妻編
私は化学物質過敏症だ。
肌に着くものには気を付けなければならない。
宅配物の段ボールを片付けていると、インクで腕が赤く被れる。
新品の家具を買うと、目や肌がチクチクとしだして腫れだす。
良く分からないが、お腹も下す。
顔などはちょっと大変だ。
ホテルのアメニティーサービスや試供品など使おうものならば、顔がバスケットボールになっちまうよ。旅行には自分用のものを全部用意しなければならない。
湿疹が出て腫れあがり目も明かない。頬も鼻の高さまで腫れあがり、表面ボツボツで血膿が出るCMではお肌に優しいと謳っている有名メーカーの試供品でなったから驚いたものだ。
基本、基礎化粧品は手作り。
化粧水、保湿オイル、乳液。ハンドクリーム。石鹸。などかな。
化粧水は炎症止めのドクダミのチンキとアルコールに抽出したものをチンキというが、他にもヨモギやローズマリー、ラベンダー、ソウハクヒやユキノシタなどのハーブや漢方も漬けている。卵の薄皮のチンキは手作りヒアルロン酸である。
グリセリンは毛穴が目立つような気がして使わなくなった。保湿には馬油とシアバターを使う。ホホバオイルはカバー力が年齢的に足りなくなってきた。
オイルは安い米油で事足りている。米油に乳香と没薬を長年漬けこんでいる。肌の若返りに効果があるのだそうだが、どうだろうか。
蜜蠟とひまし油のリップクリーム。色付けには雲母を使う。そんなに色はつかない。ひまし油がグロスのような光沢を出してくれる。
石鹸も作っている。苛性ソーダは劇薬なので薬局で購入の際は印鑑が必要だ。石鹸を作り出したのは25年前だが、その時には使用理由の記入に「石鹸づくり」と書くと奇妙な顔をされたが、今は普通になったようで記入した紙を無言で受け取ってくれている。
材料の油を色々と選ぶのも楽しい。基本はオリーブオイルで固めるパームオイル、泡立ちのココナッツオイルで作っている。
レッドパームオイルを配合するとカロテンが入っているので手荒れの傷に効果があるうえ鮮やかなオレンジ色になって綺麗だ。
ナッツのオイルやアボカドオイル、ホホバオイルなど高価な油も使ったが、自分で使うものは基本に落ち着いている。
油に対する苛性ソーダは鹸化率を下げているので、石鹸を使うだけで石鹸にならなかった油が肌に潤いを与えてくれる。
香り付けにはエッセンシャルオイルを使う。今は猫を飼っているので香りは付けられない。ハンドクリームは猫が舐めるので、体に危険はないが舐める気になれないもの、として白檀を少量混ぜている。舐めるのがなくなったし、私も柔らかい香りに包まれて気持ちがいい。
以前は練り香水も作っていたのだが。今は作っていない。猫にとって害のあるものがエッセンシャルオイルには多すぎた。
朝はローズマリー、パチュリー、ゼラニウム、グレープフルーツ、ローズウッドでスッキリとしながらも気分が華やぐ香り。
仕事などで気合を入れる時は、ローズマリー、ミント、オレンジの組み合わせ。
夜はラベンダー、白檀、イランラン、ゼラニウム、マジョラムスィート、パロマローズ。
頭痛の際は友人の台湾土産のユリのオイルをこめかみに塗る。
友人にも好評だったし、気分を変えるアイテムだったので使えないのを少し残念に思う。
シャンプーは調べて作っても、私の剛直で量の多い髪には合わない。何とか刺激の少ないシャンプーで間に合わせていたが、とうとう湿疹が酷くなってしまったので洗浄成分で洗うことを諦めた。
ならばと方向性を変える。重曹を溶いたお湯で頭皮を洗う。そして、クエン酸でリンス。濯ぎはしっかりと。タオルで水気を拭いている状態で保湿オイルを少量髪に馴染ませる。これで髪もしっとり落ち着いてくれる。シャンプーやリンスに比べて濯ぎが楽なのも良い。
歯磨き粉も通常のは使えない。重曹を使った手作りの歯磨き粉というのも書籍であったが、重曹を長い時間、口に含むのは結構つらいものがある。なので、市販品で妥協。幼児用のジェル歯磨きだ。泡が出ないから長く歯を磨ける一方、フルーツ味で歯を磨く違和感に未だ慣れない。
後は食器洗いはゴム手袋必須。衣類の洗濯は洗剤少な目、洗い時間多目、柔軟剤限りなく少な目。
掃除はゴム手袋で重曹にクエン酸、セスキ炭酸ソーダでOK。
市販品が一切無理だったのが日焼け止めだ。
仕方なく調べて作る。私のお気に入りは、シアバターを主体に非ナノ(ノンナノ)酸化亜鉛にシアバターを緩める米油。ココナッツオイルが日焼け止め効果があるのだが、石鹸を作る時しか使わない油なので、いつでもある米油を使っている。シアバターに日焼け止め炎症止めの効果あるし、光を散らす酸化亜鉛を使うので十分な効果がある。
溶かして混ぜれば良いだけなので簡単なのだが、屋外に長時間いる時以外は使っていない。炎症止めの化粧水をたっぷり付けることで済ませてしまっている。
化粧オイルに炎症止めや抗菌の効果のあるエッセンシャルオイルを入れて可愛い小瓶に入れるとプレゼントにもなる。
それにバスソルトかな。ハイビスカスで色を付けると可愛いピンク色。濃く煮出したハイビスカスを粒の荒い塩に(岩塩でもOK)混ぜてレンジでチンを繰り返す。
ハイビスカスの煮汁が底に溜まらず満遍なくいきわたり塩が乾いたら、グリセリンに数滴混ぜたローズとゼラニウムのエッセンシャルオイルを加えて再度混ぜ混ぜ。オーブンの天板などに広げて一晩乾かしたら百円均一の瓶に入れてリボンを結ぶ。可愛いピンク色のバスソルトが出来上がる。他にもラベンダーを煮出せば薄紫に出来上がるし。
手作り石鹸は香り付きが喜ばれる。パームオイルをレッドパームにしたオレンジ色の石鹸にはジンジャーとスィートオレンジにローズウッドの香りが合う。油紙に包んで麻ひもで小包つつみをする。その三つを籠やアルミの缶に入れれば見栄えもよし。あくまで手作りが大丈夫な親しい人に限られるけれどね。
他にも彼氏に髪をセットするミストとかも作ってあげた事もある。
使っていたミストが終わるころだな~と思って、アルコールに精製水、少量のグリセリンにミントとローズマリーのエッセンシャルオイルを入れてよく混ぜる。
彼氏は中身が変わった事にも気づかずに使っていたから、使用感は買ったものと、さほど変わりはなかったのだろう。
意外になんでも作れるものだ。
そして思った。CMとかでやっている「自然派」「ボタニカル」「天然素材」「自然由来」「優しい」の言葉のなんて意味のないことか。
冠婚葬祭以外、化粧はほとんどしないので、化粧焼けもなく、肌の状態は良い。肌荒れも傷の治りも保湿が良いので、見た目の肌年齢は若いようだ。シミもシワもないと何も言っていないのに言われるのは事実だろう。
全身の肌が膿み、心も疲れ切ってしまったときは、一切洗うのを諦める。
湯舟に塩化マグネシウムをカップに一つ、重曹を大匙1杯を入れてグリセリンに溶いた白檀を少し。
その湯船にゆっくりと浸かると、抗菌と抗炎症作用、グリセリンの保湿効果、体温が上がり代謝も良くなり肌の治りも早くなるのだ。
そしてぬるい湯で身体を流し、馬油をそっと塗る。肌に触れるのさえ痛むときは、かけ湯にオイルを落とし頭からかぶる。
最後に睡眠時間を多めにとれば、なんとかなってきたのである。
うふふ。お金をかけなくても、多少の手間で良い肌の状態を保てている。
肌が荒れ、膿んだり湿疹が出ると心も荒むが、今の私は勝ち組なのさ。
と自分を褒めてやるのも手作りには大事なことなのだ。
どうしようもないことがある。
なんで?どうして?
答えが出ない。
何が悪い?
考えてもしょうがないことがある。
肌と向き合う時間は、自分を慈しんでいる時間なのかもしれない。