松山踊り…綺麗な方
今年は久しぶりの松山踊り。
行く途中に通り雨が降ったが、関係ない。
駐車場になっている小学校のグランドで父におろしてもらった。
「祭りが終わる少し前に連絡しろ。結構な時間がかかるからな。もし俺が遅かったり途中で帰りたくなったら連絡入れろ。電車で帰ってくればいいさ」
「ありがとう。じゃあね」
父にひと声かけて駐車場から、少し歩いて会場へ向かう。
一雨降ったあとだからか、地面がジメジメしている。
川の上を渡る橋は高くて、高所恐怖症ぎみの私には恐ろしい。
段の高い階段を降りて急な下り坂を下る。
この下り坂は要注意だ、転んでしまいそう…
そんなことを思いながら、前を歩く親子について行く。
松山踊りの会場は広く、横の通りには屋台の並んでいる通りがあった。
疲れたらここで休憩しながら、なにか食べようか。
踊りが始まるまで、屋台を見て回ろうか。
会場へ戻っている途中、やぐらの方から声が聞こえてきた。
”え〜今年は三年ぶりに……”
もうすぐ始まるのか…
見てみると、お揃いの浴衣を着て帽子を被っている一団が、三味線の音に合わせて踊り始めた。
少しずつ一般人も踊り始める。
私も踊るため輪に入ると、前を行く背の高い男性が目に入ってきた。
とっても上手に踊る…指先一つとっても上品な男性。
松山踊りの大変な足運びを丁寧に流れるように行っている。
この人の足運びをよく見て吸収しようと思い、よくよく見てみる。
マスクは、黒く下に垂れていて息がしやすそうな物、頭には帽子を被っているから顔が見えにくい。
しかし、目元は優しげな切れ長で、新緑の浴衣に真っ黒な羽織を着こなしている。
やとさ踊りに切り替わった時も、後ろを時々見ながら思う、格好いい…
歩く時は、手をブラブラと揺らしているにも関わらずきれいに見え、太鼓を叩く仕草で彼は、落ち着いてゆったりと肩を揺らす。
大袈裟に踊っている周りの同年代の若者とは違い、上品な仕草。
真っ白な足袋に藍色の下駄、落ち着いた見た目と、その仕草に心ときめいてしまう。
柔らかく握られたバチを持つ手に見惚れて…
我に返る。
違う。
決してそういった気持で見てはいない。
踊りが上手な人を見て、真似て、上手になりたいだけだ。
彼はとても楽しそうに踊っていた。
踊りながら知り合いに手をふる仕草も、踊りの一つかと思ってしまうほど自然で「あ、ここは手をふるんだっけ?」と勘違いしてしまう。
朗らかに笑う彼は見かけにうよらず明るく、顔が広いようでそのギャップにキュン…
太鼓とお囃子が終わり、長いはずの短い時間が彼を追い、眺めるだけで終わってしまった。
おかしい…本来は2時間のはずなのに、体感は1時間も経っていない。
おかしいな、と思いながら持ってきた手ぬぐいで汗を拭き、頬に手を当てる。
息も上がって、疲れたようだが……楽しかったから良しとするか。
彼は踊り終わると、知り合いの元へ行く。
ああ、後ろ姿さえも格好いい………
帰り道、飲み物を買おうかなと思いながらも彼を探してしまう。
キョロキョロと自販機の代わりに彼を探すと、帽子を外した彼のきれいなショートヘアが目に入る。
マスクの下から水を飲む彼は、知人と楽しげに話している。
彼を横目に眺める時を長くするため、わざとゆっくり買おうかと思うとその必要もなく、雨に濡れ、虫のついた自販機は汚かった。
そういやお父さんに連絡入れるの忘れてた、と落ち込んでいる私を他所に、彼はもう駐車場に向かっている。
目が合わないように……気づかれないように……
飲み物を買った私は彼の後を追う。
やましい事はない。
私も駐車場に向かっているだけだ。
なのに、何故か心はドキドキしてしまう。
彼の背中が見えるから、彼を見てしまうから…
だったら、彼の前を歩こうと思った。
疲れている脚に鞭を振るって、急いでいるアピール。
段の高い階段を上がり、上り坂を登って………
急ぎすぎたせいか、雨のせいか滑ってしまった。
来る途中危ないと思ったいたのに…
手すりは遠く、脚は動かない。
倒れる…!
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