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赤銅の剣は無慈悲につらぬく  作者: ばおー
第一章 炎の王国
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第十四話 闇夜の襲撃

 被害者が夜に襲われていると言う点から、ユシアたち三人は宿屋に泊まり、怪物が現れるのを待つことにした。

 宿屋の主人は嫌そうな顔をしたが、商売のためか渋々三人を受け入れることにしたようだった。

 ユシアたちは例の怪物が現れるまで、部屋で話し合いを行った。

 全員が疑問に思ったのは村長の対応だった。

 怪物によって死者が出ているのにも関わらず、なぜ領主への報告を怠り、通りすがりの冒険者に怪物退治を依頼したのか。

 ロレインの推測どおり、犯人が人狼ならーーいや人狼でなくとも、怪物退治ならば領主か〈赤銅(しゃくどう)(つるぎ)〉に応援を要請するのが村長の務めだ。

 例え辺境の地であったとしても、実害があれば兵士たちは出動する義務がある。

 それをなぜ、見ず知らずの冒険者だけに依頼したのか。

 そもそも今回の件が発覚したのは、マレーナ村に立ち寄った商人が事件を知り、国に報告したからだ。

 そして、国王から命を受けて〈赤銅の剣〉が出動することとなった。

 村長は最初にユシアたちを見た時、面を喰らった表情をしていた。

 まるで、なぜお前たち〈赤銅の剣〉がここにいるんだ。わたしはなにも報告していないのにーーと言うような。

 単純に〈赤銅の剣〉を嫌っていると言うよりは、怪物退治にきてほしくなさそうだった、と言う印象を三人は受けていた。


 「今回の一件がロレインの言うように人狼の仕業なら、犯人の正体は人間ってことだ。人狼は昼は人間、夜になると狼男に変身する。問題なのはその犯人が誰かってことだ」


 ユシアはローブを脱ぎ、椅子に腰かけた。


 「早まるな、ユシア。可能性が高いと言うだけだ。誰も人狼の姿を見たわけじゃないんだぞ」


 窓から外を見ていたロレインが振り向いて言った。


 「それにしても情報源が少なすぎる。誰に聞いても嫌な顔をするだけでなにも話してくれない」


 ユシアは幼少のころから嫌われることにはある程度慣れているつもりだったが、任務で情報を聞きたい時に聞けないのはもどかしいものがあった。

 必要な情報が得られないと、任務にも影響が出てしまう。

 これでは、リセスの病気を治すために必要な万能薬〈エリクサー〉の情報を得るのにも相当な苦労をするだろうと、ユシアは考えていた。


 「......慣れないな、嫌われるのは」


 珍しく感傷的なルファの発言に、ユシアは思わず彼女を見つめた。

 ルファはベッドの上でうずくまるように座っていた。

 普段、滅多なことでは動じない彼女だったが、やはり心の中では人には見せない葛藤があるのだろうとユシアは思った。

 三人の間にしばし、沈黙が流れる。


 「それにしても、今回の件で一番変なのは村長だ。いくらおれたちのことが嫌いだからって、死者が出ているのに協力しないってのはどういうことなんだ。村の責任者としての自覚がなさすぎる」


 沈黙に耐えきれず、ユシアが憤慨したように言った。


 「それは同感だな。だが、あの村長、我々を単に嫌っているわけではなさそうだ」


 ロレインは壁に寄りかかりながら言った。


 「どういうこと?」


 「我々の任務が帝国軍や〈灰人(はいじん)〉との戦いの他に、怪物退治も含まれていると言うのは誰でも知っていることだ。その我々に協力を求めず、邪険にしている割には、自分で冒険者を雇って怪物退治を依頼しているーーなにか引っかかる」


 「単におれたちが気に入らないだけじゃ?」


 「死人が出ているんだぞ、ユシア。村長はこの一件を我々はおろか、領主にさえ報告していない。我々がこの件を知ったのも、この村に立ち寄った商人が報告してきたからだ」


 「村長は今回のことを表沙汰にしたくないのかな?」


 「......なにか隠してることがあるのかも」


 ルファがぼそりと呟いた。


 「隠してること? それってなんーー」


 ユシアが尋ねようとした瞬間、外で大きな物音がした。

 三人は反射的に窓を開け、外を確認するとーー。


 「きゃーーーーーーっ!」


 女性の悲鳴が三人の耳に入った。

 次の瞬間ーー。


 「ウォォォォォォン」


 狼のような遠吠えが聞こえてきた。

 三人はお互いに顔を見合わせた。


 「行くぞ!」


 真っ先にユシアが魔法剣〈エルスパーダ〉を手に、二階の窓から飛び出した。


 「待て、ユシア! 隊長はわたしだぞ! 勝手に行動するな」


 ロレインが部屋の中から怒鳴ったが、ユシアは止まらなかった。


 「......わたしも」


 続いてルファも窓から飛び出し、軽業師のように着地し、ユシアのあとを追った。


 「ええいっ! 問題児どもめ!」


 仕方なくロレインも二人のあとに続いた。

 実は訓練中にもユシアは上の命令を無視して行動することがあった。

 団長のブランドンが理由を尋ねると、彼は決まって身体が勝手に動いていた、と答えた。

 結果的にユシアは成果を出していたため、ブランドンもそれ以上追求することはしなかった。

 ユシア自身、自分が酷く冷静で感情が無になった時、本能的に身体が勝手に動いてしまうことがあった。

 それは自分ではどうしようもないことだった。

 今もユシアは本能に身を任せている。

 悲鳴の聞こえた方向に全速力で駆ける。


 「あれはーー村長の家だ」


 ユシアが到着すると、村長の家の前には灰色の体毛に覆われた二足歩行の狼ーー人狼の姿があった。

 その前には、地面に倒れた村長と目撃者であろう女性がいた。


 「グルルルル......」


 剥き出しになった牙から、涎が滴り落ちている。


 「人狼」


 驚いたことに人狼は大柄で、二メートル以上は確実にあった。

 喉の奥から唸り声を出して、ユシアを威嚇している。


 「ユシア、勝手な行動をーーこいつは! やはり、人狼の仕業か」


 すぐにルファとロレインも駆けつけた。


 「家に帰るんだ。早く」


 ユシアは女性を落ち着かせるように優しく声をかけた。

 恐怖に怯えていた女性は、ユシアの言葉に従い、その場を離れた。


 「人狼は魔法は使わないが、圧倒的なパワーとスピードがある。おまけにあの体毛は並大抵の武器や魔法では傷一つつけられないーーだが、我々には力がある。呪われた魔力、〈デュナミス〉が」


 ロレインが〈エルスパーダ〉を構えると、続いてユシアとルファもそれに従った。


 「魔法剣だ」


 ユシアが言ったと同時に、三人の〈エルスパーダ〉の剣身は火花が散り、溶岩に包まれた。

 すべてを溶かし、飲みこむかのような不気味な粘性の溶岩が蠢いている。


 「これは今までの訓練とは違うぞ。ユシア、ルファ。我々の任務に失敗は許されない。我々は自らの命を懸けて、この人狼を討伐する」


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