夫編
次は夫だ。
夫は幼少期から理由の分からないアナフェラシーショックで月に数回も倒れるも、アレルギーが一般的でなかった昔なので、家族に「そんな大袈裟」と笑われている中で彼はゴムースを咥えて気道を確保していたそうだ。
彼の境遇に驚くも、「皆が知らずに、知ろうともしなかったのだ」と寂し気に言っていた。
アレルゲンはずっと分からずに、激しい症状が出る。
湿疹、蕁麻疹は全身を掻きむしるほどで夜も寝むれない。脂漏性湿疹、鮮血の血便。血便の色から大腸で口から入るものだと仮定。
定期的な血便に関しては、何度か大腸検査をするも理由不明。
そうだよね。大腸検査は絶食をしてからなのでアレルゲンが無ければ炎症も起きず出血もない。それまでは癌も考えて怖かった。だって、月の半分は血便なのだ。酷い時はチョロ~と音がするほど血が流れる。酷い貧血で鉄剤を飲むも、輸血も検討されるほどだった。
それが8年の結婚生活をしていたにもかかわらず、3ヶ月ほど前にやっと判明。
まさかの炭水化物、糖質アレルギーである。
最初に私が疑ったのは小麦アレルギーだ。ラーメンを食べた後(それも12時間後という微妙に分かり難い)に蕁麻疹。それを夫に伝え、意識して小麦を除去するも顔の湿疹でかぶれるのは変わらない。
夫が自分で見つけたのが、米アレルギーの症状の写真だった。
米、小麦かよ!……糖代謝は大丈夫?まあ、アレルギーの人に砂糖は良くない。肌にすぐ炎症が出るからね。
結果、炭水化物、糖全部だめでしたーっ。
だから、芋類もトウモロコシもダメ。甘味料は消化しにくいオリゴ糖なら大丈夫かと思っていたが酷くないけれど湿疹出た。もしかしたら羅漢果は大丈夫かもしれないけれど、体調が良くなってから試してみたい。ダメだったたびに落ち込んでしまう夫の感情が耐えられそうな元気な時にでも。
それで最近の食事は、肉、魚、魚、肉、肉、肉。
植物性のたんぱく質は体に合わないらしく、お腹が急流下りになってしまうので悲しいかな除外である。
なるべく栄養を壊さないように生で食べれるものを。というわけで、我が家では鹿肉が食卓に良く上がる。鹿肉はヨーロッパでは高級食材だけれど、日本ではまだマイナーなせいか輸入牛肉より少し高いくらい。
生食の肉と言えば馬肉になるだろうが高い。それに鹿肉に慣れると生臭く感じる。赤肉が体に合うようだが羊の肉はここ5年で高くなってしまった。
お値段の安い鶏肉は飽きが来る。
鳥ハム常備。でも冷凍庫から出番なし。理由飽きたから。
ブラジル鳥のもも肉2キロも出番なし。
そのため夫の食卓は週一回の買物の日に刺身を食べて、後は翌日、焼き魚。その後は焼肉、牛のサガリにトントロ。その次、鹿肉のヒレの刺身、鹿ロースのたたき。鹿の太もものシンタマという部位が安くて旨い。刺身でもたたきでも、ローストでもOK。
3週間に一度くらい1ポンドステーキ。
夫は肉オンリーで私は納豆と野菜と夫の肉を少し貰う。生肉でユッケも良いし、鹿肉の刺身もたたきも旨い。
私は結婚するまで余り肉は食べなかったのだが、超肉食の夫のせいで肉を食べていたら結構食べられるようになっていた。というか、今までの肉料理は火が入りすぎていたのだ。火が強く入り硬くなった肉を食べると、肉を欲する時期でなければ消化器官の弱い私の胃腸は悲鳴を上げ腹に湿疹が出る。
豆腐や納豆ばかりだったがまれに、月に数回程度肉を食べたくなる時期があった。
その時に昼は生姜焼き、夜はハンバーグなど食べていたが、それ以外はむしろ肉を除外していた。ほぼ一人暮らしだったので楽に調理出来るもの、安いものが中心だったせいでもある。
今は毎日50g程度ではあるが生で鹿を食べる。驚くほど消化に負担がかからない。
夫が100gほどをツルリツルリと飲み込んでいくのを見ながら、私は丁寧に咀嚼しているのである。
夫は生肉少しと焼肉、ステーキ、シャブシャブなどを主食にする。
まあまあ財布を圧迫しているのも事実だが、それまで夜食のカップラーメンがなくなり、毎日飲んでいたペプシコーラもなくなったし、夫の食事は基本夕食のみで、夜食にチーズを食べるくらいなので、なんとかやっていけている。
もちろん、潤沢なるモノがあれば毎日1ポンドステーキでも食べさせてあげたいが、結局は豚、牛、鶏、鶏、鹿、鹿、鹿、魚なのである。それらの肉を毎夕食で350gくらいで、鹿の生肉は100g。
アレルゲンがなくなれば、自ずと体の調子も良くなるもので、湿疹かぶれ、脂漏性湿疹がなくなり、肌艶よし。未だ下し気味だが血便も酷い腹痛もなくなった。脳への栄養も糖でなくたんぱく質のケトン体の道が出来たようで、アルツハイマーの進行も緩やかになっている。気持ちも上がっているようで、長い鬱の時期が明けて躁に入っているようだが、これは長年付き合っている病気なので、たかが数ヶ月では何とも言えない。
これを書いている傍から鬱期に入ってしまったので、早く鬱期が抜けるように鹿肉を食べてもらおう。
内臓脂肪も減り、ウエストは20センチも細くなり顔も細面に戻りつつある。体重は3ヶ月で8キロ落ちている。低炭水化物ダイエットでなく、NO炭水化物だものな。夫の脂肪は内臓脂肪だったこともあり体重が落ち体形の変化も早かった。
私も痩せだしてはいるが皮下脂肪で高タンパク質低炭水化物になっただけなので痩せるのは緩やかで3ケ月で4キロ減だ。身体がむくんでしまう薬を飲んでいるので病気前の体重には戻れないとは思うが、あと1年で4キロくらいは痩せれたらいいな。
鹿肉にはカルチニンが多く、それが良い影響を出してくれている。脂肪燃焼に初期のアルツハイマー型健忘の改善。
だからと言って生肉の常食を勧めているのではないことは理解してほしい。
O111、O157の大腸菌、サルモネラ菌、カンピロバクター、E型肝炎、冷凍をすれば寄生虫は死ぬがウィルス類は死なない。もし罹患したら命の危険もあり得る。レバーなどの内臓は食べないが、どんな状態で解体をしているか分からない。血や内臓の中身が気付かずに付いてしまっているかもしれない。
私たちはそれでも酵素や栄養を取り逃さないように生食を選んでいる。
サプリメントは、粉末のビタミンC(アスコルビン酸)を炭酸水に混ぜて飲んでいる。果物や野菜がもっと取れれば良いのだけれど、今はまだ少しずつだ。
その一方ラーメン大好き夫君で寿司もピザも蕎麦も甘い菓子もしょっぱい菓子も食べることが出来ず、コーラ大好きだったのに飲めず、ドレッシングや焼き肉のタレなどの調味料にも使われている砂糖に怯え、食事の楽しみを奪われてしまっているのも事実なのだ。
どうやら酒やビールもダメなようで、そんなに飲む夫婦ではなかったが、刺身や焼き魚には日本酒を、良いソーセージにはオランダビール。そんな楽しみが共有できなくなったのは残念なことだ。これは、夫にとって精神的なダメージが大きかった。鬱が強くなってしまうのも仕方がない。
さて、夫の夜食でありデザートのクリームチーズに干しブドウを散らしたものを出そうか。もっとデザートになるものが増えれば良いのだが、この間のディーツはダメだったようだ。
しかし長い目で見れば、心身ともに寿命が延びたのは間違いないので、
「ねえ、嫁ちゃんさぁ。俺、思ったよりも長生きできそうだよ」
と自ら生きようとしてくれているのが何よりも嬉しい。
身体が健康に近づいても、片目の暗闇が治ることはない。
残ったもう片方も同じ病気で中心から見えなくなっている。あと何年かで両目が見えなくなり、視野の端っこだけの世界になる。
生き難い未来であることは変わらず光は消えつつあるが、別の問題には光明が差しているのだと信じたい。