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赤銅の剣は無慈悲につらぬく  作者: ばおー
第一章 炎の王国
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第二十四話 進化

 枝葉の影から、引きずりこまれた二人の騎士の悲鳴が聞こえてきた。

 風で枝葉が揺れ、木々のざわめきがより一層森を不気味にさせていた。

 風が止み、森が静寂を取り戻すと、皆がその状況を理解した。


 「飲みこまれたんだ......〈灰人(はいじん)〉に」


 ユシアの頬を汗が伝う。


 「そんなーーだってよ、あの三人は王国騎士団だぜ。それがあんな一瞬で......」


 ランドが身体を震わせている。

 ユシアも彼と同様の思いだった。

 グレイモール王国騎士団と言えば、国を代表する戦士たちだ。

 剣術だけではなく、魔法も使いこなせなければ騎士団に入ることはできない。

 戦闘経験も豊富で、対人戦だけではなく、怪物との戦闘も経験している。

 そんな騎士が三人も抵抗できずにあっという間にやられてしまった。

 それにしてもーとユシアは思った。

 人を一人丸飲みすると言うのは、あまりにも衝撃的な光景だった。

 脳裏に焼きついて離れない。

 骨を砕き、獲物の動きを止めてから捕食するーー飲みこまれる時の騎士の絶望感は言葉では言い表せないだろう。

 剣で攻撃しても瞬時に治癒する再生能力、鍛え上げた騎士の身体を砕くほどのパワー、高い木の頂上まで軽々と登るほどの身体能力、変幻自在に伸び縮みする腕ーーどれを取っても、今まで見たこと、聞いたこともない能力を持つ怪物だった。

 残りの兵士は、王国騎士が二人と、〈赤銅(しゃくどう)つるぎ〉が七人ーーこの怪物相手にどう対抗すればいいのか。


 「それにしてもさっきの攻撃、気配が全く感じられなかったよ」


 人間よりも感覚が鋭い、猫の獣人フェリスのデルフィが上を見ながら言った。


 「う、うん。ほんとに一瞬だった」


 と、レオナルド。


 「......あのスピード、反応できない」


 ルファも同様の意見のようだ。


 「出てこないなら、出てこさせるだけよ」


 ティアーズは魔法剣〈エルスパーダ〉を構えると、木に突き刺し、そのまま周囲をぐるりとまわり、斬った。

 巨大な木が倒れ、静寂な森に大きな振動が伝わった。


 「なにをしている、ティアーズ!」


 アルフィノが激怒した。


 「〈灰人〉が降りてこないなら、まわりの木を一本残らず斬るだけよ」


 ティアーズが睨み返す。


 「グレンデルの森にはオークがいるんだぞ! 奴らは徒党を組んでる。勝手に森を荒らせば、奴らを挑発するだけだーー忘れたのか? 我々はオークを刺激させないために少数で行動しているんだ!」


 アルフィノがティアーズに詰め寄ったーーそれも無理のないことだった。

 オークにとって森は神聖な場所だ。

 森の中に砦を築いている彼らにとって、自分たちの領域を侵す者は誰であろうと許さないーーその行為は彼らへの宣戦布告と受け取るだろう。

 その時は容赦なく牙を向き、襲いかかってくるーー今、オークと交戦するわけにはいかなかった。


 「いいか、帝国の奴らが大軍で攻めてこなかったのは、オークと交戦しないためだ。奴らを刺激させないために最低限の人数で攻めてきたのだーーまさか、誰もこの森を通り抜けてくるとは予想しないからだ。今、我々は帝国と戦っているんだ。そして、〈灰人〉まで出てきた。それに加えオークが出てきてみろーーこの人数では歯が立たんことぐらい貴様にもわかるだろう!」


 アルフィノは捲し立てたーーしかし、ティアーズは表情一つ変えなかった。


 「アルフィノ卿、あなたの意見はよくわかったわーーだから、オークがくる前に片をつけるの。木を斬り倒せば〈灰人〉は嫌でも出てこざるを得ないーー素早く倒し、この場を離れる。難しいことではないわ」


 その時、再び大きな振動が森の中に響き渡った。

 全員がその方向を見ると、倒れた大木の横にロレインが涼しい顔で立っていた。


 「貴様っ、今の閣下の言葉を聞いてなかったのか! オークをこれ以上刺激するな!」


 アルフィノの部下の騎士がロレインに激昂した。


 「悪いがーー」


 彼女は人差し指を立てて答えた。


 「わたしの上官はティアーズだ。アルフィノ卿ではない」


 「なんだとっ! 貴様、騎士である我々を愚弄しているのか!」


 「我々に身分など関係ない。あるのは決められた上下関係のみーーなにをしている! ユシア、ルファ、デルフィ、ランド、レオ! ティアーズ隊長の指示に従え。〈灰人〉がいつ、また攻撃してくるかわからないぞ」


 ロレインは突っ立っていた五人に声を荒げた。


 「ええいっ! どうなっても知らんぞ」


 アルフィノは自らの剣を掲げたーーすると、剣身が風を帯びはじめ、その風は徐々に勢いを増していった。


 「あれはーー魔法剣!」


 ユシアは驚いたーー魔法剣は強大な魔力〈デュナミス〉を持つ者だけができる魔法だと思っていたからだ。


 「当然だ。貴様らにできて我々にできない理由などないだろう?」


 アルフィノは剣を構えると、横に振り切った。

 その勢いによって、剣身からは風の斬撃が放たれたーーそれは木に直撃すると、綺麗に真っ二つになり、木は傾きはじめた。


 「す、すごい......これが、父さんの魔法剣か」


 ユシアは自分の父親に見入っていたーーその時、傾きはじめた木の上から巨大な黒い影が落ちてきた。


 「な、なんだ、あれはっ!」


 ユシアたちは息を呑んだ。

 それはたしかにあの〈灰人〉なのだがーー明らかに先程よりも身体が巨大化していた。

 細かった手足も筋肉で盛り上がっている。


 「グェァッ!」


 それは一瞬の出来事だった。

 〈灰人〉が一歩踏みこむと、騎士との間合いを一瞬で詰め、頭から飲みこんだ。

 騎士は叫ぶ余裕などなく、怪物の餌食となった。

 怪物は鳥が魚を喰らうように獲物を胃袋に流しこんだ。


 「は、速い!」


 身体が巨大化しているだけではなく、スピードも増していた。


 「おのれぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」


 アルフィノが雄叫びを上げ、怪物に突撃した。



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