第四十三話 万能薬を求めて
「そんな......どうにかして、エルフと接触する方法はないんですか?」
ユシアは懇願するように言った。
「遥か昔に起きた大戦により、エルフは外界との接触を断つべく、エルゼンハイム周辺に魔法障壁を張ったーーその障壁を破る方法は未だ不明なのじゃ。エルフは魔法に長けた種族じゃ。我々ではまだ解明できていない魔法も多く存在するーーじゃが、可能性はゼロではないぞ」
「ほっ、本当ですか! いったい、その可能性と言うのは......?」
ユシアは食いつくように身を乗り出した。
「はぐれエルフと呼ばれる者を見つけ出すことじゃ。エルフの中には、希にエルゼンハイムから外の世界に飛び出した者がいる。そのはぐれエルフを見つけ出すことができれば、あるいはーー」
「はぐれエルフーーそれはどこに行けば会えるのですか?」
「ーーわからん。わしの知識ではこれが限界じゃ」
アイゼンバーグ院長は真顔のまま断言した。
ユシアは全身の力が抜けたように、がくりと肩を落とした。
「そうですか......アイゼンバーグ院長、今日はわざわざありがとうございました」
ユシアがお礼を言うと、アイゼンバーグは申し訳なさそうに彼の肩に手を置いた。
「なんの力にもなれんですまんな、ユシア」
「と、とんでもありません。院長がこうして話してくれたおかげで、〈エリクサー〉がエルフと関係していることがわかったんです。感謝しています」
ユシアの本心だった。
ここから一歩ずつだ、と彼は自分に言い聞かせた。
「ユシア、決して諦めるでないぞ」
「はい」
言葉を交わすと、アイゼンバーグは魔法院へと帰って行った。
ユシアは彼を部屋の外で見送ると、アーサーとエリーセに今回の件のお礼を言うため、再び部屋に戻った。
「陛下、王女、今回はおれのためにここまで力を貸していただき、ありがとうございました」
ユシアが頭を下げると、二人は顔を見合わせ、笑い出した。
「ユシア、いい加減堅苦しすぎるぞ。顔を上げろ」
「そうよ。それと、わたしのことはエリーセでいいわ。さっきまで呼び捨てだったのに、いきなり王女なんて調子が狂っちゃう」
それはお前が正体を明かさなかったからだろーーと、ユシアは思わず口に出しそうになったが、自分の愚かさが露呈するだけなので、ぐっと堪えた。
ユシアが顔を上げると、にこやかだったアーサーの表情が真剣なものへと変わった。
「実はな、わたしは息子を〈灰病〉で失っているのだ」
ユシアは絶句した。
全身に雷が落ちたような衝撃があった。
「エリーセの兄だったのだがな。わたしは息子が〈灰病〉であることを本人には隠していた。しかし、息子はなにかがきっかけで、自分の病のことを知ってしまいーー精神的に追い詰められた息子は自ら命を断ったのだ」
アーサーは顔を伏せながら語った。
ユシアにはこのことが、どのくらい前の出来事なのかはわからなかったが、アーサーは告白するのも辛そうな様子だった。
息子を失った悲しみは、いくら時が立ったところで心の傷が癒えることはないだろうとユシアは思った。
「そんなことがあったんですか......だから、今回の件をーー」
「わたしはまだ、過去の幻影に囚われているのかもしれんな......ユシア、しっかり食べておくんだぞ。また、いつ、任務があるかわからんからな」
「お気遣いありがとうございます。失礼します」
ユシアはそう言って、部屋をあとにした。
その途端、緊張の糸が切れたのか、お腹が鳴ったので、アーサーに言われたとおり、食堂へと向かうことにした。
廊下を歩いていると、反対側からブランドンがやってくるのが見えた。
彼はユシアを見つけると、足を止め、話はじめた。
「ユシア、今後のお前の家のことについてだがーーアルフィノが亡くなったことで、新たな領主がロナンの街に就くことになった。そのことで、お前の母と妹は家を移らなければならないのだがーーまだ、詳しいことは聞いていないが、情報が入り次第、お前に知らせよう」
ブランドンはそう言うと、去って行った。
ウォーロード家は、本来の跡継ぎであるユシアが〈デュナミス〉を持って生まれたため、〈赤銅の剣〉に入らなければならなくなったのと、リセスが病のため、家を継ぐことができない。
そのため、ロナンの街は新たな領主を迎えることになる。
当然、今現在、ウォーロード家が住んでいる領主の館からは出て行かなければならない。
アルフィノが生前、騎士であったことから、それ相応の家が用意されるため、ユシアは特にそのことについては心配していなかった。
食堂に入ると、〈赤銅の剣〉の面々が昼食を取っているところだった。
ランドが食堂の入口にいるユシアを見つけると、大声で彼の名を呼び、手招きした。
「ユシア、今までどこにいたんだよ。朝食にも顔を出さなかっただろ」
ランドは鶏の丸焼きを口いっぱいに頬張っていた。
「実は今、魔法院のアイゼンバーグ院長から〈エリクサー〉のことを聞いてたんだ」
ユシアは席に着き、長テーブルの上に用意された鶏肉を食べはじめた。
エリーセの件について、ユシアは黙っていることにした。
そんなことを話したら、ランドに女の子と二人でなにをしてたんだ、と問い詰められると思ったからだ。
「......それで、なにか手掛かりは掴めた?」
ユシアの隣で野菜のスープをすすっているルファが聞いた。
「掴めたようで、掴めなかったかな」
歯切れ悪くユシアが答えると、焼き魚を食べていたデルフィが口を挟んできた。
「なにそれ? 隠さないで話してよ。仲間でしょ」
ユシアは口の中のものを水で流しこんだ。
「ーーはぐれエルフって、知ってるか?」
「そ、それって、エルフの国から外の世界に出て行ったエルフたちのことだよね? エルフは本来、自分の国からは滅多に出ないから......」
パンを食べていたレオが言った。
「よく知ってるな、レオ」
感心したようにユシアが言った。
「じ、実は父さんが魔法院にいるんだ。魔法のことを勉強する時、エルフの歴史についても習うからね......そ、それで少しだけ知っているんだ」
レオナルドは少し照れているようだった。
「ーーそれで、掴めたようで掴めなかったってのは、どういう意味だよ?」
と、ランド。
「アイゼンバーグ院長が言うには、万能薬はエルフの技術らしいんだ。エルフにその製造法を聞こうにも、エルフの国ーーエルゼンハイム周辺には魔法障壁が張られていて、入ることができない。そこで、はぐれエルフが唯一の手掛かりになる。そのはぐれエルフを探し出せればーー」
「ちょっと待ってよ。その、はぐれエルフって、どこにいるのかわかってるの?」
当然の疑問をデルフィがぶつけた。
「ーーだから言っただろ? 掴めたようで、掴めなかったって」
ユシアはお手上げのポーズをした。
「あるかもしれないわよ」
ユシアのすぐ後ろから声がしたので、振り向くと、ティアーズが食事をしていた。
ティアーズはユシアのほうを向き、話した。
「地下牢にいるシヴァンなら、はぐれエルフのことを知っているかもしれないわ。この数年、色々なところをまわっていたみたいだしねーーでも、期待しないほうがいいわよ。知っていたとしても、あいつが素直に話すとは思えないから」
ユシアはすでに席を立ち、走り出していたーー自分の父親の命を奪った仇に会うために。




