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赤銅の剣は無慈悲につらぬく  作者: ばおー
第一章 炎の王国
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第十九話 帝国との戦い

 シェルプール川での戦いは、ユシアの想像以上に熾烈を極めていた。

 火と氷の魔法が激しくぶつかり合い、水蒸気の爆発が至るところで発生している。

 グレイモール兵もドルマルク兵も、〈デュナミス〉を持たない者は容赦なく倒されていく。

 ユシアたちがきた方向は少し下り坂になっており、その両側は低い崖になっていた。

 帝国軍の後方には、深く鬱蒼としたグレンデルの森が広がっており、そこを抜けてきたと考えてよかった。

 ユシアはドルマルク帝国がもっと大規模な大軍で攻めてきたのかと思いこんでいたため、予想よりも少人数なのに驚いた。


 「見て。あれがドルマルク帝国で生まれた〈デュナミス〉を持つ者たちーー〈青籃(せいらん)騎士団〉よ」


 先頭に立っていたティアーズが指差した。

 ユシアたちが目を凝らしてみると、白い胴衣(ダブレット)に身を包み、手には剣身が氷で覆われた剣を持っている赤い瞳の兵士たちがいた。


 「帝国では〈デュナミス〉を持って生まれりゃ、騎士待遇かよ」

 

 ランドが愚痴を溢した。

 しかし、ユシアもその気持ちはよく理解できた。

 騎士待遇ならば、領地も所有できるし、ユシアの場合ならば、家を継ぐことも可能だった。

 そうなっていれば、今と立場はだいぶ違っていただろうとユシアは思った。

 だが、今はそんなことを考えている場合ではなかった。

 ユシアはすぐに自分の頭の中に浮かんだ考えを振り払った。

 今は目の前の戦いに集中しなければーーユシアは自分の心にそう言い聞かせた。


 「あれは......おれたちと同じ魔法剣」

 

 「そのとおりよ、ユシア。あれは〈エルスパーダ〉。ただ、わたしたちとは違って、氷の魔法を使うの。十分に気をつけないとーー」


 その時、〈青籃騎士団〉の一人が、グレイモール兵の身体を〈エルスパーダ〉で貫いた。

 貫かれた兵士は一瞬にして全身氷漬けになり、川の中へと倒れ、硝子のように粉々に砕け散ってしまった。


 「ちょっと......なによ、あれ」


 「く、砕けちゃった......一撃で」


 デルフィとレオナルドの顔は恐怖で固まっていた。


 「〈デュナミス〉を持たない者だと、耐性がないから一瞬にして、ああなってしまうの。さぁ、驚いている暇はないわよ。わたしも行くわよ」


 ティアーズは魔法剣〈エルスパーダ〉を背中から引き抜いた。

 ユシアたちもそれに続いた。


 「突撃!」


 剣身に溶岩を纏った〈エルスパーダ〉を掲げながら、ティアーズは先陣を切り駆け出した。

 ユシアたちも全速力でついて行こうとするものの、彼女との差は開くばかりだった。


 「なんて速さだ......ティアーズ隊長は」


 坂を下りきった時、ユシアは自分が思いもよらなかった人物の姿を見た。

 それは、三年前に別れたきり会っていなかった実の父親ーーアルフィノ・ウォーロードだった。


 「父さん......なんでここに」


 川の前でユシアは足を止めた。

 自分が今見ているものを受け入れることができなかった。

 立ち尽くすユシアの横を仲間たちが通りすぎていく。


 「......ユシア、どうしたの?しっかり」


 ルファの言葉はユシアに届いていなかった。

 まさか、この様な形で父親と再会するとは思いもよらなかったからだ。

 アルフィノは迫りくる敵兵を次々と剣と魔法で倒していった。

 それは、息子であるユシアがはじめて見る父の戦う姿だった。

 剣術に長けていることは知っていたが、ここまで魔法を使いこなせるのには驚いていた。

 〈青籃騎士団〉に対しても引けを取らず、火や雷の魔法を使い応戦していた。


 「父さん、ここまで強かったのか......」


 ユシアは父親の勇姿に感動さえ覚えていた。

 しかし、いつまでもその姿を眺めているわけにはいかなかった。


 「ユシア、危ない!」


 ルファの声でようやく我に返ると、ユシアのすぐ横から青い胴衣(ダブレット)を着た兵士が剣を振り上げ、斬りかかってきた。


 「帝国兵かっ!」


 ユシアが構えるよりも速く、ルファが前に出て帝国兵の剣を〈エルスパーダ〉で受け止めた。

 溶岩の剣により、敵の剣身は徐々に溶けはじめた。

 ユシアは帝国兵が隙だらけになったのを見逃さなかった。


 「うおおおおおおっ!」


 〈エルスパーダ〉を構えて突撃し、敵の心臓に突き刺した。


 「ああああああああっ」


 ユシアが剣を引き抜くと、敵は白目を剥きながら倒れ、絶命した。


 「し、死んだ......」


 ユシアは自分の手が震えているのを確認した。

 以前、人狼へと変異した村の若者を倒したことがあったが、今回は敵の兵士とは言え、普通の人間だ。

 例え敵対していても、人を殺すのは決して気持ちのいいものではなかった。

 ユシアは改めて、この仕事を続けることの難しさを痛感した。

 父も最初は今の自分と同じ気持ちだったのかと、ユシアは思った。


 「......ユシア」


 「あ、ああ。なんでもない。行こう、ルファ」


 「ユシア! 感傷に浸ってる場合じゃないわよ! 敵はまだいる。集中して!」


 まわりの敵を倒しながら、ユシアの感情を読み取ったようにティアーズが叫んだ。


 「はい!」


 ユシアとルファも川の中へと入り、帝国兵と交戦を開始した。

 シェルプール川の流れは緩く、浅かったため、ユシアが思っていたよりは動きやすかったが、足場が悪いことには変わりがなかった。


 「くたばれ! グレイモールの犬どもめ」


 叫びながら斬りかかってくる帝国兵の剣を〈エルスパーダ〉で斬る。

 溶岩の剣で真っ二つに溶かされた自分の武器を見た兵士は、ユシアに背を向け、一目散に逃げ出した。


 「逃がすな!」


 誰かが叫んだ直後、逃げて行く帝国兵に火の球が直撃し、炎上した。


 「ぎゃああああああっ」


 兵士は全身を炎で焼かれ、川の中へと倒れた。


 「今のは、〈火炎球(ファイアボール)〉」


 ユシアが火の魔法の飛んできた方向を見ると、そこには厳しい目つきをしたティアーズがいた。


 「ユシア! 敵に情けをかけてはダメよ。とどめを刺すまで油断しないで」


 「は、はいっ」


 ユシアは気を引き締め直し、再び帝国兵と剣を交えた。

 その様子を森の中から、不気味な笑みを浮かべてじっと見ている男がいた。


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