた。アイシャは愕然(がくぜん)とした。弾かれたダガーは弧を描いて後方に落ち、弾いた方のダガーは足元に落ちた。アイシャは足元に落ちた方のダガーを拾うべきか迷った。

 次の瞬間、リュウガはアイシャとの距離を一瞬で詰めて来た。アイシャは自身が犯した致命的なミスを認めた。攻撃に躍起になる余りに武器を持つ手に蹴りをもらうリスクを想定し損ねていたのだ。さらに弾かれたダガーに気を取られリュウガへの意識が散漫になり、ダガーという防御の手段を失った状態で彼の接近を許してしまったのだ。すでにリュウガの左の拳はアイシャの鳩尾(みぞおち)を下から(えぐ)るように迫っていた。アイシャは中途半端な体勢になっていたため、彼女の防御や反撃が間に合う見込みはなかった。アイシャは0.1秒後に起こることを理解して諦観し心の中で舌打ちした。

(くそ…!)

 リュウガの拳はアイシャの腹に深く突き刺さり、彼女の体はくの字に折れ曲がった。彼女は目を見開き、その数秒後に意識を失った。リュウガは肩が彼女の胴に触れるほど深く踏み込み、そこから全身の体重と助走と腕に宿る膂力(りょりょく)により生み出される力のすべてを拳に乗せて腕を伸ばし切った。アイシャの体は森の中に飛んで行って消えた。リヒトとリサは愕然(がくぜん)とした。無数の葉が揺れ、枝が折れる音が一度にした。木々が揺れ、鳥が羽ばたき、強風や地震のように森全体を大きく揺らした。

「アイシャ!」

 リヒトがそう叫んだが無論返事はなかった。アイシャの無事を確かめるため焦りを表情に浮かべつつリサは身を(ひるがえ)し素早く森の中に消えた。




 リサはアイシャが吹き飛ばされた軌道を辿り、素早く森の中を駆け抜けた。その軌道上の枝は折れ曲がり、葉は飛び散り、そこだけ森の中にぽっかり暗い間隙(かんげき)が生まれているかのような破壊の跡があった。アイシャはその数十メートル先で倒れていた。リサが駆け寄りその容態(ようだい)を確認すると、アイシャはクライスと同じように腹を打たれ気を失っており、体中に枝葉を擦過(さっか)したための擦り傷と打撲を負っていたが、骨折などはしておらず、命に別状はなかった。リサは目つきを鋭くするとアイシャの体を素早く担ぎ上げて立ち上がった。リサはアイシャを運び、クライスが倒れている地点までやって来ると、彼の横に木の根を枕にして彼女を寝かせた。リサは倒れた二人の仲間を見下ろすとうつむけた顔と張った肘に力を込めて硬い声で言った。

「二人とも待ってて」

 リサは顔を上げた。その眼光は鋭かった。

「あの男は私が倒す」




 しばらくして森の中からリサが姿を現した。

「リサ!」

 リヒトは彼女が戻ってくるのを待っていた。

「安心して。クライスとアイシャは無事よ。ただ気を失っているわ」

「そうか」

 リヒトは安心した。リサは体の向きを変えると目つきを鋭くし歩を進めた。リュウガの十メートルほど手前で足を止めた彼女はその顔に怒りを(たた)えていた。

「あなたは私が討つわ」

 リュウガは言葉もなく、構えも見せずにリサと対峙(たいじ)した。リサは悠然と矢を(つが)えた。彼女は背筋を伸ばし、脚を大きく広げ、リュウガを真っ直ぐに見据えていた。その段に及んでもなおリュウガに動きや表情の変化はなかった。まるで一瞬ののちに自分が射抜かれるなどとは微塵(みじん)も思っていない風だった。彼女は矢の照準をリュウガに定めた。(やじり)の向こうに彼女の冷ややかで鋭い瞳の光がちらついた。それでもリュウガはただ構えもせずに立っていた。リサはためらわなかった。矢は放たれた。

 一瞬ののちにリュウガは虫を払うように顔の前で矢を手で払った。リサは呆然とし、弓をゆっくりと下ろした。彼女は今見たことが信じられなかった。一方のリュウガは払った手を下ろすと再び悠然と佇立(ちょりつ)した。リサは歯噛みし、心の中で(つぶや)いた。

(化け物め…)

 リサはさらに矢を(つが)えた。彼女は先ほどと違い腰を深く落とし、矢を引く幅を短くしていた。それは彼女が移動しながら連射する際の構えであった。同じ攻撃をしても彼には再び軌道とタイミングを読まれてしまう。だとしたら移動を加えつつ連射しそれらを読ませないようにするしかない。

 リュウガもまたそれを見て低く身構えた。彼女は矢を放った。しかしそれは半ば(かわ)されることや弾かれることを前提とした一撃だった。リュウガは右に動いて矢を(かわ)し、大きく鋭く後方に跳び退いた。彼はリサの動きをよく観察しながら次の矢の軌道を見極めようとしていた。矢の当たらないところに身を置くのが彼の基本戦術だった。リサは素早く観察力のある相手に狙いを定めるのに苦労した。しかしリサはためらいも諦めもしなかった。相手が尋常(じんじょう)ならざる観察力と反射神経をもっているのなら、それが尽きるまで追い詰めるまで。

 リサとリュウガの戦いはアイシャとリュウガの戦い同様にリサが攻める展開が続いた。そもそも武器をもたないリュウガにとってリサとの戦いは不利だった。リュウガはリサの矢を寸でのところで(かわ)し続けていた。リサは素早く矢を(つが)え続けた。次第にリュウガの作戦がリサの目にもはっきりと見えてきた。すなわち、リサの矢が尽きるまで避け続けること。

 リサの矢を(かわ)し続けるリュウガの表情と動きに疲労の色が見え始めてきたことを彼女は見落とさなかった。それもそのはず、彼はすでにアーケルシアが代表する二人の手練れと戦ったのだ。その上彼の戦い方は一貫して相手の出方を慎重に見極め、その拳を受け続けた上で反撃の機会を(うかが)うというものであり、スタミナの消耗は必定(ひつじょう)だった。

 リサはリュウガの消耗をさらに促す作戦をとりたかった。だが矢が尽きれば戦えなくなるのはこちらも同じ。消耗戦はどちらにとっても不利。彼女はそのジレンマの中にいた。どうすればそこをこじあけられるか、それが彼女の戦いの最大のテーマとなった。かといって接近戦を試みれば相手のもっとも得意な間合いに身を置くことになる。

 リサに残された手は二つあった。一つはこちらの矢が尽きる前にリュウガのスタミナが尽きることを信じて今の戦法をとり続ける、もう一つはリュウガが避けられないほど大量の矢を一気に連続で放ち、どれか一つでもリュウガに当てて戦局を変える。特に毒を仕込んだ矢が当たれば勝利は固い。

 リサは迷った末に両方の中間をとる作戦を選んだ。すなわち途中までは一本ずつ慎重に矢を放ち続け、リュウガの体力を削る。最後の十本ほどになったら一気に畳みかけて勝負を決める。この時点でリサの矢は残り二十本になっていた。

 リュウガは腕を重そうに下げ、息を切らしていた。彼の注意力はやや散漫になり、反応も鈍っているように見えた。あれだけの打撃をすべて二本の腕だけで防いできたのだから無理もない。

 リサは矢を放つペースを少しずつ遅らせた。戦いを長引かせて彼の体力の消耗をさらに進め、矢の消耗は抑える算段だ。彼は矢が来ることを警戒して距離をとり、リサのフェイントに応じて体の向きと体勢をめまぐるしく変えなければならなかった。

 とはいえリサにも焦りは(つの)った。彼女の矢は残り十五本になった。このあたりでスピードを上げるべきか彼女は迷った。しかしまだリュウガの体力の消耗は十分ではないように思えた。彼女は矢を同じように射続けた。あと十四本、十三本、十二本、十一本…。

 残り八本になったとき、彼女は予定通り仕掛けた。まず彼女は一本を空高く射た。彼女が得意とする上空より矢を飛来させる妙技である。リュウガは顔を上げ目を(すが)めた。リサの意図を理解したリュウガは全身に緊張を走らせた。そうなることを知っていたリサはリュウガとの距離を一気に詰め、なおかつ彼の近接打撃が当たらない距離に身を置いた。リサにとってもこれは賭けだった。天空に放った矢がどこに落ちるか判断のつかないリュウガは迂闊(うかつ)に動くことができずにいた。

 リサは近距離で強烈な一矢を放った。リュウガは跳んで身を(よじ)った。体の中心を穿(うが)つはずだった矢は彼の後方の空間を直進して消えた。リサは心の中で舌打ちしたが、彼女自身もリュウガが避けることは想定済みだった。矢はまだある。リサは次に矢を(つが)えるとリュウガの顔面を狙った。地に降りたリュウガは目を見開き、頭を右に倒すことで放たれた矢を避けた。避けたかに思われた矢はしかしリュウガの左の頬を擦過(さっか)していた。

 リサは心の中で歯噛みしつつ、初めてリュウガに手傷を負わせたことに勝利への手応えを覚えた。彼女は速度を緩めず攻撃をし続けた。次の一撃は足元を狙った。リュウガはリサの手を読んでいた。彼はそれを小さく素早く跳び退くことで(かわ)した。

 先刻は手応えを感じていたリサだが、その後の攻撃はすべてリュウガに読まれる展開が続いた。一本、また一本と矢が(かわ)されていく。その度にリサの顔には焦りの色が濃くなった。いよいよリサの矢は残り二本となった。リサはそのうちの一本を放った——かに見えた。リュウガは動いたがその実リサはそれを放ってはいなかった。空撃ちである。それはそれまでリサが温存しておいた得意技だった。一瞬体が動いていたリュウガは回避の体勢が取りづらくなった。そこを狙ってリサは矢を放った。リュウガはまたしても体を空中で無理矢理(ひね)ってこれを(かわ)した。しかし彼女の真の狙いはこのあとだった。着地するリュウガの胸元、顔よりも避けるのが難しいポイントに彼女にできうる最高の速度で矢を(つが)え放った。狙いも速度も完璧だった。着地直後で体勢を大きく変えられないリュウガはそれを(かわ)せるはずがない。そう確信のもてる一矢だった。

 しかし彼は胴を静態させたまま矢が胸に刺さる直前にそれを左手で(つか)んで止めてしまった。リサは目を疑った。彼はたしかに矢を(つか)んでいた。その先端はわずかに彼の胸に届いていなかった。リサの矢はついに尽きた。

 しかしそれで決着はつかなかった。リュウガは一瞬ののちに(うめ)き声を上げた。

「うぐっ…」

 彼はうずくまった。彼は振り向いてその痛みの源を見た。それはリュウガの足首に深々と刺さった一本の矢だった。先刻リサが空に高く放った矢である。リサはリュウガに攻撃を(かわ)されながらもリュウガがその落下点に辿り着くように仕向けていたのである。リュウガは矢を足首から抜くべきか迷ったが、出血を恐れてそれをやめた。彼は痛みに(うめ)きながら立ち上がりリサを見た。

「見事だったな。まさか術中にはまっていたとは」

 リサは不敵に笑った。

「勘の鋭いあなたに看破されなくてよかったわ」

 リュウガはしかし勝利を確信していた。

「しかし矢は尽きた。俺はまだ戦える」

 リサはしかしそれを聞いても自身の勝利を疑いはしなかった。彼女はリュウガのその言葉を想定していたかのように冷淡に笑った。

「いいえ、あなたの負けよ」

 リュウガは眉をぴくりと動かした。リサの言葉の真意はすぐに明らかになった。リュウガの体に言い知れぬ気怠(けだる)さが走った。さらに彼は眩暈(めまい)を起こした。リュウガは深く緩慢(かんまん)に息をし始めた。彼は苦しそうに息を吐いた。

「…毒か…」

「ええ、私はいつも何本かの矢に毒を仕込んでるの。空中に放った矢にはそれを使ったわ。それが当たらなかったらどうなっていたかわからなかったでしょうね」

 リュウガはついに片膝を地に着いた。

「そうか。見事な作戦と技量だ」

 リサはその称賛を素直に受けとった。

「ありがとう」

 あとは(くずお)れるのみとなったリュウガにリサは言った。

「安心して。あなたを死なせはしないわ。解毒剤ならある」

 リサは腰の袋から小瓶を取り出して見せた。半分閉じかけた目でリュウガはそれをぼんやり見た。

「あなたが動けなくなった後でこれをあなたに使う。あなたほどの戦士を失うのは惜しい」

 リュウガは感服の念とともにぽつりと言った。

「そうか…」

 さらに彼は謝罪の念とともにぽつりと言った。

「すまない…」

 リサはそれを謝意の表れとして受け取った。しかし実際は違った。次の瞬間、リサの正面にリュウガは立っていた。リサは目を見開いた。リュウガはリサの腹を右の拳で軽く打った。するとリサは意識を失い(くずお)れた。リヒトは愕然(がくぜん)とした。リュウガはリサの体を右腕で優しく抱き留め、彼女が手に持っていた小瓶を左手でそっと(すく)い上げた。リサをそっと地に降ろすと彼はその(ふた)を開けて一息に飲み干し、口を(ぬぐ)った。足首には痛々しく矢が刺さったままだが、彼はそれを折ってしまった。頬の傷はさほど深くはなさそうだった。疲労と毒によるダメージ、クライスとアイシャの拳を受け続けたことにより蓄積したダメージは否定できない。だが総合的に見て彼はまだ戦えそうに見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ