終祭り…祐翔と莉々華
もし…良かったら僕が送りましょうか?
つい、いってしまった言葉。
こんな可愛い子を一人にしたくない、そんな急な思い。
他の男が送るくらいなら、僕が送ったほうが良いはずだ。いやいや…送るのは彼女のお父さんだけど。
心配なのか、僕にもわからない。
急すぎた。と反省しながら取り繕う。
彼女は恥ずかしそうに下を向いてしまった、可愛い。
敬語が崩れてより近くに行くことができた気がする。
でも、僕の話に乗らなくて正解だろう。
僕は君が好きだけど、なんの保証もない。
そもそも、二つ返事で承諾されたらそれはそれで心配だ。
「えっと…申し出はありがたいのですが、流石にお名前もわからない方とは……」
「そうだよね…敬語に戻ってるよ?気軽に話してくれていいからね。……名前まだ言ってなかったっけ?僕は柴崎 祐翔だよ」
断ってくれたことにホッとする反面ガッカリしている自分もいる。
当たり前の結果に何を期待していたのか……
「…ゆっ…祐翔…さん」
っ…いきなり名前呼び…か。
ああ、もう。可愛いな。上目遣いで見上げてくれる彼女は。
物理的に僕の背が高いだけなのだけど。
「私は堀野 莉々華です」
莉々華ちゃん、莉々華ちゃん。
可愛くてぴったりな名前だ。
「莉々華ちゃん……だね。敬語、崩してくれたほうが嬉しいな」
「普段から敬語使ってるのでちょっと難しいです。時々敬語じゃなくなるけど……」
最後少し小さめの声でモゴモゴ言うのも可愛い。照れてるのかな。
そう思ってニコニコ見ているとがなり声が聞こえてきた。
「おう!莉々華!迎えに来たぞ」
愉快そうに笑うガッシリとした男性。あれが、莉々華ちゃんのお父さんなのだろう。
豪快に笑う彼に莉々華ちゃんは……
「思ったより早く着いたんだ…」
「おう!」
寂しそうな、恨みがましいようなそんな声色…に聞こえるのは、僕の願望だが、それでも…敬語なしに話している。
元気そうに答える父親は何やら冷たい目線を向けてきた。
そりゃそうだよ…とりあえず笑っておこう。
「貴方は…うちの子になにか用でも?」
はい、可愛すぎて離れたくなかっただけです、お送りする話だって本気だったわけではありません。
「坂道で転びそうな彼女を助けたのですが、話が弾んでしまいました…お父様をお待ちだったようで…いやあ、こんな可愛い子、一人で待たせては危ないなあと思って……」
何をぬけぬけ言ってるんだか。今さっきまで車に連れ込もうとしていた分際で。
はあ……こんな大嘘ついて、莉々華ちゃんに嫌われないといいけど。
「そうか!いやあ、すまんな…やっぱり、莉々華は可愛いよなぁ」
ああ、他の親だと呆れるのに、どうしてもできない。
だってしょうがないじゃないか。事実なのだから…
父さん?ああ、もう……なんていいタイミングで来てくれたの?
父さんが来る前にお名前を知ることができてよかった………
祐翔さん…素敵な名前を聞けただけでも良かったのに、名前を読んでもらえるなんて。
まだ話していたいのに、空気の読めない家族が来てしまった以上しょうがない。
「………|思ったより早く着いたんだ《もっとおそくてよかったのに》」
「おう!」
笑顔ではなった嫌味は全く届かず、むしろ笑顔という名の障壁によって跳ね返された。
なぜこうにも元気なのか。
祐翔さんは笑顔で父さんと話している。
人とすぐに仲良く慣れるタイプなのか、格好良い姿を見れて嬉しいやら…寂しい様子がないようで悲しいやら……
私を助けてくれた祐翔さんにお礼を言いながらも、父は祐翔さんがいることに疑問を持ったようだ。
”いやあ、こんな可愛い子、一人で待たせては危ないなあと思って…”
……この一言があるだけで、たとえ一度きりの縁だとしても、諦められる。
いや…諦めずに、思い続けるかもしれないが……
それでも、きちんと忘れることができる。
「莉々華ちゃん、会えて良かったよ!僕の地元が凄いんだって実感した。また、会えたら良いな……」
……そんなことを言われたら別れるのが惜しいではないか。
文句は口にも顔にも出さない。これは、文句というより嬉しいことを隠すための言葉だ。
「そうですね。勉強頑張ってくださいね……さようなら」
完璧な外面を祐翔さんに向けて、小さく別れを告げる。
後ろを振り向かずに素早く車に乗り込んだのに、気の利かない父さんは長々と祐翔さんに別れを告げる。
早く車を出して…そうじゃないと、私は………
「それじゃあな。本当に、莉々華を助けてくれてありがとう。もしなんかあったら力になるけぇ」
どこぞの不良が出てきたようだ。
元々不良だったのか、地元ではその昔に異名を残しているような父。
今では人当たりの良い強面のおっちゃんだ。
「いえ…こんなに可愛いんですもん。僕を含む男たち全員狼になっちゃいますよ…なんて。莉々華ちゃん…またね」
「はい…また」
可愛い女の子…可愛い女の子…
祐翔さんにはそう見えたんだ、良かった。
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