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赤銅の剣は無慈悲につらぬく  作者: ばおー
第一章 炎の王国
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第五十六話 伏兵の一撃

 神獣の力をシヴァンが手に入れるーーそれはユシアたちにとって、手に負える事態ではなくなることを意味する。

 ただえさえ、底の知れない実力を持つシヴァンが〈天霊石(てんれいせき)〉によって更なる力を得た場合、それこそ一人で神獣を倒すことなど容易になってしまうだろう。

 火の神獣サラマンダーの他に、世界には複数の神獣が存在する。

 シヴァンがこれから世界中の国々をまわり、神獣から〈天霊石〉を手に入れたその時、彼は間違いなく世界の支配者として君臨するだろうーーそして、絶対的な力を持つシヴァンを前に、立ち向かえる者など誰一人としていなくなる。


 「神獣の力そのものだと......お前はすべての神獣から〈天霊石〉を奪うつもりなのか」


 ユシアが言った。


 「そうだ。神獣も王もこの世界には必要のないものだ。この世界は神獣のものでも王のものでもない。人の運命を決めるのは人自身だ。そして、それを実現させるためには神獣を葬るだけの力がなくてはならない」


 神獣によって〈デュナミス〉を持つ者たちは、契約の儀により王の支配下に置かれるーーそれがシヴァンには耐えられないのだろうとユシアは思う。

 グレンデルの森で、シヴァンはかつて愛する者を失ったと言っていたことをユシアは思い出していたーーその出来事が彼にどう影響を与えたのかはわからなかったが、無関係とも思えなかった。


 「完全に狂ってやがるぜ......神獣がいなくなれば、世界にどんな影響が出るかわからないってのに」


 ランドの言うことは最もだ。

 神獣は大地を流れる生命の源、〈アストラル〉が集中する場所を守るために存在するーーと言うのが、一般的な説である。

 しかし、実際のところ、神獣が誕生した理由も経緯も目的もなに一つ明らかになっていない。

 仮に世界から神獣が姿を消した場合、どのような影響が出るのかなど誰にも想像がつかない。


 「あの石を渡すわけにはいかない......奪われる前に破壊しないと......!」


 ユシアは一人呟くと、一歩踏み出した。


 「やめておけ、ユシア。今のお前におれを止めることなどできはしない」


 シヴァンがユシアの心を見透かしたかのように言った。


 「......やってみなきゃ、わからないだろ」


 今の自分の実力ではシヴァンと対等に戦うことなどできるわけがないと、ユシアは頭の中では理解していた。

 しかし、だからと言って、指をくわえたまま、じっと見ていることなどできるはずはなかった。


 「ーーでは一つ、種明かししてやろう」


 「た、種明かし......?」


 レオナルドが聞いた。


 「そうだ。おれの強さの秘密をお前たちに教えてやろうーー実は、おれの身体の中には〈天霊石〉の欠片がある。呪魔の鎖の効果がなかったのは、この石の力によるものだ。おれたちには〈デュナミス〉と呼ばれる強大な力があるーーそれは魔力よりも強い力だ。常人では不可能な魔法も、この〈デュナミス〉があれば可能となる。そして、〈天霊石〉はその力をさらに増幅させる効果があるんだーー呪魔の鎖でも抑えきれないほどにな。おれの言ってる意味がわかるな? お前たちでは絶対におれを止められないと言うことだ」


 シヴァンの告白で今までユシアの頭の中にあった疑問が解けた。

 魔力や〈デュナミス〉を封じることのできる、呪魔の鎖が効かなかったのも、今まで見てきた異常とも言える強さも、全ては〈天霊石〉によるものだったのだ。


 「......〈天霊石〉の欠片......そんなものいったいどうやって手に入れたの......」


 四人が言葉を失う中、ルファが発言した。


 「そこまで教える義理はない。だが、これでわかっただろう? いくらお前たちが五人で挑んでこようと、このおれには勝てんーー諦めろ」


 シヴァンはそう言うと、〈エルスパーダ〉の剣先を神獣の頭部の〈天霊石〉に向け、振り上げた。


 「諦めるもんか......黙って見てるなんてできない!」


 「そのとおりだ、デルフィ。このままなにもせず、奴を放っておけるか!」


 デルフィとユシアが同時に飛び出したーーそれに呼応するように、三人もあとに続いた。

 自分に向かってくる五人の姿を見たシヴァンは、〈エルスパーダ〉を構え直した。


 「おれの計画を邪魔するなら容赦はしない」


 シヴァンの〈エルスパーダ〉が赤く発光し、薙ぎ払うと、溶岩の斬撃がユシアたちに向かって放たれた。


 「今までのよりも大きいぞ、気をつけろ!」


 ユシアが叫び、全員が立ち止まり、〈エルスパーダ〉で防御の構えを取ったが、シヴァンの放った斬撃は五人全員を覆い尽くすほど大きく、耐えきることができずに後方へと大きく飛ばされた。

 しかし、全員すぐに立ち上がり、シヴァンを阻止するために再び駆け出した。


 「何度やっても同じだ。〈マリグナント〉であり、〈天霊石〉の欠片を持つおれとまともに戦うことなどできるわけがないだろう」


 シヴァンは再び溶岩の斬撃を放ったーーユシアたちが避けても、間髪入れずに次の斬撃が飛んでくるため、防御するものの、後方へと押し戻されてしまい、シヴァンとの距離を縮めることができずにいた。


 「ちくちょう......近づけねぇ......! どうすればいいんだ!」


 ランドの呼吸はかなり荒くなっていた。


 「諦めるな、ランド! 奴が石を手に入れる前になんとしてでも壊すんだーーそのあとのことは考えなくていい」


 そのあとーー今のユシアたちに〈天霊石〉を破壊したあとのことを考えている余裕がないのは明らかだった。

 自分の身を投げ打ってでも、シヴァンの計画を阻止しなければならなかった。


 「ああ、そうだな......そのとおりだ、ユシア。どんな結末になろうとも、やるしかないんだ」


 五人が走り出したーーそれを見たシヴァンが溶岩の斬撃を繰り出そうと、剣を構えたその時ーー倒れたサラマンダーの影から何者かが姿を現し、シヴァンの背後へと素早く近づいた。


 「うああああああああっ!」


 それは、レスター・ウィルコックスだった。

 エリーセを護衛するため、城に残ったはずの彼がなぜここにいるのかユシアには状況が把握できていなかったが、気配もなくシヴァンの背後から溶岩を纏った〈エルスパーダ〉で突き刺そうとする姿がはっきりと視認できた。


 「......! 誰だ、お前は......いつの間にっ!」


 攻撃の構えを見せていたシヴァンは、自分の背後に忍び寄っていた伏兵の存在に全く気づかず、身体を反応させることができなかった。


 「......がはっ......ぐっ......」


 レスターの魔法剣は見事、油断していたシヴァンの腹を背後から貫いたーー溶岩の剣で貫かれたシヴァンの表情は苦痛で歪んでいた。


 「レスター! なんでここに!」


 「話はあとだ、ユシア! 早くやれ!」


 レスターが叫び、ユシアが跳び上がったーー大きく〈エルスパーダ〉を振り上げ、渾身の力をこめて振り下ろした。


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