第8話 婚約破棄ケース3~泥棒3姉妹の追い払い方③~
リーフィアが時間と背景に干渉する魔法を解くと、時間はいつも通り動き出した。周りの背景も人間も元の場所に戻った。
次に、リーフィアはロゼルに掛けられた魔法を解く。
「記憶よ、音色を響かせよ」
魔法を解かれたロゼルは、手で頭を抱えながら言った。
「……リーフィア、すまない。俺はまたキミに……」
ロゼルは114回目のお約束を口にする。
「ロゼル、私は大丈夫。今日のロゼルの反応も新鮮だったわ」
「……そうか。それで、この目の前にいる3人は?」
ロゼルは爽やかに聞いた。
ロゼルには目の前にいるこの3人が、どういう目的でシューヴェルツ家に来たのか簡単に推測できた。その上で、敢えて聞いた。
しかし、リーフィアは沈黙した。正確には、どうロゼルに説明していいのかを迷っていた。
リーフィアは、婚約破棄を仕向けた令嬢たちの末路を、詳しく調べた事はない。ただ、ロゼルがその令嬢たちに報復をしているのではないか、という想像はしていた。
改竄された記憶が戻ると、いつもロゼルはどこかへ消える。
朧げな記憶と頭を抱えながら、フラフラと歩いていくロゼルの後姿を、リーフィアは黙って見つめるだけだった。
報復や処罰をロゼルが行っているとしても、リーフィアにはそれを追求する権限はない。水面下ではない出来事は全て、男が決めるのが貴族社会だからだ。令嬢は表舞台には上がってはいけない。
例えロゼルが優しくても、甘えてはいけないのだとリーフィアは一線を画していた。
言葉にする事ができない代わりに、リーフィアはロゼルの袖を優しく掴んだ。
「リーフィア?」
そこへ一部始終を見ていたアデルがやって来た。ロゼルの腕を強引に引っ張ると、リーフィアは仕方なく袖を離した。
2人は少し離れた場所へと移動する。アデルはロゼルの耳元で何かを話していた。
リーフィアはロゼルから3姉妹に視線を移すと、アイリスの妹たちの様子がおかしい事に気が付いた。
「ア、アイリスお姉さま……。私、怖い……。もう何も……ううっ」
「ミア、泣いちゃ駄目。ニーアムも……が、我慢する……うっ」
「大丈夫よ、2人共……」
生意気な事を言っていたミアとムーリエだったが、先程の勢いはもうなかった。アイリスの言葉も空しく、終いには泣き出してしまった。
「「うわぁぁーん!!!」」
その声は庭園中に響いている。ロゼルもアデルも驚いて、声の方へ駆け付けた。
ロゼルが声を掛ける前に、アイリスがロゼルの前へ出て、こう言った。
「先程のご無礼をお許しください。私、アイリス・サーライトと申します。妹2人には罪はありません。処罰でも何でも聞き入れますから、どうか妹たちには……」
「マルクス・サーライト男爵の娘か?」
「はい」
「最近母親が亡くなったそうだな。程なくして男爵は後妻を迎え入れたとか。金遣いもいびりも酷いそうじゃないか。それで居場所を追われたのだな? 俺からマルクス・サーライト男爵に釘を刺しておこう」
「えっ……」
「それから、良かったらシューヴェルツ家に来ると良い」
ロゼルは、ミアとニーアムの目線と同じ高さまで視線を下げた。
「シューヴェルツ家の女中として働くか? リーフィアの話し相手と世話をしてくれると助かる」
ミアとニーアムは、目をぱちくりさせて大きな声で返事をした。
「「やる!!」」
「アイリスも頼めるかな?」
「よろしいのですか? ううっ、はい。喜んでお引き受けいたします。ロゼル様、あ、ありがとうございま……うっん……す」
3姉妹は、互いに抱き合って泣いている。
リーフィアは114回婚約破棄を言い渡されたが、こんな終わり方は見た事がなかったと目を潤ませて笑った。
「ロゼル、ありがとう」
「いや、俺が出来ることはこんなことくらいだ。リーフィアにはいつも迷惑をかけているから、こんな時くらい頼っていい」
「でも、俺のおかげでもあるけど?」
2人の間をアデルがひょっこり割り込んだ。
「そうだな、アデルがマルクス・サーライト男爵家について情報を教えてくれたのが、役に立った」
「そうなの? アデルったら興味なさそうな振りして、夜会ではちゃっかり耳を澄ましていたのね」
「たまたまだよ」
フイッと顔を背けたアデルの耳は赤かった。それに気付いたロゼルとリーフィアは肩を揺らして笑った。
そんなリーフィアの前に、小さな影が2つ並ぶ。
「あ、あの……」
おずおずとした足取りで、ミアとニーアムは口を揃えて言った。
「悪口言ってごめんなさい」
「意地悪言ってごめんなさい」
リーフィアは、2人の小さな魔女令嬢に敬意を表し、目線の高さを下げた。
「……自分の罪を認めて謝れる、それはすごい事よ」
庭園に穏やかな風が戻ってきた。今日は絶好の紅茶日和。
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